第62話 勇者たちの話


 太郎が城下でポーターをやっていた頃、勇者達は基礎的な訓練を受けていたという。


その後は、演習という名目で盗賊や魔物との実戦に投入された。人や魔物を手にかけることは、精神的にかなりしんどかったという。

特にユナには耐えられず、聖女だったこともあり最初は回復や怪我の治療など中心に熟していた。


半年以上過ぎた頃、訓練が終了したとして王から3人に身体強化を助けるという魔晶石の付いた腕輪を下賜された。

丁度、太郎が国外逃亡を謀った頃だろうか。


しばらくは、実戦として騎士達と行動を共にし、力をつけて欲しいと言われた。その頃から、ユナも含めて魔物や盗賊の退治に何も感じなくなっていた。

「今になって考えてみれば、おかしかったのよね」


それまでは、休日も与えられ城下にも少しは遊びに行けたのだが、実戦以外は城から出られなくなった。だが、それを疑問に思ったり城から逃げだそうとは思えなくなっていた。


転機が訪れたのは、ある施設の護衛にかり出されたときだった。そこで、サイザワさんに会ったのだという。

「あんた達、異世界からの召喚者かい」


彼女に腕輪を砕かれたことによって自分達の状況を理解できるようになり、サイザワさんに導かれて逃げ出したのだという。


「元とはいえ、倒すはずの魔王に助けられたんですよ。皮肉ですよね」

「あの人は、規格外だ。俺たちなんて、足元にも及ばない」

「すごかったよね。兵士の人たちをあっという間に片付けちゃって。


それがすごくいい笑顔で相手をのしちゃうのよね。

あの人は、いつもそう。最前線で戦うの、どんな時も。

配下の人たちもいるけど、自分が戦わないっていう選択はないみたい。戦闘狂いバトルジャンキーかと思うぐらい」



「なんか、大変だったんだな」

「サイザワさんから、太郎さんの事は聞いていました。王城では貴方は死んだことになっているけど、きっと上手く逃げたんだろうと言っていました」


太郎は逃げたときの話をした。トランクルームの支店を使ったことは、話さなかった。太郎にとっては、奥の手になる。その部分はやんわりと誤魔化し、トランクルームを貸し出せる事など、周囲の人間が認識している範囲内の話をした。


万が一、彼らから誰かに漏れるのは、避けたかったからだ。


イサオ達は、あまり突っ込んでは来なかったので助かった。それよりも、白金のもつ虚空情報アカシックレコードの方が食いつきが凄かった。そちらのほうが、気になったんだろう。


「いや、未来や過去などは判らないって。だから予知とかもできない。わかるのは、モノについての情報だけだよ。あまり複雑なモノや高度なモノは、レベルによっては判らなかったりするけど」



「あー、それで元の世界に戻るという話なんだけど、召喚陣はその地に宿る魔力マナで起動すると言われている。それで、本来はもう起動するほどその場に魔力マナが無いらしいんだ。オレ達が呼ばれた時点ですでに枯渇してたんじゃないかと、サイザワさんは言っていた」


「それじゃ、その方法を調べないといけないんですね」

ケンジは考え込んだ。

「調べるのは、あっちで色々とするという話だ。サイザワさんが壊滅させた邪教徒の資料とかに手がかりを探しているって。サイザワさんの関係者の人達が。

まあ、俺の方でも調べるから。最善の方法を考えよう。


それでサイザワさんに頼まれたんだが、君ら、しばらくこっちで寝泊まりするようにって。まあ、うちの仕事をしばらく手伝ってくれるかな。

アルバイト料は、それなりだけど出せるよ。三食もつける。部屋が領主様のところよりも良いかどうかは判らんが。

で、魔物狩りが出来るならば、店番よりもアルバイト料は多く出せる」


「え、その話、本気だったんですか」

帰還する話は中途半端だが、アルバイトの話になった。


太郎は、サイザワさんから3人の話をそれなりに聞いていた。

隷属の腕輪のおかげで、かなり色々なことをやらされていたらしい。まあ、聖女は処女じゃないと駄目だという話だったらしく、そちらの方は問題が無かったらしいんだが。


腕輪を壊しても記憶が残っていて、それがかなりのトラウマになっていたという。それで、一時は3人とも大変だったらしい。そこである程度、精神操作を施しその辺りは記憶や実感を曖昧にしているという。


元の世界に返すときは、彼等の記憶をある程度封印する事も考えているとサイザワさんが言っていた。

(普通の高校生に、人殺させたりしたんだもんな。色々とトラウマもんだろう)


そうは言っても、この世界にいる限りある程度の魔物は狩れた方が良い。それに対する忌避感は男二人は問題ないようになっているという。

だが、ユナは拒否反応が大きすぎるのでそうした事はタブーにしているという。


3人はこの国に来るまで、ずっと気を張り詰めたままだったようだ。王国から脱出したとは言え、それ以後はずっと魔王様と一緒だったわけだ。

それで、しばらく気分転換に太郎の元で、普通の生活をさせてくれないかとお願いされたのだ。


サイザワさんも、まだしばらくは色々と用事があるという。スフェノファの件はすぐに取りかからなければいけない事でもない。だから、短い間だけでも気分的にほぐれるような時間を持たせたいのだと。



ギルドに併設されている貸倉庫屋部門は、1階建てからギルドの建物と一緒の3階建てになった。本店になった時でもまだ1階建てのままだったが、レベルアップを受けて一気に3階建てまで増築された。


一晩での増築だったのだが、誰も何も言わなかった。なんだろう、みんなの目が生温かった気がしなかったでもない(実際に周りは、何が起きても、もう気にしないと思っていたのだが)。


上の階には、2階には会議室などが入っているが、3階は従業員の個室として利用できるようになっている。シルヴァは相変わらず1階の部屋を利用している。


それで、3人はこの3階の部屋を使うことにした。個室、バストイレ付き、一番喜んだのはユナかも知れない。


「うわ、領主様のとこよりもこっちの方がいい」

アメニティグッズや部屋の作りや設備など、なんか気に入ったらしい。

そうしたものだけでなく、なんでも、部屋に一人で居ても人の気配がして嫌だったそうだ。


監視用の魔導具とかが置いてあったのを、知らずに感知してしまっていたのだろう。部屋の質は、こちらの方が良いとは太郎には思えなかったのだが、充分だったみたいだ。




*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*--*-*-*-*-*-*-*-*


おかげさまで100万PVを超えました。★ももうすぐ4000になります。


これもひとえに読んでくださっている皆様のお陰です。

ありがとうございます。

m(_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る