連携技

 月森によって動きを封じられた機動馬車に向かって駆け出した七海が指笛を鳴らすと、呼び寄せられたかのようにマルコシアスが隣に並走してくると彼女はその背中にフワリと乗り込んでみせた。

 再び【七変化】で“騎手ライダー”モードとなると、大狼は天高く跳躍した。


 植村の【虚飾】とは異なり、【七変化】は自在に“七つの姿”をフォームチェンジすることが可能であった。それにより様々な場面や戦況に順応することのできる彼女は、まごうことなき万能職バーサトルであると言えるだろう。


 しかし、真正面に相対したモリガン率いる二頭の馬が同時に口を開き、火炎のブレスを放出して迎撃を始めた。マルコシアスもそれを避けようとはせず、逆にこちらも大口を開けて強烈な咆哮を浴びせ返す。

 マルコシアスの特性“銀咆哮シルバー・ハウリング”は、敵の動きを止める効果と共に全能力を低下させるデバフ付きの特殊な咆哮だ。おまけに、その強烈な風圧をもって馬たちの吐いた火炎ブレスまでも掻き消してみせた。


 怯えて動きを止めた馬車を引く馬たち。そこへ直接、マルコシアスが飛び掛かると二頭の馬に対して同時に両前足を振り下ろし、強烈な一打を叩き込む。その一撃を喰らって馬たちが気を失うと、エンジンの故障した飛行機のように機動馬車は地上へと落下していった。


 モリガンは慌てて馬車からジャンプして空中に逃げるも、そこへ突撃してきたのは白い翼を背中に生やした“上泉マコト”だった。

“龍宝サクラ”の術式『エンゼル・ウイング』。対象者に翼を与え一定時間、飛行能力を授けることができる。マコトの翼の正体は、それだった。


 モリガンもまた落下した馬車から“マッハの魂”を吸い上げると車輪を纏っていた炎が消え、代わりに今度はモリガンの背中に炎の翼が生えていく。




「はああああっ!!」




 ギィン!!




 そして始まる、翼を持った者同士による空中戦。

 “赤き翼のモリガンの槍”と、“白き翼の上泉の妖刀エペタム”が初撃でぶつかり合い火花を散らす。

 しかし、パワーで勝るモリガンはジリジリと上泉を押し込んでいった。





「く……うっ!!」



「上泉くん!!」




 キイイイイン!!




 すると突然、妖刀エペタムの斬れ味が増してモリガンの槍を断ち切った。

 それは、“周防ホノカ”が放った【断絶】の付与。

 本人が修練を積んだことで身につけた“攻め”の恩恵。障壁を張るだけでなく武器の斬れ味を増加させることも出来るようになり、それは他者にも干渉が可能となっていた。


 しかし、モリガンの槍は一本だけではない。

 残された槍で、上泉の後隙あとすきを狙って鋭い敵の槍のつかを押し込み軌道を変えると、そのまま刃を滑らせながら気を宿していく。





「七星剣術・五つ星……廉貞アリオト!!」




 本来なら地中に刃を差し込んで気を爆発させる技であったが、敵の槍の柄を利用して地中代わりの反動に変えた。小太刀ならではの小回りの効いた技に、改良してみせたのだ。

 七星剣術とは七つの型にして、技は無限。

 使い手の発想と技量によって、独自の派生を生み出してもらうのが創始者たる“北斗ユウセイ”の望みでもあった。




 ズバアアッ!!!




 小爆発を起こした反動で迅雷の如き速さでモリガンの首筋を切り裂くと、ついに三体のを全て撃破することに成功したのであった。




「やった!ナイス!!」




 その一部始終を記録していた“雪鐘ミク”は、上泉のフィニッシュを見て思わず声をあげた。


 その興奮は、ライブ配信を見ていた視聴者たちにも伝わっていたようだ。口コミが広がったのか、観戦者の数も4,000人まで増加していた。

 最初は冷やかしのコメントも多く見られていたが、映画のような激闘を目の当たりにして風向きも変わってきた。





 :え、なに?強くね?


 :これで、終わり?


 :いや。まだボスがいる


 :こいつら本当に新人かよ


 :ゲーティア生、レベル高すぎ


 :ルックスのレベルも高い


 :チャンネル登録しました!


 :いきなり劇場版やん


 :マジでレベル5っぽいな


 :で、あの犬なんなん?





「すっげ……うちの女子、強すぎないか?」




 上から戦況を見守っていた式守が感嘆の声をあげると、男性陣のいるフロアでも異変が起き始めた。





 全てのしもべが撃破されました


『強者の証明』が解除されます




 宙に浮かぶテキストメッセージと共に、セーレを守っていた防御結界が消え去っていく。


 セーレの特性『強者の証明』。

 彼のしもべを倒し、強者であることを証明できなければ戦う権利すら与えられない。




「モリガンたちが、敗れるとはね……何年振りかな。私も久々に気分が高揚してきたよ」




 すくっと玉座から立ち上がるセーレに間髪入れず、三浦はハンドガンを撃ち込んだ。


 今回はバリアに阻まれることなく弾丸が通ったが、セーレはひょいと首を捻って軽くを回避してみせた。

 簡単そうにやっているが、凄まじい動体視力と反射神経。その動作だけで、敵の強さが伺える。


 対する三浦も、動揺した様子は見せていない。




「なるほどな。これで、ようやくまともに戦えるということか……植村、式守。準備は、良いか?」

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