第6話 ポーターのお仕事 1

 講習が終わってから太郎はまず売店で王都の地図を買った。多分、地図がないと仕事にならなさそうだ。


さっそく依頼ボードをのぞき、手頃なものがないかを見繕った。見習いは個人の配送物が多い。


それ以外にも買い物を頼まれるというのもあった。ただ、これは格安で人気が無いらしい。講習が終わった後に残されていた見習いの仕事は距離が遠いのに依頼料が安い買い物や配送が中心だった。


それでもまずは道を覚えるのに良いだろうと同じ町内を出発点とする依頼を見繕った。2カ所は届け先も近かった。もう一つは買い物依頼だ。


 受付は幾つかあったので、その時にたまたま空いていたところにした。


「今日から早速ですか、良いことだと思います。受付のマリアと言います。これからよろしくおねがいします。

3カ所も一遍にですか。モノによっては持ちきれないこともありますから、受注する際には荷物サイズに気をつけてくださいね。


なるほど、2つは行きに運んで、1つが買い物で帰りの分にあてているのね。2つともそれほど大きくはありませんが、もし一緒に運べない場合はそれぞれで運んでください。戻ってきたら、受付は私の所でお願いします。

何か判らなかったら相談してください。

はい、では、いってらっしゃい」


マリアは瞳が大きめのかわいらしい感じの女性で、書類を確認しニコっと微笑んで依頼受注のカードを渡してくれた。


太郎はちょっとドキドキして

(お仕事、楽しく出来るかもしれない)

なんてしょうも無いことを考えていた。


売店で購入した地図は、少し日本で見慣れた地図とは違って癖があったので、最初は戸惑ったものの、見慣れてくると荷運びの配送ルートがわかり易いようになっているのに気づいた。


なんとかそれぞれの家にたどり着き一軒目と二軒目で荷物を預かった。両方とも一辺が1.5m弱の箱に入っていて、依頼主の目の前で蓋の部分に受注カードの半券を貼り付けて収納した。これで、荷物は封印されたことになる。


次に残りの1軒は買い物の依頼だ。配送と違って買い物リストと買い物カードを預かる。買い物カードはお店でお金の引き落としに使うという。商業ギルドでは銀行みたいにお金を預けられる仕組みがあり、そこからお店が引き落とすことができるのだとか。買い物リストと買い物カードは連動しているため、ポーターが勝手に何かを購入することはできない仕組みになっているという。頼まれた買う物は3つあって、最後のお店の人に荷物の確認をしてもらって受注カードを貼り付けた。


(買い物カードってプリペイドカードみたいなのかな、それともデビットカード?)


午前中はポーターの講習、午後はこの3件の仕事で終わりになった。


 とりあえず、ポーターとしての第1日目が終わった。走って荷物の配送をしたが、翌日魔力で動くキックボードのようなものが貸し出されていて、距離のある配達はそれを使うと教わった…。



「サイザワさん、買ってきたよ。肉類なんかは冷蔵庫にいれるね。」

「ありがとね。イチローくん。もし時間があるならお茶でも飲んでって」


サイザワさんは作業場で仕事をしているようなので、太郎は勝手知ったる他人の台所という感じで、買い物してきたものを区分けして冷蔵庫や棚に入れていった。サイザワさんはちょっと足が悪いということで、太郎が少し手を貸したのがきっかけになり、こんな風に家に上がるほど馴染みになった。


 太郎が仕事をするようになってもう5ヶ月が経っていた。4日に一度の割合で食料や日用品の買い物をギルドに頼んでくるサイザワ小母さんの仕事は、現在は太郎がほとんど引き受けていた。


「買い物って、あまり人気が無くて。引き受け手がなかなかいないから。助かるわ」


ポーターの仕事は中級以上への正規依頼になるとものによってはそれなりの料金になる。だが、見習いの仕事は安めに設定されていて街の人達の便利屋感が強い。


見習いへの依頼料は安く設定されているが、こうした買い物などの場合は、ギルドが多少上乗せしていて、それなりの数をこなせば見習いでもギリギリ生活はできるくらいに稼げるようになっている。


太郎は王家からもらった資金もあるので数をこなさなくてもそれなりに過ごせるが、そのお金には初日以外はほとんど手をつけていない。


真面目に仕事をこなしているので、なんとかなっているということもある。


それに太郎にとっては、こうした小さな仕事を中心に数を熟していくのも色々と街の人達と馴染みをつくって色々な噂話などが聞けて楽しいというのもある。


早く王都を脱出したいと思いつつも、レベル上げも兼ねているので地道に仕事をこなしていた。道も随分と覚えて、今では地図が無くてもあちこちに回れるようになった。


首に鈴がついている状態でもあるし、向こうから手を出してこないうちに見習いから初級になることを目標としている。初級になれば近郊とは言え王都の外に活動の場を広げられるからだ。



今日の仕事を終えて、ギルドに依頼カードの半券を届けに向かった。


「はい。本日分の依頼達成を確認しました。今日の依頼料です。それから規定数の依頼をこなせましたので、今日の分をもって見習いから初級に昇格します。

おめでとうございます」


 依頼カードとギルドカードを提出すると、受付嬢のマリアは太郎へそう告げた。


太郎は、

(マリアさんは今日も可愛いな)

とか思いつつも、初級に変わった自分のギルドカードを見て満面の笑みを浮かべた。

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