第27話 穏やかな日々を
気分的にのんびりした生活ができている。今までの稼ぎと8組の前金でゆとりある生活だ。
ギルドに設置した支店は、事務作業ができる部屋(受付窓口のある部屋)とトイレと応接室がある。住む場所は、支店の応接室からトランクルームへ通じるドアをつなげて、トランクルームで暮らしている。
ギルドマスターには、応接室を寝室代わりにしていると言ってある。自分たちで増設した部屋での生活なので、今のところ見逃されているというかんじだろうか。支店の部分もレベルが上がると色々と新しい施設が増加されるらしい。応接室はレベル6で作れるようになったものだ。
そのうち、お金が貯まったらどこかに家を借りてもいいかもしれないと思ったが、借りても多分トランクルームで暮らしているだろうから、必要はないかもしれない。ギルドでの寝泊まりが駄目だって言うことになったら、考えようと思っている。
生活習慣として、一つ付け加わったものがある。朝、太郎は白金に稽古をつけてもらっている。何かあった時に自分の身は自分で守れるようにと太郎から言い出した。それから、魔法も習っている。今のところは生活魔法を覚えている。
体術に関しては体捌きは上達したが、剣術に関しては今でもまったく使い物にならない。どうにも一度ついた苦手意識は抜けきらないらしい。
白金は、申し訳ないような表情をしていたが、
「俺が苦手なだけだよ。まあ、他でなんとかなるさ」
と笑い飛ばしていた。
トランクルームのレベルが5になった時点で、店員を造ることができるようになった。現在はレベル7だが、今でも店員の数は1人だ。店員はポンポン増えるわけでは無いらしい。
店員スキルで小さな人形を作り、それに名前と性別と年齢を与えると人の形態になる。クロークという名前をつけ、黒毛の狼族の20歳前後の青年にした。狼族にしたのは、太郎がアルブムの虎族の姿を見て格好いいと感動したからだ。
白金が止めなかったのは、アンソフィータでは獣族は多く、獣族のほうが良いと判断したためだ。太郎の行動が大きく不利益にならない限り、白金から口を出すことはない。
貸倉庫の本契約は太郎しかできないが、それ以外の雑事はクロークがやってくれることになった。だから太郎は一人であちこち町中を散歩する時間もできた。必要があってクロークが呼べば、トランクルームを通じてすぐに戻れることだし。
白金はトランクルームに供給するための魔物を狩りに、週一で近くのダンジョンに日帰りででかけている。それ以外は太郎の鍛錬や魔法の手解き、もしくは太郎と一緒に受付窓口のある部屋にいる。
貸倉庫屋の札を掲げたギルドの窓口は、今日も暇だった。太郎と白金は受付窓口のカウンターよりも奥の作業机のところにいた。窓口にはクロークが座っている。彼は暇な時間はずっと本を読んで色々と勉強しているようだ。太郎よりも勤勉かも知れない。
「アンソフィータに無事に着いたな」
「そうですね」
「漸く、トランクルームを使った商売を始められたな。スキルで貸倉庫屋ができそうだから、それで商売をしようと考えてから、長かったような短かったような」
太郎は、外をぼうっと眺めていた。受付の正面にはガラス窓がある。太郎達が座っている場所からも外が見える。
お客さんは来ない。他のギルドの部署とは少し離れているため忙しなく働いている他のギルド職員と違ってのんびりしている。臨時職員という肩書きはあるが、基本的にはギルドから給金を支給されているわけでは無い。
長期レンタルの貸し出しは8組で止まっているし、短期レンタルはまったく動いていない。しかし、収入とすれば8組で十分な収入が見込まれている。アルブム達を見ていると、この先
「オレさ。向こうでしていた仕事はそれなりに忙しくてさ。で、こっちに来てからも真面目に働いていただろう。まあ、ちょっと引き籠もりになったりもしたけど。
なんかこんなにのんびりしていて、良いのかなという気がする」
「今のところは、のんびりしていても良いのではないでしょうか。
「まあな。シャーロックホームズも探偵事務所を開いた当初は暇だったらしいしな。比べるのも烏滸がましいけど。
多分、ようやく落ち着くことができたんで気が緩んでいるんだ、きっと。
それで、色々と考えちゃったりするんだよな。色々と…」
「なあ、白金。オレはさ、ここに巻き込まれて来たんだ。それでさ、なんとか逃げよう、生きていかなけりゃと思って今までやってきた。お前が居てくれたおかげで、ここまで来られた。
でさ、ずっと気になっている事があるんだ」
太郎はずっと窓の外を見ている。いや、もしかしたら何も見ていないのかも知れない。
「お前に聞けば、答えてもらえることなのかも知れない。それに気がついちゃったんだ」
一つ息を吐くと、おもむろに白金を見た。
「なあ、白金。教えてくれないか。オレは、オレ達は元の世界に戻れるんだろうか。その方法っていうのは、あるのだろうか。それとも無いのだろうか」
「元いた場所に帰りたいのですか?」
「沢山のものを置いてきている。仕事は無断欠勤でさすがにクビになってるかもしれないけどな」
白金はしばらく黙っていた。太郎は知っている。情報を深く検索している時は、止まったかのようになることを。
その沈黙が長かったのか、短かったのか。白金が一つ瞬きをした。
「マスター、私の今の段階で答えられる範囲は、不明、です。アクセスできる範囲にその回答がありませんでした。トランクルーム、もしくは鑑定のレベルを上げて
「そうか、まだ、わからないだけか」
こくりと白金が頷いた。
「それじゃ、アルブムやムスティ達に頑張ってもらうか。色んなダンジョンのドロップ品をトランクルームに収納してもらって、レベルを上げてもらおう。それをけしかけるために肉まん投入だな。
オレらも頑張って、トランクルームの契約数を増やしていくか。
あ~、鑑定も頑張ろう。他にレベル上げも考えるか」
そう言って、太郎は笑った。
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なんとPVが27万、★も1700を突破しました。
これも読んでくださる皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
m(_ _)m
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