第42話 


 ダンジョン1号店がオープンして、2週間が経った。


商品の取り扱いは、ギルドで購入できるポーションなどの薬品類や備品類、喫茶店で展開している食事をパックにしたお弁当などだ。こちらは注文を受けてから作ることになっている。勿論、買取も受け付けているし、物々交換でも取引できるようになっている。


店番は太郎がやっている。とは言っても、実際にずっと店に張り付いてなくとも大丈夫だ。客が店に入ると呼び出しのベルが鳴って知らせてくれるようになっている。店も、カウンターが設置されていて、奥には入れないようになっている。

不心得者がいて、カウンターを乗り越えようとしても、拒絶されるので問題はない。だから、ギルドの方にいる。支店とギルドを行き来できるのは、スキル持ちだからだと説明してある。登録すれば一人だけ太郎のように行き来できるとして、登録は白金になっていると話してある。


 本来なら支店の店番はクロークだが、彼は1日レンタルの作業で忙しい。加えて、ダンジョンの帰りに9層に小規模ながら冬虫夏草のなんちゃって実験圃場を作ってきた。太郎はそこの観測をしたかったという理由もある。


胞子で溶けた魔物の跡に、キノコが生えるかどうかの確認だ。10層への階段の近くに作った。10層の道は、一人ならば魔物よけの香を焚いていれば問題なく通れるようだ。だが、太郎一人で行く事には反対され、観測には白金が同行することになっている。


 ダンジョン支店は、思いの外、利用客が多い。

その要因の一つは、青艶砂虫の依頼だ。アルブム達の丸ごと一匹の納品は、錬金術ギルドに衝撃を与えたらしい。部位によって色々と反応が違うことが判明したとかで、丸ごと一匹の依頼が継続的に出ているのだ。

今までは、他の砂虫同様に、砂地に下半身が入ったまま、頭を落とし、頭と余裕があれば露出している部分の一部を持って帰っていた。その方法では埋もれた部分を引きずり出すのは駄目だったとか。無理して引っ張り出そうとしても、途中で千切れてしまうという。

全身を手に入れたければ、生きたまま引きずり出すアルブム方式が正しいのだろう。


(きっとチンアナゴの様に砂の中の体は、折りたたまれたりしてるんだ)

だから、死んで固まってしまうと、引きずり出せないのだろう。太郎はそう思っている。


まあ、それで無事に全身を手に入れた探索者は、そのまま巻いて背負って支店までやって来る。青艶砂虫はいつ出現するか判らない。1日レンタルを借りるよりも、同じ層に店があるのだから直接持って行けば良いということだろう。店の周囲で釣っているようだし。


それ以外のお客は、下層に入る前に、予備の物品を買っていく。上層へ戻る前に下層の物品を売り払って身軽になっておく、そんな連中が中心だ。


それと、ダンジョンに店を展開してわかったのだが、店の半径10m以内は、安全地帯になった。

そのため、探店の周囲は探索者達の休憩処になっている。そのせいか、喫茶室のお茶やお弁当がそこそこ売れている。思わぬ効果だ。特に、飲み物の消費が激しいのは、砂漠だからだろうか。


喫茶室は開店時間が決まっているため、店の前に大きな時計を置いて、お弁当などの取り扱いの時間を提示してある。

目が回るほど忙しいという訳ではないが、そんなこんなでぽつり、ぽつりと客が訪れる。


いつものように、ギルドの受付で太郎は窓の外をぼうっと眺めていた。

「白金、ちょっと出てくる」

太郎は、そう言ってギルドの外に出た。窓から、ギルドの建物の近くでクレナータの家のシェーボとロイフォの二人が何やら男と揉めているのが見えたからだ。


「すみません。私、その子達の知り合いなんですが、どうかしたんですか」

声をかけてみた。

「タロウさん」

二人は、手招きすると直ぐにこちらに来た。


「なんだ、あんたは。関係ないヤツは引っ込んでいてくれよ」

「いや、知っている子供が絡まれていたら、仲介にたつでしょう。この子達が何かしたんでしょうか」

「それだって、関係ないだろ。俺はその子達に話があるんだ」


「その話っていうのは、私も聞いていいですか。この子達が話を聞いても、判断できないような事もあると思います。この子達にアドバイスできる大人も必要でしょう」


「余計なお世話だ」

「それを決めるのは、あなたではないでしょう。この子達だ」


結局、何だかんだ文句を言ってたが、その男は立ち去った。太郎は二人をギルドの喫茶室に誘った。


「災難だったな。一体、あの男は何で絡んできたんだ? 」

二人は顔を見合わせると、ロイフォがそれに答えた。

「今日、初めてあった人なんだけど。

あの人が言うには、僕らはあの家を出ていかなくちゃいけないって。あの家の正当な持ち主は自分だけど、僕らがいるから、あの家を売れないって」

「ああ、あれが。先代の息子ってやつだったんだ」


「タロウさん、僕達あの家に住んでたら、駄目なのかな」

二人ともとても不安そうだ。喫茶室の厨房で心配げにオリクとロータがこちらを伺っている。


「俺さ、クレナータさんに聞いたんだ。あそこの家は、正式に領主様が決めた孤児院なんだそうだ。だから誰がなんと言おうとも、お前さんたちが出ていく必要なんて無いんだ。成人して仕事が決まれば、別だけどな。だから、気にしなくてもいい」

「でも…」


「心配なら、一緒に役場に行って確認してくるか? そうしたら、次に変なことを言われても気にしなくてもいいって、判るしな。なんだったら、証明書みたいなものを発行してもらえるか、聞いてみよう。

よし、今から行こうか」


太郎は、早々にあの男を見つけて話をすることに決めた。

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