マルコシアス

 マッハの放ってくる火の矢を、アスカを乗せた水棲馬ケルピーが口から放つ水弾で相殺していく。


騎手ライダー”の能力で騎乗した瞬間、水棲馬ケルピーの性能を把握していたアスカは次に馬の下半身を地面に沈めた。

 それは、水弾に次ぐ水棲馬ケルピーの第二の性能。身体の一部を完全に水と化して、物質に干渉することが出来る能力。


 まるでウォーターバイクにでも乗っているかのように、地面を海面の如く高速で滑走していく。

 そして、ついに距離を離しながら逃げ回っていたマッハの馬を捉えて横並びに追いつくと、アスカは水棲馬ケルピーの上にバランスよく立ち上がった。




「シルエット・シックス、“隠者ハーミット”ドレスアップ!飛翔天!!」




 モードチェンジしながら気の力を利用してフワリとジャンプしたアスカは、そのままマッハへと飛びかかる。そこへ、相手も火の矢で迎撃しようとするも……。




八卦風神掌はっけふうじんしょう…… 陰陽転掌・黒風こくふう!」




 空中で彼女が両手を回転させると、その腕から放射状の竜巻を作り出して火の矢を掻き消し、更にはマッハの体をも吹き飛ばして強引に馬から落とすことに成功させた。


 しかし、マッハも侮れない。瞬時に乗っていた馬を盾にするようにして身をひるがえし、“黒風”の直撃は回避していた。

 この好機を逃すまいと追撃してくるアスカに対しマッハもすぐに体勢を立て直すと、今度はを作り出して彼女を迎え討った。


 ブンッと振られた炎の太刀筋を間一髪で上半身を仰け反らせながら回避したアスカは打撃で反撃を試みるも巧みな体捌きで躱されてしまい、そこから激しい接近戦が始まる。




(こいつ、術士タイプかと思ったら……普通に、接近戦も強いじゃん!)




 ちょうどその頃、サクラはマルコシアスの傷の治療を終えて、すっかり指揮官コマンダーとなった明智に指示を仰いだ。




「明智さん!ワンちゃんの怪我、治りました!!次は、どうします!?」



「神坂さんたちを襲ってる鎌の人を、倒してほしいんだけど。そのワンちゃんに命令できるのは多分、植村くんだけだから……」




 すると、怪我を治してもらったマルコシアスはサクラに頰をすり寄せながら感謝の行動を見せた。

 もふもふの体をさすりながら、サクラは優しい声で囁く。




「あそこにいる私の仲間を助けて欲しいの……やってくれる?」



「ワオーン!!」




 遠吠えをあげて彼女の声に応えたマルコシアスは、指の差された先にいたバズヴに向かって勢いよく駆け出した。




「やった!言うこと聞いてくれました!!」



「嘘でしょ!?一応、元悪魔なんだけど。植村くんの【動物使い】が、人間に対する忠誠心を高めていたってこと……?」




 嬉しい誤算とはいえ、意外な結果に首を傾げる明智。確かに、植村の【動物使い】によって人間への敵対心は大幅に低下されてはいた。

 しかし、基本的にはマルコシアスに指示を与えることが出来るのは従えた“植村ユウト”本人のみ。


 例外があるとするならば、純粋に【動物使い】のスキルを極めた者。そして、“七海アスカ”の“騎手ライダー”モードのような特殊なユニークだ。

 それは、“龍宝サクラ”の【聖女】にも当てはまった。【聖女】の隠された特殊能力とは、救いを与えた獣に多大な忠誠心を持たれること。


 マルコシアスの傷を治療したことで、植村の【動物使い】に匹敵するほどの絆を得ていたのだ。

 さすがの明智の【最適解】でも、そこまで見抜いたわけではないだろうが結果的に最善の策となったわけである。




「くっ!当たらない!!」




『エアリアルドレス』の機動性を駆使しながら、月森が果敢に『アルベリヒ・クラブ』でバズヴに攻撃を仕掛けていくも、その全てが“予見”によって回避されてしまう。




 ブンッ!!




 敵の鎌を、後ろ飛びで避ける月森。

 そこへ急に、横から猛獣がバズヴに向かって飛び掛かってきた。

 それが人間の奇襲だったならば、バズヴはすぐに察知して回避を成功させていただろう。

 人間や機械などのが先にくる行動に対して、“予見”は絶大な威力を発揮する。その反面、で行動してくる相手に対しては先読みが効きにくいのだ。


 それが、ならば尚更に。



 それこそ、明智の【最適解】が導き出した戦術であった。




「オオオオオオン!!」




 バズヴの腕を噛みちぎり、前手まえてで相手を地面に叩きつけると敵はぐったりと床に横たわった。

 今ならば思考を読み取られたとしても、それに対応する動きが取れない。その好機を感じ取った神坂は、【韋駄天】で加速しながら親友に叫んだ。





「ヒカル!例のやつ、いこ!!」




 レベル5のダンジョンへ挑むに当たって、各自でも対策は考えてきていた。神坂と月森はルームメイトということもあり、二人の強力な連携が出来ないかを試行錯誤してきた。





「うん!イグナイト・フープ!!」




 武器のオーバードライブ技を強制的に発動させることが出来る秘宝フープを、高く跳躍した神坂の『スレイプニル・ブーツ』に向けて投射する月森。




「『スレイプニル・ブーツ』、オーバードライブ……八面玲瓏はちめんれいろう!!」



ドドドドドドドドド!!!




 倒れ込んだバズヴへ、そのままキックを炸裂させると神坂は超高速の足踏みで八回連続の蹴撃を叩き込んだ。そして、バズヴは撃破されて黒い霧となって消失する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る