魔術師

 植村が必死に三機のドローンからの猛攻を回避し続けているのを、穏やかな表情で観察するセーレ。




(へぇ……三人の中では、彼の強さは頭一つ抜けているようだね。すなわち、あの少年さえどうにかできれば良いということか)




 再び空間の中に手を突っ込むと、そこから今度は黒い猫と白い猫が飛び出して彼の手を伝いながら肩に止まった。

 こちらも注意深くセーレの動きを観察していた三浦が、すぐに二体の猫の存在に気付く。




「式守!あの動物に、【鑑定】を使え!!」



「はぁ?俺が調べられるのは、武器だけだ!動物は、専門外だぞ!?」



「召喚獣のたぐいなら、あんな登場の仕方はしないはずだ!あれは、敵の所有空間に保管されていたようだった……説明は長くなる。早く、やれ!!」



「わ、わかったよ!!」




 式守の【鑑定】によって、敵の肩に止まっていた二体の猫の正体が判明する。それは、三浦の予想通りであった。



 モラルタ&ベガルタ

 レベル4の秘宝。白猫「モラルタ」と黒猫「ベガルタ」、二体の猫の姿をした自律型生体兵器。

 無限の弾丸を自動生成する二丁拳銃モード、光属性と闇属性を持つ双剣モード。二つのモードに自由自在に変身することが出来る。




「マジかよ…気を付けろ、植村!あの猫は、銃や双剣に変身するみたいだ!!」



「気をつけろ……つったって!はぁ、はぁっ!!」




 ビシッ




 ドローンの放った光線が、植村の頰をかすめる。自動回避は強力な性能だが、無敵の防御というわけではない。

 “物理的に回避できない状況”や、植村自身の体力低下で攻撃に反応できていても“体が動かないという状況”では意味をなさなくなってしまうのだ。


 せめて、光剣クラウ・ソラスが万全ならば光刃で防ぐことで大幅に体力消耗を抑えることは出来ただろう。しかし、手にしていた刀は既に刃こぼれしており次に光線を受け止めれば折れてしまいそうなほどであった。


 結果的に、常に大きな回避行動を取るしかなかった彼の体力は徐々に底を覗かせていた。

 最後の手段として“武曲ミザール”を使い、一度だけスタミナを全快させることは可能だ。しかし、それは倒される時間を引き延ばすだけで根本的な解決にはならない。



 チラリとセーレの方に視線を移すとコースケの忠告通り二体の猫を二丁の拳銃に変身させた彼は此方こちらに銃口を向けてきた。


 躊躇してる場合じゃない……ここで、俺が倒されてしまっては元も子もなくなる!


 植村が“武曲ミザール”を使おうと決意した瞬間、突然とドローンたちの動きが止まる。





「ユウト、平気!?ここは、私にお任せあれ!!」



「この声は……朝日奈さん?」




 女子たちは全員、まだ一階にいたはずだ。声の出所を探すと、その音声は敵のドローンから聞こえていることが分かる。



 そんな彼女・朝日奈レイはというと皆が二階への階段を探索していた中、一人で黙々とキーボードを打ち込んでいた。式守から敵の管制機が「フラウグ」であることを聞き出した彼女は、下層から指揮官フラウグをクラッキングすると『グシスナウタル』全機を掌握してみせたのだった。


 朝日奈レイのユニークスキル【魔術師ウィザード】は、視界にある機械を何でも一つだけ操ることができる。幸いにも下層からでも上層にあるドローンを動かせることは証明済み。敵の武器が機械で造られたモノならば、下層ここからでも制御は可能だ。




 キン!キン!キン!キン!




 セーレの二丁拳銃から撃ち込まれた弾丸を受け止めたのは、『グシスナウタル』が展開したバリアシールドだった。さっきは敵を守っていた防御壁が、奇しくも今度は味方のことを守ってくれたわけだ。


 それだけではない。


『グシスナウタル』を掌握したということは実質、一人分の仲間が増えたようなもの。いや、攻撃から守備までこなせる兵器ならば何人分かの活躍が期待できる。ほぼソロで挑んでいたようなものだった植村にとっては、これほど心強いことはない。




「私の武器を奪ったか……なかなか、面白いことをする。ならば、こちらも本腰を入れるとしよう」




 セーレは玉座の小階段からゆっくりと降りながら二体の猫を元に戻すと、今度は目の前の床に水色の魔法陣を展開させた。



 あれは、『アイテムボックス』とは違う……召喚術か!?



 その魔法陣から現れたのは、翼を生やした美しい白馬……誰もが知ってる神獣・ペガサスであった。




 セーレの特性『高位召喚術』。

 神獣ペガサスを召喚できる。ペガサスは両翼による飛行能力を有し、稲妻を発生させることが出来る。




 華麗にペガサスに騎乗すると二匹の猫を肩に乗せたまま、彼は『アイテムボックス』から新たな武器を取り出した。それは、黄金と宝石で装飾されたきらびやかな片手剣。

 




「さぁ、第二ラウンドと行こうか。諸君!」





 また、新しい武器か。あの『アイテムボックス』の中には、いくつの秘宝が納められてるんだ?

 十?百?千?それとも……いや!考えても仕方ない。


 俺が出来ることは奴の出してきた武器に即時対応して、次の武器を出すまでにケリをつける。

 ただ、それだけだ!!

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