業火の戦車

(……隙がない!!)




 マッハの武人然たる技巧と炎の剣の長いリーチに、なかなか致命傷を与える隙を見出せない七海。

 突破口を得るために、ちょこんとバックステップして距離を取った彼女は『マルチウェポン』を短剣の姿に変えた。




「シルエット・ファイブ、“凶手アサシン”……ドレスアップ」




 逆手に短剣を握りしめ、ガラリと雰囲気が変わった七海。そこへ、炎の剣を振ってマッハが距離を詰めてくる。再び術士モードで遠距離戦を仕掛けてくるとも思われたが、すっかり近距離戦の思考に切り替わっているようだ。

 それは、彼女にとっても好都合だった。




 ブンッ!!




 敵の斬撃を音もなく静かなステップで回避してみせる七海は、素早く死角へと回り込み気配を完全に消す。気付いた時には、マッハの背後を取っていた。そして、息を吐くように相手の首筋をナイフの切先で斬り裂くと、あっという間に勝負を決めてみせた。




「……あと一人」




凶手アサシン”モードは、“隠者ハーミット”モードに比べて対面での戦闘力は劣る。

 その代わり、高い隠密性能と一撃必殺の致命傷を与えることに特化したスタイルだった。

 マッハは強力な近接技能を誇っていたが、術士としての側面もあるせいか防御力は薄いと判断した読みが見事に的中した形となったわけだ。

 二体の仲間を失い、最後の一体・モリガンが動きを見せる。交戦していた上泉から急に離れると二本の槍を背中に納め、両のてのひらを広げた。




 すると、破れたバズヴとマッハの魂が具現化されて現れる。バズヴの黒い光球とマッハの赤い光球がモリガンを乗せた馬車に宿ると、その姿が大きく変化を見せ始めた。

 “マッハの炎”で車輪が火の円輪に変わり、四基の砲台が生み出される。そして、“バズヴの力”で浮遊する進化した機動馬車にモリガンは満を辞して乗り込んだ。




「何、あれ……倒された仲間の力を、吸収したの!?」




 さすがの【最適解】でも、敵の隠された能力までは予測できない。明智が困惑していると、ゆっくりとモリガンの反撃が始まった。

 その始動に、いち早く察知した七海が龍宝に指示を飛ばす。





「サクラ!みんなに、シールドを張って!!」



「は、はい!!」





 七海の不安通り、機動馬車の砲台にエネルギーが充填されていく。一方の龍宝も杖の力を使って、最速で詠唱を遂行していった。





「天使の加護よ、その加護を持って、勇敢なるものたちを守りたまえ……サンクチュアリ!!」





 モリガンが右手を前に掲げると、宙に浮いた馬車の砲台から豪火球が一斉放出されて地上にいるアスカたちへ降り注ぐ。




 ゴオオオオオオオオッ!!!




 何とか間に合った龍宝の結界が、全員の身を炎から守ってみせた。その強力な威力に『カドゥケウスの杖』で神聖力を増幅させながら、何とかシールドが破壊されないよう耐え忍ぶ。

 そんな中、七海は全員に通話で指示を飛ばす。




「この攻撃が止んだら、一気に攻めよう!再充填させる前に叩かないと、ジリ貧になる!!」




 何とか敵の一斉放火を龍宝が耐え切ると、七海の指示通りに全員が弾き出されたようにモリガンへ向かって走り出した。

 すると、先頭を駆けていた周防に向かって一つの砲台が照準を合わせると、先程に比べると小振りな火球を放出してくる。


 機動馬車に装備された砲台はチャージした一斉砲火の他に、接近した敵を感知して自動で迎撃するシステムも兼ね備えていたのだった。




 ドンッ!




 咄嗟に構えた盾に【断絶】を付与して火球の直撃ダメージを軽減させた周防は、後方から迫ってくる味方の足を止めさせる。





「ストップ!近付くと、砲弾を撃たれんで!!」



「くっ!敵の気配を感知して、自動で迎撃させてるのか……どうやって、近付けば!!」





 かといって足踏みしていれば、さっきの一斉砲火の準備が始まってしまう。七海は必死で頭の中をフル回転させるも、すぐに妙案は浮かばない。


 そこで名乗りを上げたのは、意外な人物だった。




「僕が、敵の砲撃を引きつけます!みんなは、その隙に接近してください!!」



「マコトくん!?」



「七星剣術・七つ星……“破軍ベネトナシュ ”・リバース!!」





『妖刀エペタム』の放つ紫の妖気が、巨大な大渦を上泉の前に作り出す。本来ならばそのまま敵にぶつける技だったが、彼女はその大渦に向かって気穴きけつを突き刺す一太刀を放つ。

文曲メグレズ”によって見極めた気の結び目をわざと断ってみせると、その大渦は糸が解けるように無数の光条となってモリガンに向け襲いかかる。




「改式……メイルシュトロム!!」




 ドドドドドドドドド!!!




 上泉の放った“破軍ベネトナシュ ”の改良式に反応して全ての砲台から迎撃の火球が放たれるも、無数の光条を防ぎ切ることは出来ない。

 流れ弾をいくつか被弾しながら、たまらずモリガンはその場から逃げるようにして馬車の火輪を回転させた。




「逃がさない!!」




 敵の馬車が加速する前に、その動きを止めて見せたのは月森の投げ飛ばした『バンシー・ロープ』だった。投げ縄の輪の部分を見事に一頭の馬の足首に巻きつけ強く固定すると『エアリアルドレス』の出力を全開にして、その行動を阻害してみせたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る