第40話 きのこの山 in ダンジョン

 魔物達や植物などを見ていると思うのは、元いた世界とのだ。ラプトコルはヴェロキラプトルに近い形態をしていた。恐竜のヴェロキラプトルは、盗みなんかしないだろうが。


 調味料や食品なども、日本で対応する名詞や言葉として太郎には聞こえているのは、翻訳の能力だろう。本当に同一なのかは疑わしいところだが、味や効能などの近いモノを当てているのではと、彼は考えている。

 一年の長さや季節も似ている。多分太陽との距離や公転周期などが同じなのだろう。


 獣族や魔物などを見れば全く異なる世界だが、似ているモノ、同じようなモノも多い。これは、世界の位相として近いからだろうか。


そんなことが頭の中にふと浮かんだ。パラレルワールド、何かの選択が異なったために違う方向性に向かっていった世界というやつか。ここと自分の世界の最も違うものは魔力マナだろうか。

だが、確かめようもないことを考えても仕方が無いかと、太郎は頭の片隅でそう思う。そうだ。今はそれどころではない。


 そもそも、今更何故そんなことを、太郎が考えてしまったのかと言うと。

キノコ、キノコ、キノコ。シメジにシイタケ、マイタケ、エリンギ、サルノコシカケ、ヤマドリタケ、ヤマイグチ、ナメコ、ヤマブシタケ……。鑑定が囁く。


持ってて良かった鑑定スキル。森の中に、キノコが点在している。

そして

「セミタケだ」


どデカいセミタケの根本を掘ると、一抱えもあるどデカいセミの幼虫が。勿論、採取した。

アルブム達は呆れて見ていた。


暫く行くと、太郎が立ち止まった。一点を見て動かない。

「コルディセプス・シネンシス、か」

落ち葉などから掻き出すと、キノコの下には干乾びたイモムシが付いている。イモムシもさっきのセミタケと同じでバカでかい。

その後、ハナヤスリタケやサナギタケも見つけ、大喜びの太郎に、一同は引いていた。


現在、太郎達は虫系の魔物が跋扈する6層に来ていた。魔物は3 mはありそうなカマキリや1 mほどのカブトムシやクワガタといった魔物たちが跋扈している。外骨格の彼らの装甲は、種類にも依るがかなり硬い。太郎のスリングショットでは、カマキリは撃ち抜けたが、カブトムシなどでは頭や前翅の部分では弾が弾かれてしまう。腹側の柔らかい部分にはなんとか傷つけることはできたが。

緊張して進むと思いきや、キノコの山に目を奪われている太郎だった。


だが、キノコが密集している処では、魔物をあまり見ない傾向があるという。


それを聞いてキノコをもう一度、太郎は色々と鑑定してみた。

「エゲツない」

冬虫夏草達は、魔物喰らいと出た。虫系への寄主特異性を持ち、人には問題がないという。


話を聞くと、

「ウチの方の言い伝えだけど、キノコは人がダンジョンに持ち込んだという話があったわ」

「そう言えば、ダンジョンに迷い込んだ子供が、持っていたキノコを蜂の魔物にぶつけて助かったっていう昔話があったね」


「成程。だから食用キノコばっかりなんだな」

そんな納得をして良いのか? キノコの鑑定結果は、全て食用と出ている。しかも虫系の魔物の寄生に特化しているとも。樹木では、ないんですね…。

その鑑定結果を得て、スリングショットの弾の幾つかをヒダの部分にこすり付けてみた。まだ胞子があるかもしれない。


 胞子付のスリングショットの弾に当たった虫の魔物は、倒れても消えなかったが、グズグズと溶けていった。どういう仕組みなのか、カブトムシの硬い翅も撃ち抜いた。

 虫なら何でもいいのか? でも寄主によってキノコの形態、違っていたよねと突っ込みたかった。


「タロウ、これ以上は胞子付きの弾は使用せんでくれ。それを使うと魔晶石すら取れない」

否やは無かった。実験結果はすでに得られたことでもあるし。


どの虫にも万遍なく効いた。昔話には根拠があったのだろう。

キノコを使うと魔晶石もドロップ品も得られないので、キノコの効能は忘れられたのだろう。

あと検証するならば、倒した魔物の跡からキノコが生えるかどうかだ。ダンジョン内でなければ、目印を残して行くのだが。

「どんな虫にも効くならば、いざというときのためにキノコは使えるかもな」


 今晩は、9層へ続く階段のある崖の前でキャンプを張ることになった。


「♪キノコ、キノコ、ダンジョンのキノコ、キ・ノ・コ♪」

鼻歌交じりで、太郎が調理を始めた。通常は匂いの問題などがあるため、調理などしない。だが、トランクルームのキッチンでするならば何の問題もない。


採取したキノコを食べてみたいと、トランクルームのキッチンを展開し、スープを作ってご機嫌で皆と囲むことになった。


「お前、やっぱり料理人とかのほうが合ってるんじゃないのか? 」

ムスティが、スープを配るご機嫌な太郎に突っ込んだ。

「何を言う。誰だって新しい素材があれば、チャレンジ実験してみたくなるのは自明の理だ」

「凄い自明の理ね」

カアトスが笑って、そうは言うが目はスープに向けたままだ。

「ダンジョン内のキノコはともかくとして、アレを食べたという話は聞かないな」

ヴルペスがボソッと口にする。

「鑑定では美味っとでていた。苦手なら、手をつけなくて良いぞ。カアトスだって鑑定持ちだろ、自分で確かめて見ればいい」

「私の鑑定は、食べられるかどうかなんて出ないわ」

「へえ~、人によって鑑定結果違うのか」

「そうね、得意分野があるみたいね」


スープだけでなく、蒸した干し肉と野菜を挟んだパンもある。採取したシイタケやエリンギなどの炒め物も作った。スープの中のキノコがサナギタケでなければ、皆違和感なく口にしたかもしれない。


「いただきます」

ニコニコと真っ先に口につけたのは白金だった。無言で食べすすめ、珍しく真顔でお代わりをした。太郎も口をつけると、あっという間に食べてお代わりをする。夢中になって食べてる二人を見て、残りの5人も口をつけた。

スープは一滴も残らなかった。


「サナギタケを見つけたら、全部採取だ」

皆、大きく頷いた。

太郎にしてみれば、滋養強壮に良いだろうと、ちょっと入れてみたのだが、この美味しさは大誤算だった。


「ポーションとかに加えるといいかもしれない。薬師ギルドに提案してみよう。

ダンジョンって危険だけど、来る価値あるんだな」

完全に食い気で発言する太郎であった。

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