第3章 貸倉庫屋のお仕事、はじめます

第23話 アンソフィータへの道程

 待ち合わせの方法は、アルブム達に支店の基を持って行ってもらって3、4日後を目処に合流という形をとった。支店の基は目印になるからとアルブム達に持っていってもらい、寝るときに外に出しておいてもらえるようにお願いした。それを目安にすれば、白金が追いつけるのだと説明している。少し遠回りしてから、追いかけると伝えてある。これは、二人がシムルヴィーベレと一緒に行動する理由がないので、一緒に街をでるのを避けたいのと、太郎の収納を隠すためだと説明をした。

支店の基はアルブム達にだけ見えるようにしてある。


白金が支店の基を感知しやすくするために、置く位置は結界内なら外に、極力寝る場所から離れた所に置いてほしいとお願いした。支店の基が見つからなくなったら、じきに追いつく知らせだとも言っておいた。

支店の基を使って転移まがいのことができることまでは話していない。


 アルブム達は、二人は1日ぐらい出立を遅らせ、急いで追いついてくる術があるのだろうと思ったが、合流できるまでは街道沿いにゆっくりめに移動することにしていた。


無事に合流したのは4日目の朝だ。

太郎達は、3日後の朝にマグナを出て王都へ行く街道を行き、夜陰に紛れ隣接する森へと入ってからトランクルームに戻った。二人の後をつけていた連中も確かにいて、森の中で消えてしまった二人に撒かれたと慌てたのだが、そんなことは知らない。

それからアルブムが支店の基を設置するまで待った。支店の基はお願いしたように少し離れて置かれていた。夜番をしていたカアトスの姿が遠目で見えた。そこからしばらく離れた所で夜を過ごしてから、翌朝、何食わぬ顔で合流した。カアトスは何も言わなかった。


 アンソフィータに近づくにつれ、アルブム達は人化を止めて本来の形態に戻していった。アルブムは白い毛並みのトラの姿、二足歩行の虎だ。太郎は、

(ホンマモンのタイガーマスクだ。格好いい)

と一人盛り上がっていた。


カアトスは三毛猫だが、耳と尾以外はあまり変わっていない。ムスティは顔は人に近いが、全身はわりと毛むくじゃらのイタチだった。

レプスはバニーガールで長めの耳が可愛らしく、すこし瞳が大きめで耳と尻尾以外は人に近い。ヴルペスは金色の毛に覆われた二足歩行のキツネだ。尻尾の先とシャツから見える胸元の毛は白く、耳の先が少し黒毛になっている。アルブムとヴルペスの両手は人と同じような作りになっている。


 獣族は混血が進むほど人の形態に近くなる傾向があるという。そのため、人族は混血種族だと一般的には考えられているらしい。だが、人族を中心としたスフェノファ王国では、それに否定的で自分たちこそが始原種であると主張している。そうして獣族や魔族を見下しているのだという。


今回のように人族の多い場所で仕事をする場合には、彼らは人化することにしているのだという。それと、マグナに住む獣族も人化している者もいたらしい。

そのための魔導具があるのだ。元々は、異人種同士が結婚するための方法として生み出されたらしい。形態によっては、子供をもうけるのに無理な場合があるからだ。どの種族も人型が最も負担なく変われるのだという。


それが、人族以外を嫌う地域に行く場合に揉め事を起こさないように使われるようにもなったのだそうだ。

特にアルブムのように純血に近い姿だと、宿に宿泊拒否をされることもあるという。


旅の間の料理番は太郎が引き受けていた。移動の際に遭遇する獣や魔獣を倒すのは他の面々で問題なかったからだ。太郎の料理を皆が気に入ったというのもあった。道中も料理をするために、キッチンの存在を明かしたことも大きいだろう。

それで料理に専念してもらおうという話になったのだ。


シチューやスープなどを作った時、レプスのつぶらな瞳で見つめられると、太郎はついつい彼女には肉を多めによそってしまう。彼女は肉大好き女子だった。

ヴルペスはハッシュドポテトがお気に入りになので、

(油揚げじゃないんだ)

太郎はそんなことをこっそり思いながら、おやつなどで作っては提供した。

皆、基本は肉好きでなんだかんだと獲物を仕留めては、それを太郎に調理してもらっていたりした。


 おやつに提供した肉まんは、シムルヴィーベレ全員のお気に入りになり、

「これだけでも、商売になる。貸倉庫屋とは別に屋台とか料理屋とかもやってくれね? 絶対流行る! オレは毎日でも行く」

とムスティが半ば本気で太郎を口説いていた。


因みに肉まんと言っているが、豚の角煮を饅頭にしたものである。マグナに居たときに白金が狩ってきた角猪を醤油が無いので塩と酒、ショウガなどで角煮にし、それを具にして肉まんをシコタマ作って冷凍庫に貯め込んでおいたものを蒸かしたのだ。ミンチにするのが面倒くさかったのでそうなった。


トイレとお風呂についても自分たちだけで使うには、でも使わないのは嫌だということで、公表した。これは特に女性陣に評判がよかった。風呂にはアメニティグッズがついている。これも無くなれば供給されている。バスタオルやフェイスタオルは脱衣所の棚にいつも数枚ずつ置いてあり、使ったら下に設置されているボックスに入れておくと、再び綺麗なタオル類が供給される。前に一度、自分の着た洋服も新しくしてくれないかとこのボックスに入れた事がある。そうしたら、になって戻ってきた。太郎にとっては残念な、謎のシステムが構築されている。


因みに、現在の太郎のトランクルームのレベルは6になっている。6になってから増設された施設はランドリールームで、洗濯が楽になった。トランクルームの増設施設はもしかしたら、自分の願望が元じゃないかと思う太郎であった。


トランクルームについて総ての情報を開示したわけではないので、寝るのは彼らと一緒に外で寝ていた。万が一のために、シムルヴィーベレには気がつかれないように支店の基を途中に置いては、回収するという作業も続けていた。


 出立して2週間後、太郎と白金しろがねは、アンソフィータの国境ににたどり着いた。そこから、シムルヴィーベレの本拠地としているダチュラに向かう。

国境から離れるに連れて、街の佇まいが明らかに変化していく。

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