第22話 使い心地は如何でしょう

 アルブムにも実際に契約から賃貸収納室トランクルームの使用を試してもらうことにした。仮の契約書を交わし、サイズは5分の1サイズに指定した。床面積3畳分の広さだ。ある程度サイズの大きい物も入ることを示すため、まずは食事をしたテーブルなどを収納させてみた。椅子も総て収納してみたが問題は無いし、自分で何が入っているのかを鍵を通じて理解することができるのを実感してもらった。

その上で、次にアルブムは身につけている自分の剣も収納してみた。彼の剣は魔剣の類いで魔力量が多く含まれている。かつて、ポーターに収納してもらおうとして出来なかった経験があった。だが、すんなりとその剣は収納された。


「カアトス、すげえ。オレの剣が入った、入ったぞ。なんだこれは!うおお!」

感動して大声を出し、

「うるさい、近所迷惑でしょ」

と思いっきりカアトスに後頭部をひっぱたかれていたが。


利用方法としては、1つの賃貸収納室トランクルームを数人でシェアすることも可能だと付け加えた。パーティで1つの賃貸収納室トランクルームを借りても個別の荷物については、シェア用の鍵を利用することで、個々での出し入れもできる。個人ではなくパーティで借りても、シェアしていれば仲間とはぐれた時にも自分の荷物と共有物として収納したものに関しては取り出すことができる。


アルブムは興奮していた。ダンジョンに行くときには、期間にもよるが持ち物としての水や食料、回復薬などの薬類などの荷物をもっていく必要がある。また、魔物を仕留めた後の魔晶石やドロップ品を持ち帰るときにもそれらは荷物になる。そのため、状況によっては、そうした魔晶石やドロップ品を諦めなければならないこともある。

一般的なポーターは戦闘が出来ないことが多く、連れ回すことは難しい。収納のスキルをもつ探索者もいないことはないが、所属パーティは決まっている者ばかりだ。一度パーティが決まると、別の所に移るということは滅多にない。


小型の収納ボックスを利用している者もいるが、収納ボックスは重さはそれほどでは無い。だが、戦闘時など、この収納ボックスが邪魔になるときもある。

その上、高価なために稼ぎが良い者でなければ手に入れるのは難しい。加えて収納ボックスは魔物が残す魔晶石は勿論、魔力を含んだドロップ品が出た場合はそれを入れることは出来ない。微弱な魔力をもつ品物であれば、封印を施すことによって入れられなくもないが、それができる魔法使いが帯同していればの話だ。


実は、アルブムはずっとポーターを仲間に引き入れられないかと思っていた。だが、戦闘能力の低い彼らを守りながらダンジョン攻略は難しい。

ポーターがいれば手に入れられたはずのもの、彼が持って帰ることが叶わず諦めなければならなかったものが今まで幾つもあったのだ。


このトランクルームというスキルによって収納能力の貸し出しが可能ならば、今後ダンジョンに行くときの負担がかなり軽減される。


「契約期間や貸し出しの人数にはどのくらいの制限があるんだ」

「期間は最長で6ヶ月、人数は今のところ10組から30組になると思います。人数については、貸し出すサイズにもよりますが。シェア出来る人数の制限は賃貸収納室トランクルームのサイズにもよります」

「期間の延長は可能なのか」

「延長の契約をその都度してもらえればできます。手続きをしなかった場合は、期限が切れた時点で総ての荷物がその場所に放り出されることになります。消失するようなことはありません。

今後、私のトランクルームのレベルが上がれば、もう少し期間を延長できるようになるかも知れません。こればかりはレベルが上がらないと判らないのですが」

アルブムは賃貸収納室トランクルームの使い方について、様々な質問をぶつけてきた。


あらかた質問が出そろっただろうところで、

「もし、『火山の欠片』の条件をのんでいただけるのであれば、お試しと言うことで皆さん方がお国に帰るまでは、叔父の賃貸収納室トランクルームの貸し出しをしますよ。一人一人の個人バージョンでも良いですし、一つを借りてシェアするという形でも構いません」

白金がにこやかに話を勧める。細かな交渉事を詰めるのは白金が担当している。


 太郎にポーターを依頼することは決まった。


太郎のトランクルームの能力については、この国を出るまでは他言しないということも条件に加えられた。

勿論、アルブム達にとって自分の国に連れて行きたい人材を余所から奪われるようなまねはしたくない。今後のダンジョン探索が、今から楽しみで仕方がない彼らだった。



 それから4日後、白金から『火山の欠片』を手に入れたとしてアルブム達はマグナを出立した。

太郎は白金がダンジョンに行きだした時点で、薬師ギルドには前もって暇乞いを願っていた。ダンジョンの結果次第で、マグナを出ることになるからと。決まるまでは仕事をしてほしいと頼まれて、ギリギリまで仕事を請け負っていた。街を出ると決まって、周囲にはとても惜しまれた。


そんなこともあり、シムルヴィーベレが出立してから3日後に、太郎と白金もマグナの街を後にした。周りには『火山の欠片』を手に入れたことで纏まったお金ができたので、コニフェローファの王都に行くことにしたと伝えた。アンソフィータに行くとしなかったのは、太郎達を召喚したスフェノファの追っ手を心配しているというわけでもない。まあ念のためという気持ちはあるのだが。

一応、あの山口一郎Tシャツの存在によって攪乱されているだろう。それでも可能性は否定はしないが、彼らは男の一人旅だと思っているはずだ。マグナまで追ってくるのは難しいのでは無いだろうか。それに、アンソフィータにまでたどり着きさえすれば、スフェノファも手を出せなくなるはずだ。


今回は、それに加えて白金が人気者なので追っかけられる可能性の方があるのではないかと、太郎が心配したためであった。どちらかといえば、こちらの方が大きい。


王都へ向かう街道を進み、夜陰に紛れてトランクルームで姿を消した。

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