第25話 スフェノファという国は…


「マグナの生活、食事だけじゃなくて全体的に辛くなかったか」

太郎は思わずアルブム達に聞いた。道中に提供した太郎の料理やトランクルームの施設を喜びはしても驚かなかった事に得心が行った。彼らは


「オレ達は探索者だからな。ダンジョンに潜ってるときは、それなりの生活だ。ダンジョン内は使用できない魔導具もあるしな。例えば通信系は総て使えない。

仕事だと思えば、なんとでもなる。

まあ、アンソフィータの一般人はあまりコニフェローファやその隣国のスフェノファに行きたいとは思わんだろうな。特にスフェノファは差別が激しい事もあるし」


この国に来て、生活環境が現代へ一気に変わった感がある。話を聞くと、生活に関する魔導具はこの国ではそれほど高くない為、一般家庭でも魔導具の設備など充実しているらしい。なんと言っても自国でも生産・開発しているそうだから。


「この生活の違いは、なんなんだ。オレはスフェノファも知っているけど、あそこはコニフェローファよりも魔導具が普及していなかった。アウトランはレンタルであったが、どうみてもここの人達は自分で購入してるよな」

「アウトランはここでは子供の乗り物で、ある程度成長すると親が買ってくれたりするモノだ」

(自転車みたいなもんなんだな)


「コニフェローファ出身者が探索者になってダチュラに来ると、みんな魔導具の多さに驚くな。そうだな、一つは国交の違いだろうな」

「スフェノファの連中は人族以外に良い感情を持っていない。だから、国交があるのはこの辺じゃコニフェローファぐらいだ。うちの国とグネトフィータとは没交渉だ。

だけど、魔導具を始めとした様々な技術やそれを下支えしている知識が最も発展しているのは、魔族の国のグネトフィータだ。コニフェローファはグネトフィータ産の魔導具をうちの国を通して輸入している。グネトフィータからだと少し遠いのでね。

スフェノファは魔導具の技術が欲しいらしい。それでなんとかしようとして、偶に勇者召喚をして、魔王に戦いを挑ませてるという話だ。

彼らにしてみれば魔王を倒せば、その勇者が魔王になり、グネトフィータを手に入れられると思ってるみたいだ。そうは言っても今まで一度も魔王を倒せたことはないんだが」


 技術の先進国であるグネトフィータ国は、魔族が多く住んでいる国で魔王が治めているそうだ。魔王がいるといっても、専制君主制ではない。憲法が制定され官僚機構と議会が国を運営している。国力の象徴として魔王の存在があるらしい。最も強い存在が魔王になるのだとか。強き者というのが魔族であり、その象徴として魔王があるということだという。


それと、たとえ勇者が魔王を倒して、魔王に取って代わったとしても、グネトフィータの根幹に殆ど影響はない。魔王を倒せば、グネトフィータを従わせることができるというのは、スフェノファの勝手な思い込みのようだ。願望とも言う。


 スフェノファで魔導具が高い理由は、グネトフィータ産やアンソフィータ産の魔導具をコニフェローファから輸入している為だ。それで、輸送コストや仲介料がかかるからだという。正式な国交がないため、コニフェローファに頼るしかないのだ。コニフェローファ、大儲けかな。そのため最新式の魔導具は情報不足気味らしい。

「職人を招くとか、輸入した魔導具を解析したりとかして、自分の国でも作れるようにしたりしないのか?」

「まず理解できる基盤が無ければ、解析しようがないのだろうな。あの国は魔導具の職人が育たないし、技術が広がらないんだよ。王族や貴族が強すぎてね。

一般的な読み書きや計算などについてはわりと教育しているようだが、専門的な知識などは貴族達が占有しているっていう話だ。だから、貴族の子弟で優秀な者が現れれば、解析が進むと聞いた。

でもグネストフィータ側も魔導具の要の部分については、ブラックボックスにしているからな。全部の解析は難しいだろう。コニフェローファも色々と自分の所で開発しようとしているようだが、それがあって最先端の魔導具を作るのは難しいとさ。


スフェノファだと、王侯貴族にギルドだって逆らえない状況だ。ギルドが職人とかを守れない。それで優秀な技術を開発したとしても下級貴族だった場合でも、その技術を取り上げられるとか、下手すると隷属化される事もあるって噂だ。だからそういった職人や開発者連中は、まずあの国に近づかない。

それでも、王や貴族ならそれなりの暮らしをしてるんじゃないかな。魔導具は高額になるが輸入はできるからね。こんなことができる魔導具がないかって、コニフェローファに問い合わせることもできるし。購入できれば、自分たちが作らなくとも便利な生活はできる。歪んでるといえば、歪んでるよな。


スフェノファで比較的ましな地域といえば、ブリタニカ辺境伯領ぐらいじゃないか。だからあそこは、王とは仲が悪くて結界まで結んだと聞いた」

「え、あの結界って魔物除けだって聞いたぞ」

「ブリタニカは、辺境伯が色々と改革しているんだと。獣族でも、あの地域だけは、訪ねてもそこまで問題ないっていう話だ。どこまでかは知らんが。

それで真面目に人を育ててるんだが、それを王族に掻っ攫われたこともあったという噂がある。国にも色々あるんだろう」

アルブムは言葉を濁した。


「それとね

グネトフィータの技術が優れている理由の一つが、スフェノファの妬みの原因でもあるのよね」

カアトスが口を挟んできた。


「迷い人とか、召喚されたって人達が、色々あってたどり着くのがグネトフィータなの。このアンソフィータの王都にもいるけれどね」

そういえば、王城で迷い人がいるという話を聞いたことを思い出した。

「グネトフィータ以外の国だと新しい知識とか期待されて囲い込まれるのよう。で、なんだかんだ束縛が強いの。しかも、要求度が高くて。使えないと見なされたら大変らしいわ。

そんなこんなで嫌になって逃げる先が大体グネトフィータなの。次点でこの国ね。

それはそうよね。あそこは自由だって聞くし。あんまり技術がどう、知識がどうなんて言わないらしいし。なんか、グネトフィータは秘密裏にそういった人達に対してスカウトを派遣するって噂もあるけど。


それで、人が集まるグネトフィータの発展を見て、余計に次に来た迷い人への干渉が強くなって、でも自分たちの思っている能力を持っているとは限らなくて。

負のスパイラルが起こってるってわけ」

カアトスがニパッと笑って太郎の耳元で囁いた。

「だから、気をつけるのよン」



「全く、スフェノファも懲りないんだから」

カアトスは鑑定持ちだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る