第一話:記憶の祭壇《10》

 日比谷三角にある自室に戻ってきた頃には、既に夜になっていた。

 双子は帰った後だ。

 二人は包帯の取り替えに明日も来ると言いつつ、迎えの車に引っ張っていかれた。

 あの二人なら絶対に来るだろう。


「ふう……」


 そのままパジャマに着替える。

 今日会ったあの人と二度と会う必要がありませんようにと、祈りながら。

 人殺しは気が進まない――


 クッションでヘバってるニュートのご飯を用意して上げてから、テーブルに置いた紙袋を開けた。

 こっちは、ラヴォワールのマスターから差し入れてもらった僕のご飯だ。

 中に入っていたのはトウモロコシ粉の焼きパン。

 それを白い乳酸菌飲料で流し込む。令和にもある製品だけど、大正のは水で薄めないタイプ。

 味も少し違うかな……これはこれで美味しいけどね!


 ニュートも同じく、マスターから差し入れてもらった猫用ご飯だ。

 この時代では残飯が普通らしいんだけど、猫に塩気の強い物は食べさせられないからとお願いして作ってもらった。


『瑛音、今回の件でイース人から連絡が来ている。ゴクロウ=ゴザイマシタ――と』

「翻訳アプリは何を使ってるの……」


 ニュートが肩をすくめた。猫の骨格でそれができるのは、おそらくニュートだけだ。


『明日からは『本』を運んだと思われる船を追おう。確か、カイロン商会が所有していた快速船アラート号だったかな。まずは横浜から当たる』


 もくもくと猫飯を平らげたニュートが重々しく告げ、水を飲みに椅子から降りる。

 僕は答えず、手の中でゴロっと乳酸飲料の瓶を回した。

 褐色の瓶を包む包装紙は令和とは逆で、青地に白い斑点となっている。


『どうした?』

「労ってもらえて嬉しいんだけどさ……それよりイース人たちに言っといてよ。帰還なんとかしてって。もう一年以上も大正時代っぽい異世界に島流しだよ!」

『むう……』

「四大級の旧支配者たちも活発に動き始めてる。信者たちも半端ないんですけど。中にはて心臓握りつぶせるんだよ、魔力だけでさ! そんな奴の相手を令和のフツーの人間にさせる気じゃないよね!?」

『にゃあ』

「うがー!」


 誤魔化そうとしたニュートをひっくり返すとお腹を吸う。くかくか!

 ニュートが猫前足で顔芸を押し返した。


『伝えはしている! まあ、気長に待ってくれ』

「ちゃんとね! イース人はタイムトラベルと転生が普通の種族だから、説明しないと僕が困ってると思わ……目を反らすなー!」

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