第24話 ダチュラの現代的生活
アンソフィータのダチュラは、ダンジョン攻略のために作られたような街だ。近くには歩いて行けるF級の小さなダンジョンがあり、半日ほどかければ行けるA級のダンジョンがある。他にも定期便のゴーレム馬車で1日か2日のところに幾つかダンジョンがある。アンソフィータの中でも複数のダンジョンにアプローチできる街なのだ。この街は探索者の街である。
そう、探索者の街であるのだから、決して国の中心的な市街地ではないのだ。たとえダンジョン産の物品の取引が行われる中心地で、多くの商会が拠点としているとしても。
彼らがマグナから出発して国境を越え、ここまで通ってきた街は、中心的な市街地ではない。確かに国境付近はまだ、コニフェローファとアンソフィータに大きな差は無かったと思う。それでもアンソフィータの方が生活環境が良いとは思った。国境からダチュラまで幾つか街を通ってきた。それらの街は辺境地とまでは言わないが、地方都市ぐらいのものだろう。だが、それらの街やダチュラの街並みは太郎にとっては衝撃的だった。
「俺らが知ってる生活環境と違うんだが」
宿のトイレは水洗で、トイレットペーパーもある。これは国境を越えてからはスタンダードだった。
スプリングがよく効いたベッド、モニタ付きのドアフォン、鍵はカードキーだった。ダチュラの宿屋では、部屋に情報端末も備え付けてあった。街の情報収集やお店の予約などができるものらしい。その日のニュースなんていうのもある。宿にはコインランドリーまで設置されていた。魔道具の洗濯機と乾燥機があるのだ。
スフェノファではほぼ見かけなかった魔導具が大盤振る舞いに使われている。
宿に着いてから、外で食事をしようということになり、皆で出かけることになった。道すがら、太郎は驚くことばかりだった。
街並みの風景は、今までいた国は一体何だったのだろうかと思ってしまうほど、違っていた。道路も主要道は舗装されている。しかも石畳ではない。歩道も区分けされている。
「ダチュラはダンジョン産のドロップ品や魔晶石などを多く産出している。その関係で国の主要な商会なんかは、この街に支店を置いている。商会によっては、この街が起点となっているところもあって、そういった所では本店を置いているんだ。あの一角は、商会が軒並み店を出しているところだ」
アルブムが指さす方向をみると、意匠の凝らされた建物の並ぶ一角があった。その通りでは、道路が幅広くとられているだけでなく、歩道と道路の間には街路樹があって木陰も提供してくれる。一軒おきに駐車スペースと思われる場所も設置されている。こちらからは見えないが、裏側は商会の搬入口などがあるという。
道行く馬車は多くはゴーレム馬車だが、自動車やバイクのように人が運転する物も多少みられた。子供達がアウトランに乗って行き来しているのも見た。
聞くとゴーレム馬車は運転免許などが要らないし、行き先を告げるだけで目的地に移動できるという。そのため、未だに自動車やバイクよりも、ゴーレム馬車の方が需要が高いという話だ。自分で
「え、個人でゴーレム馬車とか庶民が持ってるのか」
驚いた太郎に対して、苦笑してアルブムが答えた。
「ああ。オレ達のパーティも所有してるぞ。ムスティなんてバイクが好きで、自分で改造したりして乗ってるぞ。国内なら自分達の自動車で移動しているよ」
周囲の建物は高くても5階建てぐらいだが、それはあまり高い建物を作らないように規制がかかっているからだとアルブムは言う。
「又聞きだから詳しくは知らん。なんでも風だとか日照だとか色々とあるんで高い建物は5階までしか建てては駄目だという取り決めになっているそうだ。
領主の設置した役場があって、建物を新しく建てるとか改築するときなんか届け出を出すことになっている。役場から人が来てチェックをするらしいぞ」
街並みが整っているのは、まだ中心部しか見ていないからではないか。もしかすると中心部だけということも、なんて太郎は思ったのだが、
「いや、この街全体が割とこんな風だぞ。まあ、ここはダチュラの顔みたいな場所だから、特に見栄えが良くなっているがな。
言われてみれば全部が整然としているわけでもないな。探索者がよく行くような飲み屋街や色街なんかはもっとごちゃごちゃしているところもあるし」
カアトスなどと少し離れた時に、
「あとで、オレのお勧めの店とか紹介してやるよ」
アルブムがニヤっと笑って、太郎に耳打ちしてきた。太郎は思わず頷いて、二人で拳を合わせた。
カアトスがお勧めの店というのに着いた。ちょっと小洒落たレストランというような雰囲気の場所だった。依頼人などと打ち合わせで行くような店で、飲むよりも食べる方が中心だと彼女が話してくれた。今回、この店に決めた理由については、
「いい、タロウ。言い方が悪いけど、ここに良く来るような私たちが、貴方の料理を褒めているのよ。だから、もう少し自分の料理の腕に自信をもって良いのよ」
とカアトスが宣った。
(いやいや、野外の飯は多少難があっても美味しく感じるものだって)
そう太郎は思ったが、カアトスが怖いので口にはしなかった。
出てくる食事のバリエーションも多く、味付けも指定できる。種族によっては色々あるからその配慮であり、食べられないモノもあるので言えば調整もしてくれるという。
だが、太郎が最も驚いたのは本が安めになっているということだ。帰り道に本屋を見かけて、ちょっと寄らしてもらった。
マグナにも本屋があったのだが、1冊の本の代金が最低でも宿代などを含めた3日分の生活費よりも高かった。ショーケースに収められているものや、奥から取り出してくるようなものが大半だった。
それなのに、ダチュラの本屋では安い本は定食と同じ価格で買える。聞けば、本を読む人達は多いという。魔物やダンジョンの情報収集や魔術などに関する本などといった、仕事に関連するものだけでなく、様々な趣味などに合わせた本なども売っているという。
ここは、おんなじ世界なのか?と、太郎は首を傾げた。
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