第4章 ご依頼の件、収納承ります

第54話 太郎、仕事に復帰する


 太郎が仕事に復帰する、その日。

賃貸収納室トランクルームは、太郎が起きられるようになる迄、新規契約ができない。それで、太郎が窓口に出てくると、新規契約で人が並んだ。

前もって太郎の復帰日は連絡しておいたため、それに合わせてやってきたのだろう。貸倉庫屋を開業して、初の忙しさだった。


話は小さくなったが賃貸収納室トランクルームが使えるという噂は、広がっていたのだ。ダンジョンでトランクルームから出てきた魔物たちは、いずれもダメージを負っていた。それはトランクルームの室内環境を設定したためだという話だ。具体的な設定の話は、1日レンタルの利用者からも聞けたという事もある。それもあって興味を持ったのだろう。

収納ボックスとは、本当に違って魔力が高いものの収納ができ、保存するにも色々と設定できると認知され、新規で10組、契約することとなった。


 トランクルームで魔物を収納できるのか? という話は、トランクルームへと送る魔力の問題で、最も効率よく送ることのできる太郎本人でなければ、一時期的にでも無理だという話に落ち着いた。実は試した奴がいてたが失敗し、エライ目に合ったという。

魔物は他の動物とは違い纏う魔力が多く、生きているものは歪んでいるのではないかと言われた。


討伐の時には、スケルトンや腐った死体等の弱めの魔物は出てこなかった。探索者が見たあの魔晶石の山はそれらだったのだろう。弱めの魔物は仕留めたが、強い魔物は環境設定でダメージを受けたとはいえ、殺すことは出来なかった。収納もずっと保持することができなかったために徐々に溢れ出し、探索者達に討たれたと言われている。

それに魔物が収納ができた太郎も、今回の件で使いすぎて出来なくなった、という噂が流れている。



 復帰前日、太郎がギルドの職員さん達に挨拶に行くと、皆さん、今回の件を労ってくれた。奥で魔物の売買などを担当している、いつもぶっきらぼうなアークバさんは回復薬などの差し入れをしてくれていた。そのお礼を言うと

「余ってたんだ。それに、お前さんのクッキーを娘が気に入っていてな」

プイっとそっぽを向いた。素直でない。

「1日レンタルのおかげで、納品の質が上がっているのです。太郎さんに感謝してるんですよ」

コソッと太郎に囁いたのは、同じ仕事をしてるソキウスさんだ。ギルドとしては、品質が向上し、売り上げも上がっているらしい。アークバさんの娘さんにとクッキーの袋とパウンドケーキを渡した。


皆さんにも、クッキーの差し入れをした。これは色々と対応してくれたお礼として配った。本当のところは、トランクルームでお菓子を作りまくり、それを処分するためでもあったりする。最初の一週間は体がだるかったので、寝ていた。だが、その後の2ヶ月と3週間は外に出られないのが辛かった。


白金に頼んで、本を買ってきてもらったり、お菓子を作ったりしていた。鍛錬も続けていた。


それでも最も時間を費やしたのは、トランクルームについてだったかもしれない。レベルが上がり、その機能についてアレコレ試したりもした。


ようやっと、こうして外に出られることは、無茶苦茶嬉しかった。


今日の仕事を締める前に、シムルヴィーベレの5人がやってきた。心配してくれていたという話だったので、顔を見に来たのだろう。

「元気な顔を見れて、ホッとしたよ」


シムルヴィーベレは、あの日は依頼があって街に居なかった。帰ってきた時には、終わっていたため、太郎をひどく心配していたらしい。


仕事復帰初日ということもあり、多少話しただけで帰っていった。


 太郎は喫茶室に顔を出したが、ロイフォ達はいなかった。今日はお休みだそうだ。新しい世話人が決まったというので、クレナータの家にいるらしい。


「へえ、良かったな」

「明日になりゃ、みんな顔を出すだろうさ。元気な顔見せて、安心させてやりな。心配してたからな」

マスターも、元気な太郎の顔を見て嬉しそうだった。



 シルヴァは、久々に会った太郎の姿に泣きそうな顔をしていた。彼にも太郎の本当の体調については秘密にしてあったのだ。だから、無事だとは聞いていたが、姿を見ることはできなかったので、心配していた。その点、白金は妥協しない。


3ケ月ぶりの太郎の作った朝飯を食べながら

「良かった、本当に良かった」

心の底から、喜んでいてくれていたので、太郎は何となく居たたまれなくなった。それもあって、晩御飯は豪華になった。


その夕食の席で、

「結局、聞き取り調査に行くって話はどうなったんだ? 」

シルヴァの顔を見るまで、すっかり忘れていた話を切り出した。シルヴァは、元々の話を聞く前だったので、キョトンとしている。


「タロウが元気になったら、改めて連絡すると言われました」

「なんだ、タロウさんはキノコ以外にもなんか調査してるのか? 」

「メインは、お前さんだ。シルヴァ。ダンジョンの一件で伝え忘れてた」

「え、オレ? 」

漸くシルヴァに伝わった。


そこでわかったのだが、シルヴァには、家への拘りが一切無くなっていた。あれだけ揉めた遺産にも執着が無くなっていたのだ。


それどころか彼自身、言われるまですっかり忘れていた。まるで、夢から覚めたようだ。そして、自分がしてきたことを自覚した。


シルヴァは、これまでの事を迷惑をかけた人々に謝罪をしたいと言ってきた。自分が主張していた事の矛盾に頭を抱え込んでいる。

「オレって、此処まで馬鹿だったんだ」

この中でダリアの能力を知っているのは白金ぐらいだが、それを口にはしない。シルヴァには可哀想ではあるが。


これから、領主側の聞き取り調査など受けることになったらと考えると、今は知らないほうが彼の安全に繋がる。


どちらにせよ、明日には手配してシルヴァはダンジョンから戻るという事になった。色んな意味で、一旦は仕切り直しをしようということにしたのだ。


「オレは、このまま仕事、続けても良いのか」

不安そうにシルヴァに尋ねられたが、

「お前に今いなくなられたら、ダンジョン支店が成り立たなくなる。探索者からも吊し上げられる」

意気消沈するシルヴァを見て、太郎は慌てて、雇用継続を願った。


「俺がダンジョンを離れている間、店はどうするんだ」

「俺か白金が出てるよ。シルヴァが街まで戻ってきたら、こっちから顔出せば良い」

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