第2話 宿屋でトランクルームを確認
「さて、これからどうするかな」
宿屋の飯は美味かったし、無事に宿も取れた。
ベッドに腰掛けて荷物をおろし、中の物を並べてみた。コンビニで買ったビールはもう温くなっていたし、おツマミに買った唐揚げなどはもう食べちゃわないとまずいかなと思いつつ、城で貰ったものに鑑定をかけてみた。
「そうきたか」
銀の短剣は紐付きで、持ち主の所在が判るような機能付きだ。もしかするとと思い至り、もらった服も脱いで全部に鑑定をかけてみた。シャツのボタンの一番下に同じような機能がついていた。
太郎が鑑定持ちなのはバレている。鑑定で短剣の能力に気が付かれて短剣が手放される事になっても追えるようにということだろうか。いや、2つが別れた場合、太郎が気がついて逃亡を図る可能性があるということになるから、速攻で始末するつもりかもしれない。
それとも王の温情を有難がって鑑定する想定をしていないか。
これを持ったままで王都周辺にいる限りは手を出してこないかもしれないが、用心したほうが良いだろうな。なんだか気味が悪いので脱いだシャツで短剣をくるんでベッドの脇にあった机の上に置いた。
「ほんと、どうすっかな」
情報収集して別の国に逃亡しようかとも思っていたが、どうもそう簡単にはいかなさそうで頭を抱えた。王城側がなぜ自分にまで執着するのは理解できないが。
日常がクルッと変わってしまったコッチの身にもなれよと思ってもみたが、向こうにとっては他人事だ。それでも今日明日で殺される事はないだろうと気分を変えて、自分のスキルであるトランクルームを確認することにした。
勇者で浮き足立ったあの場では、太郎が自分のスキルを確認するような雰囲気も時間も無かった。
「ステイタス」
ボワンと眼の前に半透明な文字盤が現れた。
名前:山田太郎
職業:巻き込まれた異世界人
スキル:鑑定 レベル1
固有スキル:トランクルーム レベル1
トランクルームって一体なんだろう説明書きとか出てこないかと、トランクルームに触れてみる。するとボワンと目の前に真っ白なカードキーが現れた。そのカードキーを手に取ると、目の前にカードキーの差込口のあるドアが現れた。
どことなく、そのカードキーとドアに見覚えのある気がしないでもない。とにかくそのままカードキーを差し込むとドアが開く。何も考えずドアの内側へと入ってみると
「えっ」
そこは、太郎が借りているトランクルームだった。
そのトランクルームを借りたのは2ヶ月ほど前のことだ。滞在型トランクルームが会社の近くにできて、オープン記念価格とかで1年間は割引価格だったので試しに借りたのだ。
荷物の整理というよりは「滞在型」という名前に引かれた。契約した時にわかったのだが、滞在型といっても宿泊などはできない。多少部屋で過ごすことができる程度だ。残業の時に泊まれるかな?とちょっと考えていたので少し残念だったのだが。
それでもかなり割り引かれていたし、もともと部屋の荷物をどうにかしようと考えていたこともあり、お試し程度の気持ちで一番大きな部屋を借りた。
それに地震とかがあって家に帰れない時用にと、色々と物を置いておくと便利だとも思ったのもある。
部屋は10畳ほどの広さだ。値段が通常に戻ったらもっと狭いトランクルームに移そうとか考えていたが、そのトランクルームに繋がっていたのだ。
(よく判らんけど、広い部屋を借りたあの時の俺、グッジョブ)
明かりは、スイッチを押したわけではないが灯っている。
壁の一面は本棚で、その横には机の上にパソコン、他の壁に設置した棚に趣味の山道具や残業の時の着替えや季節ごとの洋服といった雑多なもの、防災グッズなどがおいてある。
一角には非常食としてインスタント食品や湯沸かし用のポット、小さなホットプレートを置いている。このトランクルームには元からコンセントもあるのだ。忙しいときには、昼飯や夕飯時にちょっと入ってカップ麺とかを食べたりしていた。
さっそくパソコンの電源を入れてみる。フォンと立ち上がると液晶画面には
「トランクルームへようこそ」
と大きく文字が打ち出されてきた。どうやらパソコンとしては使えなくなったようだ。その文字の下に
「質問がありましたらココへ入力ください」
とあるので
「トランクルームの使い方」
と入力してみた。エンターキーを押すと画面が替わり、
「アシスタントを起動しますか?」
という文字の下に「はい」と「いいえ」がある。そこで「はい」の方を押してみた。
「アシスタントに切り替わります」
その文字がでるとパソコンがノイズが入ったかのように揺れて消えさり、太郎はなにかの圧を受けてその場所から弾かれて尻もちをついた。
その次の瞬間、ボンッとパソコンのあった場所に少年が現れた。机に腰掛けた少年は、机から降りてきて尻餅をついた姿勢のまま唖然としている太郎に手を差し伸べて言った。
「アシスタントを起動しました」
ほぼ無意識にその手をとって立ち上がると
「えっと、君は?」
「アシスタントです」
「ああそう。パソコンが言っていたやつか。パソコンが君になったのか?じゃ、名前は。なんて呼べば良い?」
「アシスタントです」
「それ、機能だろう。いや職業か?名前と違うんじゃないかな」
少年は首を傾けた。
「個体識別のための名称ですか。それでしたらありません」
「え、呼ぶのに不便だから名前あった方がいいな。アシスタントは呼びにくいよ」
「そうですか。ではマスターがつけてください。認証します」
「え、マスターって俺?なんかちょっとカッコいいかも。
はあ、じゃあ。ポン太はどうだ」
ポン太はもともと、パソコンにつけていた名前だ。
「ポン太ですね。認証しました」
「ちょっとまて、それでいいの」
太郎は慌てて聞いたが、少年はキョトンとしたままだ。いや、ここで名前が気に入らないとかなんかやり取りがあるのが定番だろう!と突っ込みたかったが、少年があまりにも無反応なのでできなかった。
よくよく見れば銀髪碧眼色白、美少年と言っても良い顔の作りで体の線も細い。これでポン太、世のショタコンのお姉さま方がいたら文句を言われて叩きのめされそうだ。
「いや、ポン太やめ。ちょと今考えるから待ってて」
そうは言っても太郎には名付けのセンスはない。
「ポン太は止めた。名前は
「了承しました。名前はポン太から白金に認証し直しました」
銀髪だから白金、そんな単純な発想だった。
「で、白金。ここの使い方とか説明してくれるか」
「はい」
白金の説明によるとトランクルームには「滞在区」としてのここと「保管庫」として別区画があるという。しかしながら、別にはなっているが同じ量の空間を利用しているため、保管区に荷物を入れた分だけ滞在区が狭くなり、滞在区を充実させれば保管区が狭くなるという。
またトランクルームには持ち主と、持ち主が許可した人間のみが入ることが可能だと説明を受けた。
それから鍵でドアを開けるという収納方法は明らかに異質だし、一々そうしていたら不便そうだ。外でそんな方法で物を取り出していたら王城に目をつけられ、連れ戻されるかもしれない。
そんなことにならないようにカバンをトランクルームの保管区の出入り口として収納みたいな形で使う方法なんかを教えてもらった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます