分配
とりあえず目立たないよう近くの公園まで場所を移した俺たちは、ささやかながら自販機で買った缶ジュースで勝利の祝杯をあげることにした。
土地柄もあるのか、公園にはチラホラと子供たちが遊んでいる姿があるだけだ。
「「「かんぱーい!!!」」」
各々の好きなドリンクを高く掲げ、一斉に口をつける。休憩所らしい屋根付きのテーブルを取り囲むように並んでいた俺たちは、互いに健闘を讃えあった。そんな中、アスカが顔を見てきて尋ねてくる。
「……で、この秘宝はどうするの?リーダー」
テーブルの上には、さきほどのダンジョンで入手した戦利品たる秘宝の数々があった。大手ギルドならば、ちゃんとした宝物庫などで保管などするのだろうが当然『アルゴナウタイ』の現状ではギルドホームすら所有してないわけで。
「うーん。活躍した人に渡す……って言っても、全員が活躍してたからなぁ」
「いやいやいや。私たちなんて、敵の
「いやいやいや!皆さんが勝ってくれなかったら、そもそも
チクリと刺してくるアスカに、必死にフォローを入れる。普通に
そんな時、ビシッと綺麗な挙手を見せたのは朝日奈さんだった。
「はい!私、このドローン欲しいっす!!」
「あ〜、『グシスナウタル』だっけ?良いよ。そういえば、朝日奈さんのドローンも壊されちゃったんだもんね」
「うん……だから、せめてね?この子たちに『デルタワスプ』の生き残った部品を移植して、使おうかなって。パパがくれた大切な物だからさ」
そうか。さっきのダンジョン内では、武器の損失は補填されない。随分、ひどく壊されてしまっていたようだったから復元するのも難しいのだろう。
「どのみち、ハッキングで朝日奈さんの物になってたもんね。この中では一番、上手く扱えそうだし。じゃあ、『グシスナウタル』は朝日奈さんに譲渡します!」
「ありがと、ユウト!その代わり、私も『アルゴナウタイ』に入ってあげる!!それで、チャラってことで」
「えっ、良いの!?別に頑張ってくれたから、交換条件とか必要ないよ。もう少し、考えてみたほうが……」
「いいの、いいの!知ってる人も多いし、楽しそうだし!!私は、楽しい環境で冒険したいんだよね。どうせだったら」
その気持ちは分かる気がする。就職するにも、一番の不安要素は人間関係だったりするからな。実績も何も無い『アルゴナウタイ』だけれど、職場のムードだけ見れば快適なのかもしれない。
それに、ダンジョンには機械系のクリーチャーも多く登場する。そういう系の知識に長けた人物は戦略としても貴重だ。
その話を聞いていた周防さんが、ふと何かに気付く。
「そういえば、植村くんも敵の武器を奪い取ってたやんな?それも、植村くんの物になるってことなん!?」
「あ〜、『モラルタ&ベガルタ』か。あれは奪取というか、猫を
俺がチラッとコースケの方に視線を移すと、何かに気付いて彼は親指をあげて反応した。
「任せろ!さっき、チェックしたら“秘宝進化”できるぐらいのダンジョンポイントは貯まってた。やっぱ、レベル5だなぁ。一度の攻略で、こんなに稼げるなんてな」
良かった。
コースケも要所で活躍してくれていたし、それが獲得ダンジョンポイントにも反映されたのかもしれない。
それを聞いて、珍しくオドオドしながら近寄ってきてのはアスカだった。
「じゃあ、その秘宝……私が、貰ってもいい?」
「えっ、うん。別に良いけど」
そう答えると彼女はキラキラした瞳で二匹の猫を抱き寄せて、わしゃわしゃと撫でまわし始めた。
「きゃ〜!もふもふー!!」
ね、猫好きだったのか……まぁ、喜んでくれてるなら良いか。アスカなら、武器としても上手く使いこなしてくれそうではある。めちゃくちゃ、ペットとして欲してそうだけど。
残る武器は、あと三つ。
「せっかくだから、他に何か欲しい人がいたら言ってね。全然、譲るし」
俺が皆にそう言うと、周りの様子を伺いながら周防さんが手を挙げた。
「私、盾が欲しいかも。自分のユニークとも相性が良さそうやし、他に誰も欲しい人がおらへんのやったら……」
他のみんなも譲るジェスチャーを見せて、リアクションを取った。言われてみれば、タンク役の周防さんにピッタリの武器かもしれない。
「じゃあ、『アンキーレ・イレブン』は周防さんに譲渡するとして。残るは、二つだけど……」
俺は
これだけがレベル5の秘宝だったのに戦闘中に俺が折ってしまったせいで、この状態で回収する羽目になった。
“武器の損失は補填されない”というルールは、ちゃんと敵の武器にも反映されていたというわけだ。
「そいつは、俺に譲ってくれないか。もしかしたら、有効利用できるかもしれないし……どのみち、折れてるんじゃ使い道が無いだろ?」
そう言って手を伸ばしてきたコースケに、俺は黄金剣の柄を手渡した。確かに彼へ渡せば、上手く取り扱ってくれそうだ。修復できないにしても、今後の武器作りの参考になってくれれば
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