王殺し

 地面に打ち込んだ衝撃波が波紋のように広がるとアンキーレの11枚の盾がブルブルと振動を始めて、その機能を停止した。

 人の手から離れた兵装のみにしか効果が無いのは難点ではあったが、例え一時的であったとしても防御から反撃までを自動でこなす強力な盾を封じてみせたのは大きな功績だったといえるだろう。


 式守のオーバードライブ技を見届けて、三浦もすぐに行動を開始した。




「残存兵、全軍突撃!奴を取り囲め!!」




 アンキーレの足止めに専念していた死霊軍団の残存兵たちを、全てセーレに突撃させる三浦。

 そして、植村へ向かって力一杯に叫んだ。




「植村、これが俺たちの作れる最後のチャンスだ!とっておきの一撃を、準備しておけ!!」




 骸骨兵スケルトン、オークゾンビ、トロールゾンビ、死霊軍団の総力がセーレの全方位を取り囲んで一斉攻撃を仕掛けていくが、聖なる光を纏わせたクリセイオーを振るって全く寄せ付けることなく次々と蹴散らされていく。

『メギンギョルズ』によってクリセイオーの魔力とセーレ自身の力が倍増されてるのもあってか、その無双するさまは“一騎当千”という言葉を体現しているかのようだった。


 だが、それは三浦にとっても予想通りの展開だった。彼の目的は、あくまで植村が“必殺の一撃”を蓄えるだけの時間を稼ぐことにあったのだから。





【虚飾】が、【ヒプノーシス】rank100に代わりました



「自己暗示:一撃強化……」




 もちろん、植村も三浦の意思は汲み取っていた。

 おそらく、この機会を逃せば一気に劣勢となってしまう。を、彼は静かに溜め始める。




「闇を穿つは神の左手、光を染めるは悪魔の右手。神と悪魔が交わりて、描く軌跡は堕天の十字。我が双撃、混沌の重奏となりて敵を滅さん!!」




「なん……だ?」




 ついに全ての死霊軍団を天に還したセーレが見たものは、両の双剣に莫大なエネルギーを充填させていく植村の姿だった。

 それは、大公グランド・デュークたるセーレでさえ本能から恐怖を感じ取るほどの威圧感だった。




一撃必殺ワンショット・ワンキル……」



「クリセイオー……オーバードライブ!」




 その一撃は、まともな一撃では受け止められない。咄嗟にそう判断したセーレは唯一、・クリセイオーの潜在能力を解放させた。


 あとは二人の激突を見守るしかなかった三浦は、その姿を見て驚愕する。




「悪魔が、オーバードライブ技まで使う……のか!?」




 植村のフィニッシュ技には絶対の信頼を置いていた三浦でさえも、予想外だった敵の奥の手に一抹の不安がよぎる。

 更に言えば、セーレは『メギンギョルズ』の効果でパワーが倍増されていた。


 しかし、互いにもう後には引けない。


 こうなったら、もう全力で両者が持つ最強のカードをぶつけるしかない。純粋な、力と力の一騎打ちである。





「……凶座相グランドクロス!!」



「ティタノマキア!!」




 ゴオオオオオオオッ!!!!




 ぶつかり合う黄金剣と、白と黒の双剣。

 その衝撃波はフロア中に広がって、離れていた三浦や式守の皮膚さえもビリビリと震わすほどだった。


 二つの威力は拮抗していた。互いに、強大なパワーを纏った武器を全力で押し込んでいく。




「う……ぐっ!!」




 均衡を崩していったのは、セーレの方だった。

『メギンギョルズ』の効果でパワーを増強させた彼の黄金剣が、ジリジリと植村の双剣を凌駕りょうがし始めたのだ。


 それは、様々な要因の僅かな差が重なった結果であった。



 植村ユウトの双剣の練度の低さ。


 レベル差で勝る黄金剣クリセイオーの秘宝としての格差。


『メギンギョルズ』による筋力・魔力の増強。


 本人同士の基礎体力の差。




 などなど、一つ一つは些細なものであっても、その全てが重なり合うことで明確な力の差となって表れてしまったのである。




 強い……でも!ここで俺が負ければ、今までの仲間たちの苦労が水の泡になってしまう。

 これは、俺たち『アルゴナウタイ』の大事なデビュー戦なんだ。ギルドマスターの力不足で負けるだなんて、情けなさすぎる。


 諦めるな!せめて、最後の最後まで足掻いてやる。諦めたら、奇跡すら起きない!!




「うおおおおおおっ!!!」




 俺は普段は出さない大きな叫び声をあげて、最後の力を振り絞る。しかし、無情にも敵の刀身は着々と俺の眼前がんぜんまで迫ってくる。


 駄目なのか……もう。




「ユウト!!!」




 その時、俺の耳に仲間たちの呼ぶ声が届く。下にいる女子たちも、一人一人が必死に俺の名を呼んでくれていた。

 折れかけていた俺の心に、再び火が灯る。




 エクストラスキル【王殺し】が発動しました




 なんだ!?エクストラスキル……?




 その時、俺の“凶座相グランドクロス”の威力が急激に増加したのを感じた。

 次第に形勢は逆転し、今度は俺の双剣がセーレの黄金剣を押し込んでいくと彼はハッとした目で俺を見ていた。


 自分では気付かなかった、黄金色に輝いていた俺の瞳を見てセーレは怯えた声で呟くのだった。





「驚いたな。まさか、キミが……王級討伐者レジサイドだったとはね」

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