第7話 ポーターのお仕事 2
自分のスキルを誰でも自分で確認できるわけではない。スキルを見るためには鑑定のスキルか魔道具が必要だ。
神殿や探索者ギルドに行けば魔道具があり、スキルとそのレベルを見ることが可能だそうだ。神殿で見てもらうにはそれなりにお布施が必要だ。
探索者ギルドの場合はギルドに所属すると格安で見てもらえるとは言う。どちらにせよお金がかかる。
スキルについてわからなくても、一般的な生活をするならば問題はない。多くの街や村に神殿があり、神殿は学校を開いて子供たちに文字と簡単な計算、それから初級魔法の使い方として生活魔法も教えている。だから、生活魔法は大概の人が使える。
学校で才能が見初められると魔法学校に推薦され、魔法師になることができる。魔法師は探索者になるものや、研究職につくもの、王国の魔法師団に入隊するものなどお給料の良い職にありつける可能性が広がる。
収納はよく知られているスキルなので生活魔法とともに教わり、スキルがあれば利用できることで判断される。鑑定もそうやって試すことでスキル持ちを発見している。
そういう事もあって、収納持ちがわりと一般的なのかもしれない。わざわざスキルを確認しなくても、皆、一度は使えるかどうかを確かめてみているのだから。
ちなみに鑑定持ちはめったにいないそうだ。
太郎は鑑定持ちなので、自分で自分の状態を確認できる。自分で鑑定しなくても、
「白金、漸く初級に上がったぞ」
「おめでとうございます。トランクルームもレベルが3に上がりました」
太郎は、宿屋に戻って来るとトランクルームにすぐに入る。入り口は部屋のドアに向けて開けたままにしている。誰かが宿の部屋に来てもすぐわかるようにしているのだ。
不思議なことにトランクルームのドアが開いていても太郎とアシスタント以外は外から覗けない。だから誰かが宿の部屋に入ってきても誰も居ないようにしか見えないのだが(実際にその部屋には存在していないし)、逆にトランクルームからはドアを開けておけばドアから見える範囲について太郎達は外を見ることができる。大変便利である。
「レベル3では、トランクルームの施設が増えてトランクルーム数が3になります」
白金が告げる。トランクルームのレベルが上がってもトランクルーム自体は大きくなることはなく、トランクルーム数が増えるということが判っていた。
レベル2では、トランクルームは太郎の使っている部屋も含めて2部屋になった。そこで仕事では保管区を使うのを止め、増えたトランクルームを利用している。滞在区がいつでも広く使えるようになり、快適に過ごせるように色々と整えている。
それよりも太郎が気になったのは、メインのトランクルーム設備の増加だ。レベル2になったときは付属設備として水洗トイレが増えた。
出ていったものがどこに行くのかとか水がどこから来ているのかとかは知らないが、使っても減らないトイレットペーパーとともに都会ぐらしだった太郎の心を大きく揺さぶった。
王都ということもあり、トイレ事情は周囲に比べればまだよいと言われたが。
王都のトイレは壺ではなかったが、ボットン汲取式だった。お金持ちであれば、もう少しなんとかなっているという噂だが、見たことはない。
勿論、宿のトイレもボットン共同だ。溜めておいたモノは、近郊地域の農家が買いに来るという。
(お江戸がそんなだって、話を聞いたことがあったな)
初めてボットン式に面会した時は、一旦もよおしたモノが引いてしまった。
それだけではない。ゴワゴワの硬めの紙も辛かった。地域によっては縄とかヘラとかもあると聞いて正直引いていた。
一時期はトイレ事情から、王都脱出は無理かもしれないとすら真剣に考えていたのだ。
この国は、建物や設備は日本で言えば江戸から明治だろう。洋風なので近代ヨーロッパみたいなものだろうか。それでいてプリペイドカードみたいなものがある。
魔法や魔道具みたいな反則技もあるので一概には言えないが。生活の利便性でいうと、太郎にとっては不便さを感じるものだ。
便利な魔道具は日常品でもバカ高いので普通の生活をしてたら買えないから余計である。ポーターの仕事で使っているキックボードの様な魔道具、アウトランも個人で購入できるような値段ではない。ギルドのレンタルが無ければ配送効率は落ちるだろう。
因みにこのアウトランは魔力で動くので、魔力が詰まっている魔晶石がその燃料となっている。魔晶石を用意して、アウトランを借り仕事を受けるのが日課だ。
太郎から見ると、この国での生活はえらくアンバランスさを感じる。
スキルを使うほどレベルが上がると白金に言われてポーターの仕事に勤しんでいたのだが、まさかトランクルームに設備が増設されるとは思ってもいなかった。しかも最初が水洗トイレの増設だったことで一気にテンションがあがったのはまだ記憶に新しい。
ワクワクしながらレベル3の増設が何かと聞いた。
「レベル3では、お風呂です」
白金のその一言で太郎は歓呼の声を上げた。
「神様、仏様、トランクルーム様! やった、風呂だ!」
宿屋には風呂の設備はない。寝る前にお湯をもらって体を拭く程度しかできない。王都には公衆浴場があるので一度行ってみたが、基本はサウナだった。加えて併設して春を鬻ぐお姉さまたちもいらっしゃった。
それはいい、いいのだが病気などが心配になり一度目は我慢した。鑑定さんには大活躍をしてもらったのだが、安心は得られなかったからだ。
でもこの先、風呂屋に通って自分の欲望に負けない自信はまったくない。風呂には行きたい、お相手も願いたい、でも病気は嫌だ。白金に聞くと治療法もあるにはあるらしいが、完治するとは限らないという。そうした心配が少ない良いお店はそれなりにお金がかかる。
話が大きくそれた。とにかく風呂に入れるということに太郎は狂喜した。
やっぱり湯船は最高だよなと、ひとっ風呂浴びてからトランクルームの数が増えた件について白金から説明を受けた。
「増加したトランクルームは貸出が可能になります。それに伴いトランクルームを貸し出すために支店を設置できます」
レベル3では支店は1店舗出せ、場所は任意に設定できるという。
レベルが上がれば支店数も増えるそうだ。また、支店同士については太郎と白金はトランクルーム経由で移動が可能だそうだ。店を構えてトランクルームを他人に貸出できるなんて、本物のトランクルームのようなスキルだ。
「俺がいた所のトランクルームって部屋の広さがそれぞれ違ったりしたけど、一部屋に貸出は1人なのかな」
太郎が聞くと
「この貸出用のトランクルームは分割が可能です。一部屋が10まで分割できます。貸し出す部屋の広さは、10分の1単位でマスターが指定できます。また、トランクルームの貸し出し用の鍵の作製、及び契約書類の作成ができるようになりました」
話を聞くとトランクルームはどれも太郎のトランクルームと同サイズだというので、最小で1畳分ぐらいの貸出可能かと計算する。
しかし、このまま王都で貸出業をするのは拙いだろう。王城からお呼び出しがかかってしまうかも知れない。初級にもなれたことだし、そろそろ王都から外に出ようかと二人は話し合った。問題があるとすれば、王都からでた太郎を王城がほっておいてくれるかどうかなのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます