第39話 ダンジョン 1日目


 2層は1層と同じ草原だったが、3層の階段を降りると目の前に広がるのは、鬱蒼とした森林だった。広葉樹が多く茂り、所々に亜高木が分布している。下生えは背の低い草本が多い。獣道のような道らしきものがあり、そこを進む。道は単調な一本道というわけではなく、幾つか分岐がある。先頭を行くアルブムは、迷うことなく進んでいく。


 ここからは魔物が襲ってくる。小鬼や角大猪、大猿、森狼などだという。

「この層は、単体でやって来る。稀に二、三頭で襲ってくることもあるがな。下に行くほど、数が増える。

それで、オレ達の方でも勿論対処するが、太郎がどれくらい対応できるかも見たい。チャンスがあれば、スリングショットを使ってみてくれ」


支店を置き 、その中にいるとしても、場所はダンジョン内だ。ダンジョン内は何が起きるか判らない。だから、太郎が対応できない場所に、支店を置くべきではないとアルブムは考えていた。

「判った」


 その後、度々魔物が出現したが、気配察知の範囲が一番狭いのが太郎だった。当たり前といえば当たり前だろう。それでも、対応するためにスリングショットを構えるのに間に合うぐらいではあった。この層ではスリングショットが通用した。


「まあ、ムスティの話に聞いていたが、5層までの魔物にはそのスリングショットは通用しそうだな」

少し安心したのか、アルブムの声が柔らかい。


4層目も3層目とあまり変わらなかった。大角熊と新たに出くわしたぐらいだ。

下に続く階段がある崖までたどり着いた。

「今日は、此処で休息をとる。崖付近は、比較的魔物の出現率が低い。そこで結界石を置いて、夜営をする」


四隅に結界石を置き、その中でテキパキと野営の準備をしていく。そんな皆を見ながら、一人バテバテの太郎だった。常時探索を展開し、魔物と対応し、精神的にも肉体的にも疲れ切っていた。

シムルヴィーベレと白金のみならば、この階層で野営にはならなかっただろう。

「タロウ、無理しなくて良い。休んでいろや。素人にしちゃ、ここまで来たのは上出来、上出来」

ムスティは笑いながら声をかける。


「で、休んだ後でのご飯を楽しみにしてるぜ」

「おう」

そう答えるのがやっとであった。


 太郎はダンジョンに入るに当たり、食事を用意したかった。寝る場所やダンジョン内での行動については諦めているが、昼間はともかく全食が携帯食は嫌だったのだ。


かといって、調理する時間などはとれそうもない。少なくとも最初は疲れて調理するのも大変だろうと想像していた(実際、そうなっているが)。でも、料理をそのまま持って行くことも出来ない。トランクルームの機能で時間停止でもあれば別だが、そんな都合の良いものはないからだ。


冷蔵・冷凍はあるが、暖かいまま保存する方法はない。色々と考えていたら、スライムで作った袋を見つけた。密封できるような仕組みも持っている。それをフリーザーパック代わりにし、シチューなどをつめてパッキングして冷蔵保存してある。


最初は冷凍保存しようと考えていた。その時、色々と設定をいじくっていたら、真空で保存が出来ることが判明したのだ。

「なにそれ? 」

と驚いたが、真空で冷蔵がかけられるので、それで保存することにしたのだ。冷凍よりも遙かに早く温めて食べられる。

トランクルームは"保存すること"にその存在をかけているのだろうか? まあ、それはそうだろう。


ということで、今晩はシチューのパックを大鍋に移して温めて終わった。パンは堅焼きパンを用意してある。お茶などは、カアトスなどが用意してくれた。


「タロウと一緒だと、ダンジョン内とは思えない食事だな」

ヴルペスの呟きに一同が頷く。

「商売をしていなければ、パーティに誘いたい所だ」

アルブムの言葉に、


「そうかあ? シムルヴィーベレの寄生になっちゃうだろう、オレ。荷物持ちと料理ぐらいしかできないんだから」

「一応、自身の危険をある程度回避できるだろう。それにその2つはかなり重要事項だ。それが判っていないのは、探索者としては三流だぞ。

単純な話、より多くの成果を持って帰ることができれば、収入と直結する。体調などを保持するためにも食事は重要だ。

それを軽んじるヤツは少なくともウチにはいないよ。

探索者の仕事は、魔物を狩るだけでは無いからな」


「アルブムは、ポーターをずうっと欲しがっていたのよねえ」

少し苦笑いが入ったような声色でカアトスが添える。


(でもさ、現状、足手まといだからな。なんか申し訳ないような気がするんだよなあ)

そんな太郎の気持ちを察したのだろうか。


「あのね、私達の仕事にはダンジョン内の護衛っていうのも、ちゃんとあるのよ。今回みたいな依頼は珍しくはないわ」

レプスが話をしだした。

「ダンジョンで魔物を倒すと、倒した魔物の魔力を受けて身体が強くなるって話を知ってる? 」

「聞いたことがある」


「それを期待してダンジョンに入る人達もいるの。身体が弱い貴族の嫡男とか、裕福な商家の子供達の護衛をするという仕事なの。その子に止めを刺させて、ある程度強くさせるまで付き合うのよ。

彼等は止めを刺すことしかしない。

軍閥貴族なんかだと、体を丈夫にするだけじゃすまなくて、ある程度強くなるまで付き合わされたりするわ。まあ、そういう場合は、積極的に動いてくれるけど、返って邪魔になったりするのよね。


今回のギルド側での依頼も、内容的にはタロウさんの護衛なのよ。だから、気にすることはないわ」


「そうだね。ここでタロウが僕らと同じように出来ちゃったら、僕らの立場無いよね」

ヴルペスが続ける。

「そうよう、アルブムやムスティはタロウがダンジョンで仕事するから心配で、何だかんだやらせてるけど、本当だったら、貴方はふんぞり返っててもいいのよ」

カアトスの言葉を受けて、


「じゃあ、ムスティさんに肩でも揉んでもらいますか? タロウ」

白金がのった。

「いいぞぉ、明日のために筋肉を揉み解してやろう」

ムスティが両手を掲げて、指をワキワキさせて近づいてこようとする。

「やめてくれ、明日、筋肉痛で動けなくなる! 」



 野営の見張りの順番には太郎は入っていない。

「今回は、タロウの護衛でダンジョンに来ているんだから。当たり前だろう」

と言われてしまった。疲れていたこともあり、ぐっすりとテントの中で眠った。


 翌朝、簡単な朝ご飯を食べて5層への階段を降りていった。

「ここには、ラプトコルが出るようになるから、気をつけろよ。でけえトカゲなんだが、こいつは攻撃力も然る事ながら、持ち物を盗むんだ」

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