第3話 宿屋にて考える 1

「王城がそんなに気になりますか?」

「いや、だってさ」


太郎は白金しろがねに自分が鑑定した銀の短剣とボタンの話をした。


「どう見たって、有用ならば戻ってきて尽くせとか言われそうじゃないか。勝手に人のこと攫ってきた奴らとは、もう関わりたくない」


そこで、銀の短剣をトランクルームにしまうとどうなるのかも聞いてみた。

「そうですね。トランクルームで保管すると魔力は辿れなくなります。スキルの収納で収めた場合は、収納の出し入れをする時に魔力が漏れて持ち主の場所の特定ができますが、トランクルームの場合はそうした魔力漏れがでません。完全に封入されるのが特徴です。ですから形跡が追えなくなります」


その説明を受けて半ば独り言のように呟いた。


「じゃあ、トランクルームに預けるのはやっぱり止めたほうが良いか」

「王城ではマスターの位置を確認できなくなります。ですからどこかに移動している最中さなかに適当な場所でトランクルームに入れてしまえば、どこにいるのかわからなくなります」


「でも、なくなったその場所までは特定できるかもしれないだろ。その場所からすぐに捜索がかかれば見つかっちゃうかもしれない」

「暫くは王都での生活をお考えですよね。すぐにどうこうされる話でないようならば、トランクルームのレベルを上げることをお勧めします。そうすれば別の手も打てます」

「はあ?」


「トランクルームは、レベルが上がれば様々なことが可能になります。とりあえず、今のレベルでしたら、夜間は宿を借りトランクルームで寝起きしてはいかがでしょうか。夜間に襲われることへの心配は無くなります。それから一度起動しましたので、昼間でも緊急事態のときはトランクルームに避難することも可能です」

「どうやるんだ」


「簡単です。トランクルームに入る、と念じてください。追手はマスターの姿を見失うでしょう。ただ、戻るときも同じ場所になりますから、捕まる前に退避してください。勿論、先ほどのように鍵を使って入ることも可能です」

「はあ。トランクルームって収納と同類だって言われたんだけど、そういった事が違うのかな」


淡々と話していた白金が、その言葉を聞いて柳眉を顰めた。


「収納ごときと一緒にしないでいただけますか。収納はただ物品を保管できるだけです」

「でも、俺の世界のトランクルームも物を収納するだけだったよ」


「このトランクルームはマスターのスキルです。現在、こうやって部屋の中におりますが、収納に滞在する機能はありませんし、私のようなアシスタントは存在しません」

「そうなんだ」


「はい。収納は物を亜空間に所持できるだけです。それ以外できません。レベルが上がれば物理的な変化を停止させるような機能をもつものもありますが、そのくらいです。

ですがトランクルームはレベルが上がれば、もっと様々なことができます。レベルが上がるまではどのような能力かはお伝えできません。制限がかかっておりますので。私の記憶もレベルとともに開放されることになります」


相談の結果、対処方法として短剣と服は外に出したままでトランクルームには入れないことにした。夜は宿の部屋に置き、昼間は鞄にでもいれておき、常に相手が太郎の位置を把握できるようにした方がよいだろうということになった。


王都であっても護身用として短剣などを身につけている人も多いということなので問題はなかろう。そういえばこれを渡した兵士も「護身用に」と言っていた気がする。


短剣用のソードベルトみたいなのを購入してもいいけど、基本はカバンの中に入れておくので十分だろう。身に危険が迫ったからといって、太郎自身は短剣で防衛できる気がしない。


カバンは、トランクルームに預けておいた荷物の中に古い布製のショルダーバッグがあったので、とりあえずはそれに使うことにした。収納に見せかけるのにもカバンは必要だし。


王城で貰ったお金と太郎がこの世界に持ってきたものなどを宿の部屋に取りに戻って、トランクルームに仕舞った。背広はズタ袋からだしてハンガーに掛けて、見つけた衣装カバーをかけた。


ついでにトランクルームで寝るために空気マットレスと寝袋を取り出す。寝袋は薄いのと厚いので2つあるし、空気マットレスは新しいのを買ったので新旧で2枚ある。今夜からもうトランクルームで寝起きしようと決めた。


小さいトランクルームに替えても大丈夫なように、またちょっとした作業や食事ができるようにと空きスペースは広いので、多少物を移動させたが問題なく二人分の寝床は確保できた。


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