第60話 触らぬ神に祟り無し
その2日後、約束した館に太郎は出向いた。役所から近い場所にある領主の別館だ。現在、サイザワさん達が滞在している。
「タロウくん、来てくれて嬉しいよ」
相変わらずニコニコして、サイザワさんは出迎えてくれた。
「結論は出たのかな」
応接室に通された。差し障りのない挨拶と会話を交わし、淹れたてのお茶を嗜みながら、サイザワさんが切り出した。
「幾つか、確認をしたいんですが」
「いいよ。気の済むまで、確認して」
太郎はちょっと言い淀んでから
「サイザワさんが今回の件に関わったの、本当に偶然なんですか」
サイザワさんは満面の笑みを浮かべて
「最初にその質問かい」
「いや、タイミング良すぎるんで」
「半分は偶然だよ。時期的に考えると、良い時にここに来たと思う。でも、此処に来たのは、トランクルームの噂だよ」
太郎はため息を吐いた。
「そんなに気にしなくても大丈夫だよ。スフェノファの王家は君は死んだと思ってる。トランクルームの噂は、この国といってもダチュラを中心にした範囲ぐらいだし、レンタル収納みたいな話だけだったよ」
「そうですか」
「でも、話を聞いて気になっちゃたんで、ダチュラに寄ってみたんだ。お陰で長年の問題が解決して、めでたしめでたしだ」
どうも、太郎の影を感じてこの街に来たのではと、思っていたのは間違いないらしい。依頼の件を考えてのことだったのかもしれないが。
気分を切り替えて、話を進めることとした。
「わかりました。それで、今回の依頼の発注者は、誰ですか」
「私だ。国は関係ない」
「理由をお伺いしても」
「理由は2つ。第一の理由は、この前話したとおりだよ。3つのうち2つはなくなったんだ。召喚の書も処分したほうがいい。そう私が思ったからだ。
もう一つは、少々話が長くなるけどいいかな」
「構いませんよ」
今のスフェノファの王家は、召喚の書を受け継いだ王家ではない。内戦があり、国は2つに割れた。スフェノファとコニフェローファだ。かつての王家はもうない。
二つの国はそれぞれ、自分が正当な王家の血を引くと主張はしているが、内戦により王家の血筋は絶えたという。
召喚の書が封じてあった場所を、混乱に紛れて召喚の間に変えたのは、邪教徒だという。それを現王家が奪ったという噂だ。
だが、スフェノファは元々
元々少ない土地の
「何らかの方法を見つけたんだと思う。だから、玩具を取り上げたほうが良いと思う」
「そうですか。でも、なんで俺のトランクルームをご指名なんですか? 」
「君の能力が、ぶっ壊れだからよ。君は、封印されている召喚の書を収納できるだろう。そんな収納能力、他にはいないわ」
「はあ」
「私はね、鑑定は持ってないの。持っているのは、“暴き見る眼”。鑑定ではレベルが自分より高い人間のステータスは見えない。でも、この眼は見えるの。その能力の可能性も判るのよね。まあ、見るのには、えらく魔力使うんであんまり使わないんだけれどね。
本人に自覚はないでしょうけど、貴方のそれ、ヤバいわよ」
ハートマークが飛んできそうな清々しい笑顔で、そんな事を宣う。太郎はため息を付いた。
「いや、私もこうなるなんて想像もつきませんでしたよ。あんな事がなければ、もっと違ったかもしれませんが。生きた魔物を収納しすぎたんですかね」
「そうねえ。あなたがイチローくんだった頃は、もっと可愛いスキルだったものねえ。
久々に会った時、ちょっとびっくりしたわ」
太郎はもう、笑うしかなかった。
「召喚の書は、古き封印によりあの地を離れられないはずなんだけど。
あの召喚の間、その封印ごと、あなたなら収納できるでしょ」
太郎は、大きなため息を一つ。
「実は、私の伝手で判ったことなんですが、私たちが自分の世界に帰るには、あの召喚の間のままでないと出来ないそうです。それから、召喚の間を使って逆転送することで、多分召喚は出来なくなると思います」
「ふう~ん」
サイザワさんは、頬に手を当てて小首を傾げて、太郎をじっと見た。太郎は嘘はついていないのだが、少し緊張している。何もかも見透かされそうで、なんだか落ち着かない。
「ようは、召喚が使えなくなればいいのよね。それでもいいわ」
ニンマリと彼女は笑った。
「それじゃ、3人に会ってみる」
「そうですね。取り敢えず、顔合わせをしますか。白金を呼んでも? 」
「モチロン」
護衛に案内されて別室に控えていた白金がやって来た。サイザワさんは、白金を見て、
「前回は殆ど話せなくて、残念だったよ、白金くん。私のことはサイザワと呼んでくれる」
「白金です。タロウが大変お世話になりました。私からもお礼を言わせて下さい。ありがとうございました。お目にかかれる機会を与えていただき、感謝しております」
白金に握手を求めた彼女が、不吉なことを宣った。
「いや、礼儀正しい、良い子だね。私も君の様な良い子に会えて嬉しいよ。
君達は領主館で話題の的だったよ。自分達が取り逃がしたダリアをアッサリと捕まえただろう。しかも、タロウくんは、ダンジョンで大活躍だ。
よっぽど悔しかったのか、領主の軍部が君等がダリアと繋がってたんだと主張してね」
入ってきた護衛がその言葉に、怯んだ。
それに気づいていないかのように、
「君等を捕まえるべきだと主張してね。タロウくんは、有能だから囲いたかったんだろうね。でも、大丈夫よ。私がちゃんと二人は関係ないと言っといたから。
君ら有能だから犯罪人にしてギルドから離して、自分とこで囲いたかったんじゃないのかな」
険しい顔になった白金の頭をポンポンと軽く叩いて
「ま、なんかあったら言ってねえ。先代とはいえ私は魔王だったからね。アクシデントで、途中交代なもんで、力はありあまっているから。歴代最強とも言われてたし。
この領地ぐらいだったら、直ぐに更地にできるよ。君等に手を出すということは、私の言い分を無視したと言うことだから。領地を更地にする決心がついたという事になるよね。
それに、この場所に手を出さないという制約はもう無いしね」
そう言って、護衛の方を見た。護衛は思わず姿勢を正した。
「我々の会話にも聞き耳を立てていたようだが。随分と舐めた真似をしてくれる。まあ、白金くんが来る前の会話は、一言も聞こえなかっただろうがね。領主の耳にも入れておく」
部屋にあった備品の幾つかが灰になった。何か仕掛けられていた物だったのか。
「さて、では3人の所へ案内するよ」
太郎達に向けたのは、いつもの笑顔だった。
(オレ、絶対サイザワさんは怒らせない)
太郎は固く決心した。
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