第26話 貸倉庫屋、ようやく開店です

 探索ギルドの一角、今までは行き止まりで壁だったはずの場所に部屋ができ、その部屋には新たな受付窓口が設置された。新しくできた窓口には、『貸倉庫屋』と札が掲げられている。現在、ここが太郎の職場となっている。


一晩で建物が増築されて、周囲から驚かれた。この新しく増築された部分は、太郎の支店を探索ギルドの建物に付与したのだ。ギルドの建物が三階建てになっているが、この増築された部分は一階建てになっている。支店の部分は現在は受付窓口や事務処理をする部屋とその奥に応接室、それからトイレが設置されている。支店の設備はそれが今のところ総てだ。


この支店にはトランクルームを繋げていて、ここで寝起きしている。これらについてはきちんとギルドの許可をとって生活している。


 さて、『貸倉庫屋』を始める少し前に話を戻そう。

 アルブム達はダチュラに到着して、まずは探索ギルドに出向いた。依頼のあった『火山の欠片』を届けるためだ。依頼主はダチュラに本店を置くサイペルス商会で、奥方の病気に必要な治療薬に使うためだという。『火山の欠片』の代金として、依頼料の1/6を白金と太郎が受け取った。


実は依頼料の前金には、『火山の欠片』の代金も含まれていた。金額としては相場よりもやや高めに見積もられた額だ。見つけたら直ぐに対応できるように、代金を先に渡していた。それだけシムルヴィーベレが信頼されていたとも言える。

自分達で見つけられれば丸儲け、誰かが見つけたものを買い取る場合も相場と同じ料金ならトントン。高くふっかけられれば、依頼料を削って払うというものだったのだ。そうは言っても依頼者は、差額の部分は補填するつもりではあった。


アルブムは最初、この依頼料に含まれている代金を総て太郎達に渡すつもりでいた。ところが、その金額を全部含めた金額の6分の1でいいと太郎が言い出した。

それでは『火山の欠片』の代金としては少なすぎるとアルブムは主張したのだが、

「アンソフィータまでの案内と、貸倉庫屋をするために探索ギルドに交渉するのを手伝って欲しい」

ということで、白金が話をまとめた。


 アルブムはダチュラのギルドマスターに、自分たちが使った賃貸収納室トランクルームの使いやすさを力説し、ギルドが仲介することで安定的に提供すべきだと主張した。太郎達が個人で開業するよりも、ギルドの仕事の一つとして組み入れた方が探索ギルドにとっても、探索者達にとってもメリットが大きいと。勿論、後ろ盾の無い太郎にとってもメリットは大きい。


当初は懐疑的だったギルドマスターのケルクスは、シムルヴィーベレと同じ金級のパーティである満天の星ステラカエリに、その賃貸収納室トランクルームを利用してもらうことを提案し、その結果も参考にしてギルドの対応を決めるとした。彼らは依頼があってダンジョンに潜る直前だったのだ。


彼らはダンジョンに行った一週間後、戻ってくるなり太郎へ本契約をしたいと申し出た。

しかも、ギルドとは別に独立して仕事をするならば、いくらでも協力するとまで申し出たのだ。今まで収納ボックスを利用していたが、この一週間で賃貸収納室トランクルームの使いやすさに傾倒したのだ。ギルドマスターも含めた話し合いの場で、そんなことを言い出したものだから、シムルヴェーベレと揉めそうになった。

アルブムも

「ギルドが申し出を受けないならば、自分たちこそがタロウの後ろ盾になる」

と言い出したからだ。


彼らの様子を見たギルドマスターは、太郎をギルドに取り込むことにした。

アンソフィータで何の後ろ盾も無い太郎が個人で貸倉庫屋を開いた場合、彼の能力を取り込むために誰が動くか予想がつかない。下手な所に太郎を持って行かれた場合、大きな問題にもなりかねないと考えたためだ。彼の収納は無限では無い。だが、貸し出しできる収納という能力の影響は大きいだろう。


 そこで新しくできたのが『貸倉庫』の部門だ。基本的な取り決めはしているが、貸倉庫についての全権は太郎にある。現在の所、ギルドに間借りしているような形になっている。

太郎はギルドの臨時職員扱いになり、貸倉庫に関するところだけを担当している。手続き上の書類仕事は完璧にこなしている。


 そんなこんなで『貸倉庫屋』の札を掲げてから2週間が過ぎていった。

客が殺到するかと思いきや、暇だった。仕事が失敗したわけではない。むしろ順調だ。アルブム達の紹介もあり、ステラカリエをはじめとして期間は3ヶ月、8組の契約が成立した。いずれもダンジョンで活躍する金級や銀級だ。順調な滑り出しだと言えよう。


貸出の倉庫の大きさによっても料金は変わるが、費用はポーターを雇うのと同じぐらいの値段にした。ポーターと違う点は、帰ってきてから支払う分け前の分担金が要らない事だろう。ダンジョンに行けるポーターはほとんどいないが、彼らの仕事を奪いたくないということもあり、あまり安い設定にはしなかった。

契約金は1ト月分、以後は月毎の支払いになっている。契約書を交わし、ギルドを経由して、各パーティのギルドに預けている貯蓄から引かれるため基本的に取りっぱぐれはない。3ヶ月後に延長するかどうかを確認することになっている。


太郎の現トランクルームのレベルは7にまでなり、貸し出しできるトランクルーム数は6部屋となった。因みにレベル7の増加施設は、6の時にランドリールームが増え、7で客間が増えた。どんどん住環境が充実してきている。

契約中の部屋数は全部で3部屋分だ。みんな大きめに借りていった。


ただ、ダンジョン攻略でも短日で戻ってくる場合やそれほどレベルの高くないダンジョンに行くのであれば、必要はないだろうと現状思われているのも事実だ。今までポーターなしでもやってきているのだ。

それもあってか8組の契約が成立して以降は、窓口は暇になっている。


 アルブム達は太郎の貸倉庫屋設立の後に、賃貸収納室トランクルームの正式な契約を済ませて準備をし、早速ダンジョンに行っている。

出かける前にムスティは、

「帰ってきたら肉まん食いに行くからな! 用意しておいてくれよな! 」

と言い残していった。ある意味ブレない。太郎の中のムスティは食いしん坊キャラ確定である。

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