三体の夢魔

 ミッションが表示されると、タイマーも起動されカウントダウンを始めた。その瞬間、女性陣のいる一階にも三体の敵が召喚される。


 一体目は、目元まで隠した黒くて長いボサボサ髪の女。カラスの羽で作られたようなドレスを羽織って手には小振りの鎌を携えていた。


 二体目は灰色の長髪で立派な鎧を装着し、手には二本の矛槍を携えた女。二頭の灰馬が引く馬車にまたがっている。


 三体目は赤毛の長髪で炎のように真っ赤なドレスを羽織った女。一頭の赤馬に直接、跨っていた。


 三人とも2メートルはあろうかという長身で、不気味な雰囲気を漂わせている。



 突如として出現した彼女らの姿を見て、すぐにアスカは仲間に指示を飛ばした。




「各自、ポジションについて!戦闘準備!!」




 それを聞いて、女子たちは素早く武器を身構えると各自で得意とする距離を確保した持ち場に着いた。


 その様子を透けた床越しに見守っていた俺は、すぐに残っていた【鑑定】効果で一階にいる敵たちを解析する。




 黒毛のバズヴ

 召喚型・夢魔級クリーチャー

 身体能力 D

 精神耐性 A

【特性】

 予見

 浮遊

 融合



 灰毛のモリガン

 召喚型・夢魔級クリーチャー

 身体能力 A

 精神耐性 D

【特性】

 騎乗

 魔界式兵術

 闇の防衛術



 赤毛のマッハ

 召喚型・夢魔級クリーチャー

 身体能力 B

 精神耐性 B

【特性】

 騎乗

融合

 火の精霊術




 おそらく、この三体がしもべたちなのだろう。俺は通話機能を使って、委員長に取得した情報を伝えていく。

 コースケとレイジが色々と調べてみてくれてるが、どうやら二階から一階の戦闘に直接介入することは出来なそうだ。幸いアスカたちが勝利するまで此処ここは安全地帯そうだったので、なるべく情報面で支援をしようと試みたわけである。


 委員長を選んだのは、彼女がパーティー内で一番の指揮官適性を持っているからだった。




「来るよ!!」




 その間に、戦闘の火蓋は切られた。

 巨躯の夢魔三人が散開して、アスカたちに突撃していく。




 ドドドドドドドドドッ




 中央ラインでは馬車ごと突っ込んできたモリガンを、ギリギリで上泉と月森が回避に成功した。

 しかし、そのまま直進されてしまえば戦闘力の低い後衛たちが危険に晒されてしまうだろう。




「オオオオオオオン!!!」




 そこへ立ち塞がったのは、犬から姿を変えた巨大な狼。侯爵級悪魔・マルコシアスだった。

 その高らかな雄叫びにモリガンの馬車を引いていた二頭の馬が上体を仰け反らせて驚いて、その動きを止めた。

 一応、ここに入る前にマルコシアスの正体について植村から説明はあったものの、予想以上に迫力のある狼の登場に仲間たちも驚きを隠せない様子だ。


 一方、右サイドでは機動力のある一頭の馬に乗り込んだ“赤毛のマッハ”が左手に手綱を持ちながら右手で火球を生み出すと、目の前にいた“周防ホノカ”へ投射した。




 ドォン!!




【断絶】を使った障壁を手持ちの盾に張り、火球を防ぎきってみせる周防。しかし、その隙を突いて馬を操り、彼女の背後へ回り込むと新たに火球を生成していく。




「……っ!?速い!」




 あわや背中に火球を直撃されるところだった周防を救ったのは、七海アスカだった。




「シルエット・フォー……“狩人ハンター”。ドレスアップ」




 ズドンッ!!




『マルチウェポン』を変形させたライフル銃で敵の生み出した火球を撃ち抜くと、マッハの手元で爆発を引き起こして敵を爆風に巻き込んだ。




「やったか!?」




 しかし、マッハを包んだ火炎はすぐに鎮まると、今度は馬を止めて頭上に両手を上げて大火球を作り始めた。

 ぶつぶつと小声で詠唱のような聞き慣れない言語を呟いているようで瞬時にして、を完成させた。




「全ての災禍さいかを、浄化せよ……プリフィケーション!」




 アスカに襲いかかる大火球は、彼女の目の前で霧散した。後方でサクラが神聖術を発動させて、敵の炎を打ち消してみせたのである。


 そして、左サイドでは高速で飛行してくる“黒毛のバズヴ”と、“神坂ナオ”による激しいチェイスが繰り広げられていた。




 ギャギャギャギャ!!




 鎌を壁に打ちつけて火花を上げながら追ってくるバズヴを、何と壁を走りながら神坂が逃げていた。

 装備している『スレイプニル・ブーツ』の恩恵だった。




「いつの間にか、私がヘイト役になってない!?まぁ、いいけどっ!!」




 ドンッ




 勢いよく壁を蹴って床に着地をしようと試みた神坂だったが、まるでバズヴが下に回り込んで待ち伏せしていた。




「しまった!なんで……っ!?」




 降りてきた神坂にバズヴの小鎌が襲いかかるも、そこへ割り込むように二体のドローンが突撃していく。一体は敵の鎌を弾き、一体はひたいに目掛けて飛んでいくも寸前で回避されてしまった。



 最後方でドローンを操作していた“朝日奈レイ”は、オーバーリアクションで驚いた様子を見せる。




「あー、もう!何で、当たんないの!!」



「おそらく、敵の“予見”能力だと思う。多分、少し先の未来が予測できるんだよ。植村くんが教えてくれた【鑑定】結果に、そう出てた!」




 すぐ隣にいた“明智ハルカ”は、恐れながらも戦況を確認して朝日奈に見解を述べた。

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