第59話 シルヴァ、出世する?


 翌々日の夕食が終わった時に、太郎が宣言した。


「シルヴァ、お前を名実共に支店長としたい。これは決定事項だ」

「なんですか、藪から棒に」

シルヴァは、突然の太郎の宣言に面食らった。ダンジョン支店を任した、とダンジョンから戻った際に改めて言われたばかりだ。


「お前には、ダンジョン支店を任せるという話はしてたよな。でも、この支店長というのはちょっと違うんだ。この前の魔物騒ぎでトランクルームが、すっごくレベルアップしたんだよ。


で、新機能が幾つか増えた。その新機能の一つが支店長の任命というものだ。これは、俺が任命した支店長には、俺のトランクルームを任意の数だけ譲渡できるってものなんだ。


俺のトランクルームのスキルを暖簾分けできるんだよ。支店長として譲渡されたトランクルームは、俺と同じように扱うことができる。要するに、同じトランクルーム持ちになるんだ。

ただ、レベルアップはできないからトランクルーム数は俺が追加しないかぎり増えない」


「急に、どうしたんですか。というよりそのスキルの機能って凄すぎないですか。そんな話は聞いたことがない。タロウさんのスキルってなんなんですか」


「それな、俺自身もなんだその機能って思うんだけどな。

だから、これはここだけの話で、秘密にしといてくれ。貸倉庫屋部門の企業機密だ」

太郎はニヤッと笑った。


「それでは、支店長として任命したシルヴァに、ギルドや探索者関連で契約しているトランクルーム4部屋分、それにプラスして6部屋、合計10部屋を譲る。それから支店の店員としてクロークと、もう2人新たにつけるから」


太郎は立ち上がると、座っているシルヴァに近寄り肩に手を置いた。シルヴァは急にそんな風に言われて、戸惑うばかりだ。


「企業機密って。そんな大事なこと、こんな風に話してて良いんですか。

それにダンジョン支店で仕事するのに、そんなにいらないと思うんですけど。

店員も3人なんて、必要ないでしょう。ギルド関連で貸出している部屋を、ダンジョンにいる俺がもってても仕方が無いかと」


「ああ、店員の件はね、実はダンジョン支店をもう一店舗増やそうと思っているんだ。今、10層にあるだろ。20層ぐらいにもう一店舗置いてくれって言われててさ。

ギルドマスターが、魔物が溢れた時にもう1店舗展開していた話を聞いて、店舗増やさないかって言ってきたんだ。

それに先の話だけど、他のダンジョンについても今後検討してもいいかなと。ダンジョンの入り口なら頼めば直ぐに出来るんだけどなあ、中が良いって言われてんだよな」


太郎は自分で言ってて、めげている。またダンジョンの中に入るのが、憂鬱なのだろう。キノコのような発見があれば、喜々として出かけるのに。


「それでも、急に店舗が増えるわけでもないですよね。タロウさんがギルドにいるなら、別に俺に暖簾分けしなくても出来ますよね」

シルヴァは何故急にこんなことを言い出したのか、薄々察した。


太郎は一つ息を吐いた。

「うん。サイザワさんの依頼を受けようと思ってる。そうすると店長が長期間不在になるからな。白金も連れて行くことになるし。

だから、俺達がスフェノファに行っている間、ここの店も頼みたいんだ。店を休業させるのも、なんだし。

それでシルヴァに代理に仕事をして欲しいんだ。支店長と言うよりも、店長代理だな。そのためには、トランクルーム、必要だろう」

「タロウさん…」


「シルヴァに押しつけるみたいで、申し訳ないんだが。引き受けて貰えないか」

「仕方ないですね。じゃあ、タロウさんが戻るまでトランクルームをお借ります」


「や、貸すんじゃなくて譲渡だから。もう渡したから。君のだから」

「え、いつ」

「さっき、宣言したじゃん。数も指定したろ。肩たたいて渡した。確認してみろよ。もう、今日からお仲間だ、お仲間だ。お揃いだ」


「ちょっと待ってください。ギルド関連のも自分の分になってますよね」

「大丈夫、その契約なんかは変更はできるから。でも、今は君のだから。ほら、店に居る人が持ってないと、何かあったら困るよね」

「あんたって人は!」


「シルヴァを雇ってて良かったぜ。長期休暇も取り放題かも」

「何言ってるんですか、仕事復帰したばっかりじゃないですか」


「おう、その間もお前がちゃんとしてくれてたから問題なかったろ。頼りにしてる」

「タロウさん」


「それに、トランクルームや店を通じていつでも出入りできるしな、俺。旅している時もここに寝に帰るつもりだし。時間が合えば、飯もちゃんと作るぞ。それにギルド支店の近くにできたキノコの実験圃場に行ってデータも取りたいし。

でも、長時間の対応は無理そうだ。だから仕事は、任せた」


太郎が笑ってそう言うと、シルヴァは怒ったように

「なんですかそれ、俺のシンミリした気持ち、返せ」

じゃれ合うような二人のやり取りを、白金はあきれたように見て、笑っていた。



 蛇足だが、ダンジョンの騒動の時に、キノコをぶつけられて溶けた魔物達は無事にキノコになった。砂漠の方がサイズが小さいが、味は濃縮されていて美味しい事を確認した。

しかも、今回は冬虫夏草も確認されたのだ。どうも、キノコをぶつけられたがその場では死ななかった連中が、冬虫夏草化したらしい。


そこで、なんとかキノコを虫系の魔物に食べさせるなり、貼り付けるなりして、冬虫夏草化しないかを検討する実験を模索中である。


「キノコ沢山いれたトランクルームに虫系の魔物を閉じ込めてみるか? 問題はどうやって魔物をトランクルームに入れるかだよなぁ」


その実験をやっても、表沙汰にはしないでください。魔物を収納するのは、絶対に人に見られないように、と白金に釘を刺された。


キノコに対する太郎のテンションは高い。

「いや、旨いもんは重要だろう」

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