第61話 久々の再会は、お互いに気まずい

 スタスタと歩くサイザワさんの後ろについていった。

案内された部屋に入ると、中にはお茶をしていた3名がいた。


ゆるふわヘアのワンピース姿の女の子、ゴツく体格の良い青年、細身で眼光鋭い先日会った賢者君だ。


太郎達が部屋に入ってくると、ワンピースの少女が、こちらに見入っている。

(デスよね。白金はこういうの、外さないからな)


かつては太郎にも、自分に向けてなのかなと勘違いした時期が僅かながらにもあった。遠い日のことだが。今は、そんな勘違いなどはしない。


「ハーイ! 連れてきたよ」

サイザワさんは変わらない。


一度は会ったいるとはいえ、ほぼお互いに認識しあえていないので、自己紹介からということに。


「大高勲です」

「高村祐奈です」

「近藤賢治です」

3人は名乗っただけだった。

緊張しているようにも見える。先日、サイザワさんと一緒にいたのは、近藤君だった。ということは大高君が勇者だろう。


「どうも、山田太郎です。で、こっちが」

「アシスタントの白金です」

高村さんの目が、輝いている気がする。白金は、相変わらずにこやかに一礼した。


「アシスタントっていうことは、山田さんが雇っているんですか? 」

「まあ、そんなとこだね」


高村さんが白金の話に食らいついた。だが、太郎は此処でそんな秘密の話はしたくない。今はどこで誰が聞いているか判らないからだ。直ぐそこに、護衛の人も立っている。


初対面に近い4人は、殆ど会話らしい会話がなく、途切れた。会話が弾む理由が無い。


「タロウくんは、召喚の書の収納にOKをくれた」

サイザワさんは、話が続かないのを幸いとして話始めた。


「それで、スフェノファにはタロウくん達だけでなく、君ら3人も行くことになったから」

「えっ、オレ達ここかグネトフィータで待っているんじゃなかったんですか? 」

彼等は、スフェノファでは追われる身だ。それで、そういう予定を立てていたのだ。


「君たちを置いていくのは、難しくなったのよ。状況が変わるなんてよくあることじゃない。

それで、私はもうちょっと色々と事後処理をしないといけなくてね。


タロウくんと君らだけでスフェノファに行ったら、すぐに捕まっちゃいそうだから、こちらの仕事が終わるまで待っていてほしいんだけど。

あと、報告しに母国にちょっと行ってこないと行けないのよね。面倒だけど」

「それは、いいですけど…」

3人は戸惑い気味だ。


「で、その間、君らヒマよね。それで、タロウくんに提案なんだけど、彼等を使ってみない? 」

「はい? 」

「ダンジョンとかでもお店開いているって聞いたわ。ダンジョンに行くのに、彼等を使わないかって話なんだけど、どう? 」


結局、太郎は3人を連れてギルドに向かうことになった。太郎の職場見学に連れて行ってくれという話になったからだ。


お互いに呼称をどうするかという話になって、タロウ、イサオ、ユナ、ケンジと呼ぶことになった。大体、ここら辺では名字で呼び合うことはないためだ。太郎も、今更山田さんと呼ばれるのも変な感じがするので。


「ここが、探索ギルドだ。で、ここの奥で貸倉庫屋を開いてる。こっちから入ろう」

ギルドの正面からではなく、貸倉庫屋に直で入れる入り口の方から中に入った。


「お帰りなさい、えっと後ろの人は、お客さんですか? 」

店番をしていたシルヴァが、太郎達に気がついて声をかけてきた。お客は相変わらずいなかった。


「そんなもんだ。後で紹介するから。

その前に、ちょっと奥に行ってる。白金、受付に入ってくれるか。シルヴァに話しといてくれ」


道中、白金に話しかけたがっていたユナは、微妙に外されて何も話せないでいた。それもあって、太郎が白金を受付に回して、自分達を奥に通したのがちょっと残念そうな顔をしていた。


店の奥にある休憩室には、自動販売機がある。それぞれ好きな飲み物を選んでもらって、飲みながら太郎が説明することになった。テーブルの片側には3人、こちら側には太郎が座っていた。


「この場所では、誰かに聞かれるって事はないから。気にせず話しても大丈夫だ」

最初にそう断って


「まずは、3人とも元の世界に戻りたいということで良いのかな」

太郎の問いに3人とも頷いた。


「俺、最初にこの世界に来たときは、勇者だっていうんでテンション上がってたんだけど。色々あって。

サイザワさんに会って、本当のこと聞いて。もう、こんなとこ嫌だ」

イサオは再会してからテンションがずっと低いままだった。


「私も帰りたい。こんな生活は嫌。魔物が出たり、退治したりなんて、もう嫌なの。それに、スフェノファの不便な生活は、うんざりしてる。

この国に着いて生活環境は良くなったけど、もう家に帰りたい。

スフェノファにまた行かなくちゃいけないなんて、嫌! せめて、この国で待たせてもらいたい」


「その件なんだが、召喚陣については、あの場所でないと戻れないんだ。俺が収納して、移動させたら、俺達は元の世界には戻れない。

スフェノファのあの場所にもう一度行かないと、戻れないんだよ」

二人は、押し黙った。


「なぜ、その事が判ったんですか? サイザワさんは召喚の書を持ってくれば、可能かもしれないと言っていましたが」

ずっと黙ったままだったケンジが口を開いた。


「ああ、それな。実はあの場では言わなかったが、白金は俺のスキルのアシスタントなんだ。で、あいつが虚空情報アカシックレコードにアクセスできてな、その結果だ。だから間違いないと思う」


「え、白金君って、人じゃなかったの…」

戸惑うユナとは別に、ケンジが前のめりになって、


「凄い、虚空情報アカシックレコードにアクセスできるなんて。トランクルームって一体どんなスキルなのですか。

白金さんはトランクルームのアシスタントってことですよね。

太郎さんも虚空情報アカシックレコードにアクセスできるんですか。


実は、先日お会いしたとき、失礼とは思ったんですが僕は鑑定で太郎さんを見ていたんです。でも、まるで見えなくて。


ここに来て1年半以上経ちますが、僕らだって随分レベルが上がったと思っていたんですよ。太郎さんは魔法とか武術系のスキルはもっていませんでしたよね。一体、どうやってレベルを上げたんですか」


太郎にぐいぐいと詰め寄ってくる。どうもあれは睨んでいたのではなかったようだ。

「ケンジ君。落ち着こう。話すから、話すから」

迫ってくるケンジの両肩を押さえて、椅子に腰掛けさせた。


「まあ、お互い状況確認でもしようか」

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