死霊魔法

「パーティクル・キャノン!」




 敵の雷撃を躱しきり、『マナ・ブラスター』による渾身の荷電粒子砲を反撃で放つ植村だったがセーレはあっさりとその一撃を回避する。




「無駄だよ。そんな単調な攻撃では、私のペガサスに当てることなど出来はしない」



「なら、調……?」



「……?」




 ペガサスが回避した背後に展開されていたのは光学迷彩ステルスで姿を消していた『グシスナウタル』によるバリアシールドであった。

 式守の【鑑定】で反射機能リフレクターを有していることを知っていた植村は、予め朝日奈と打ち合わせてスタンバイさせていたのである。


 バリアによって跳ね返った“パーティクル・キャノン”は更に加速を得て、ペガサスの背後からその右翼を貫いてみせた。

 声なき声を発して悶えるペガサスはバランスを崩して、ふらふらと降下していく。




「なかなか、やる……ペガサス、ご苦労だったね。棲家いえに、かえりなさい」




 そのまま着地すると、再び魔法陣が展開されてペガサスの姿は消え去った。ついに、セーレを地上へ引きり下ろすことに成功したのだ。


 そこへ間髪かんはつをいれず三浦がベルを取り出すとチリンと鳴らし、地中から亡者の軍団・骸骨兵スケルトンを召喚する。




「今度は、こちらの番だ。数で、制圧させてもらおう!」




 無数の骸骨兵がセーレの周囲を取り囲むように、一斉に群がっていく。三浦は地上で相手が無防備になる瞬間を、今か今かと待ち侘びていたのだ。





「なんと、醜悪しゅうあくな……私の美しい宮殿には、似つかわしくない」




 セーレは再び『アイテムボックス』に手を突っ込むと、今度は紋章の施された銀色の盾を取り出す。




「私を守れ。アンキーレ・イレブン!」




 銀の盾は11枚に分裂すると、彼の周囲を守るように陣形が組まれる。骸骨兵スケルトンの攻撃を阻みながら高速で回転し始めた盾は、次々と大量の骸骨兵軍団を切り刻んでいき一気にその数を減らしていく。




 アンキーレ・イレブン

 レベル4の秘宝。軍神の加護が施された大盾。

 11枚に分裂して自動で使い手を守り、反撃まで行うことが可能。主人の脳波をキャッチして、自在に遠隔操作することができる。




「今度は、自動で防衛する盾とはな。放っておくと、無限に秘宝を出してくる勢いだ……骸骨兵スケルトンでは、荷が重いか」




 持っていた『ネクロマンシー・ベル』にを込めた三浦は、新たな不死者を召喚する。




 チリーン!



「オオオオオオン!!!」




 現れたのは腐敗した体のトロルと、オーク。

 骸骨兵スケルトンに比べると数では劣るが、一体一体の戦闘力は遥かに上回る。

 悪魔ビフロンスから奪った時点では、骸骨兵スケルトンしか召喚できない道具アイテムかと思われていたが三浦が研究を進めた結果、それは元来の使い道としては“死霊魔法を発動するもの”なのだと判明した。


 元々、闇属性を持って生まれた三浦にとって、それは偶然にも相性抜群の道具アイテムであった。そして、彼は自ら『ネクロマンシー・ベル』の新たな力の開発に着手する。

 ダンジョンで倒したモンスターの魂を吸収することで、それを新たな死霊兵としてストックしていったのだ。彼が召喚したトロルやオークは、「ダンジョン・アイランド」で密かに保管していた魂を死霊化させたものだった。



 とはいえ、保管できるのは悪魔の支配下にある魔物モンスターのみ。骸骨兵スケルトンよりは耐久性はあるものの、レベル4の秘宝アンキーレの前では単なる肉壁に過ぎない。


 


 肉壁となって敵の行動範囲を制限する。それが、三浦の本来の目的だったのだから。




「植村、行け!!」




【虚飾】が、【跳躍】rank100に代わりました




 十一枚の盾をトロルゾンビやオークゾンビが引き付けている間に、空中からセーレに突撃していく植村。そう、最初から彼をボスに接近させるのが三浦の真の目的だった。




【虚飾】が、【近接戦闘(格闘)】rank100に代わりました




 ようやく、間合いに入った!




「来たか!」




 冷静に『クリセイオーの剣』を振るい、応戦を始めるセーレ。その動きは精密にして鋭く、植村のrank100の格闘技術を持ってしても容易に攻撃を当てることが出来ない。



 速い!しかも、この剣……おそらく、風の精霊の加護か何かを帯びている。これでは迂闊に攻撃できないどころか、下手すれば防戦一方だ。

 やはり、直剣に対して無手の格闘戦で挑むには間合いで不利になる。せめて何か武器があれば、もっと攻撃に意識を割けるのだが……。


 そこへ、飛来してきたのは『グシスナウタル』。

 光線で敵に多角攻撃を仕掛けようと突撃していくが、セーレは黄金剣クリセイオーの刃に指先をなぞらせると刀身から今度は雷術を放ってみせた。




「男同士の戦いを邪魔するのは、マナー違反だろう?少し、大人しくしていてもらおうか」




 バチバチバチッ




 それは強力な雷術というわけではなく、あくまで周囲のものを痺れさせる程度の電磁波。しかし、機械である『グシスナウタル』の動きを封じるには十分すぎる効果であった。

 しかも、その痺れは植村にも及び身体の動きを止められてしまう。




「ぐっ……!」



「おっと。キミにも、効いてしまったか……悪く思わないで、くれたまえ!」




 そう言いながら、躊躇なく伸ばされる黄金剣の切先。そこで、植村の視界に入ってきたのはセーレの肩に止まっていた二匹の猫の姿だった。

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