第21話 トランクルームご開帳

「お帰り、白金」


二人同行すると連絡をしていたので、テーブルには四人分の食事が用意されていた。

「白金の叔父の太郎と言います。

夕飯を用意してます。まずは、温かいうちにどうぞ」

偉丈夫のアルブムに、ふんわりした雰囲気の美女のカアトス、この二人を前にした太郎は少し緊張気味だった。


テーブルの上には、肉たっぷりめのシチューと魔物の肉のステーキ、温野菜のサラダ、パンなどが並ぶ。湯気が立ち、美味しそうな匂いが辺りにたちこめていた。メニューはこの辺のスタンダードな内容だ。奇をてらったようなものは出さなかった。

「よろしければ、おかわりもありますから言ってください。肉は山ほどあるんで」

美味しそうな匂いが立ち込めていた。


口にあったのだろう、二人共シチューもステーキもおかわりした。白金から話を聞いていたため、味付けをやや薄口にし肉多めの献立にしたのが、気に入ってもらえたようだ。彼らは見た目は人と変わらないが、獣族だと聞いている。

(サラダ、ちゃんと食べるんだ)

肉ばかりが消費されるわけでもなかった。


「大変美味しかった。いや、この国の料理は、何処も味が濃過ぎるのでな。しかもあまり味付けなどは選べないし。

久々に、本当に美味しいものを頂いた。ごちそうになった」

アルブムは、嬉しそうにそういった。

人間、美味しいものをお腹いっぱい食べて、機嫌が良くならない奴なんてそうそういない。カアトスも笑顔だ。そんな二人を見て太郎が褒められたので白金も機嫌が良い。

場の雰囲気が穏やかなものになった。


「それで白金が言う優秀なポーターというのは、君のおじさんということか」

「はい」

「失礼だが、君と君のおじさんについては探索ギルドでの噂を耳にしたことがある。本人を目の前にして言うのも何だが、あまり良い話は聞かなかった。また収納持ちという話もなかったと思うが」


アルブムの言いたいことはなんとなくわかる。ギルドを辞めてしまった太郎については、白金を陥落できなかったお姉様方や、そのお姉様方の取り巻きがあまり良い話をしていない。アリアが多少は歯止めをかけたとは言え、そうした噂がなくなるものでもない。


「どうせ叔父の真価が判らない有象無象の戯言です」

白金はそう言い切った。

実は白金の太郎に対する絶対的な支持も探索ギルド界隈の人達の太郎に対する反感を生んでいた。


なぜ、あんな凡夫な叔父に対して優秀な白金が束縛されているのか、優秀な人材を惑わす痴れ者といったところだろうか。やっかみがやや強いが。

鑑定持ちは少なく、優秀なスキルだ。だが、探索者にしてみれば鑑定持ちよりも白金のようにトータルバランスがとれた有能な探索者の方が遙かに重要視される。

太郎のスキルの一部である白金が最も重きを置くのが太郎であるのは当然だとしても、それを何も知らない周囲に理解しろというのは無理な話だ。


その白金の態度は、アルブムにとっては噂話に真実味を感じさせはしたが、太郎自身を見るとそこまで言われるほどの凡夫なのかは判らなかった。

それにこんなに美味い料理を作る男が無能ということはないのでは、と料理補正も入った。胃袋を掴まれたともいう。


目の前の太郎は白金の言葉に照れている。その太郎の姿をしばらくじっと見ていたカアトスは、ほんのり笑顔を浮かべ、

「百聞は一見にしかず、でしょ。実際に見せてもらったほうがいいんじゃない」

ほわんとした雰囲気でそう言った。ほんの少し眠そうな雰囲気の彼女の言葉はゆったりしている。

「白金ちゃんが言うように、『火山の欠片』はポーターに頼んだ方が良いと思う。

うん。持てるなら良いんじゃない。

それに、白金ちゃん達は、アンソフィータに行きたいんでしょ。それで、この条件なんでしょ」

「それは、アンソフィータまで、我々に護衛を頼むという理解でいいのか」

「どちらかというと、道案内ですかね。護衛は必要が無いので。

それに今後のことを考えると、アンソフィータで錚々たるパーティと馴染みになっておいて損はないと思っていますから」

「アンソフィータに来て何をするつもりか、聞いていいか? 」

その言葉に答えたのは、太郎だった。

「貸倉庫屋をやりたいと思ってます」

「貸倉庫屋、それは何だ? 」

「お見せします」


太郎の意を受けて白金はカバンから『火山の欠片』を取り出した。次いで太郎がアルブム達の目の前で鍵を生成してみせた。それはトランクルームの賃貸用の鍵であり、それを白金へ渡す。白金が鍵を中空にかざすと金庫ぐらいの扉を出現した。その扉を鍵を使って開け、その中に『火山の欠片』をしまった。扉を閉め鍵をかけると何もなくなった。


「どういうことだ、何をしたんだ? 」

アルブム、カアトスの二人とも自分の目の前で起きたことがよく分からない。収納でしまった様にも見えるが、鍵を使って扉をあけるような収納は見たことはない。

「これが私のスキルであるトランクルームという収納方法です」


太郎のもつ収納スペースの一部を太郎と契約し、太郎が創り出した鍵を媒介にすることで貸し出すことができるのだと説明をした。今の場合は契約者が白金だ(実際は契約してないけれど)。

その鍵さえあれば借りた当人によってどこでも入れた荷物を出し入れができること、ただしその鍵の有効期限は決まっていることなども付け加えた。

また、今回は分かり易く鍵の形を具現化させたが、手に鍵の印をつけて鍵にすることも可能だという事も説明した。その場合、手をかざすと扉が現れ、手で触れれば扉が開く。


「私は訳あって、この国でこのスキルの能力を使って仕事をすることは出来ないのです。

そのため、収納持ちだと明かしてもいませんので、ポーターはしていません。

ですから、隣国であるあなた方の国、アンソフィータに渡って、この収納能力の貸し出しを生業とした貸倉庫屋を営みたいと思っているのです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る