ネオ・カブキタウン
一週間後……。
各自で準備を進めつつ、親交を深めながら迎えたダンジョン攻略当日。待ち合わせ場所に集まるメンバーは、それぞれが動きやすいジャージや戦闘服の上に、目立たないよう私服を被せていた。
ネオ・カブキタウン。
前世では大人の歓楽街といわれていたこの街だが、この時代では若者たちにも多少は開けた場所となっていた。とはいえ、休日の昼間に大人数の子供達が集まっているのは流石に目立つというもので。
周囲の様子を伺いながら、三浦が俺に声をかけてくる。
「まさか、ゲートの出現場所がこんな所とはな。揃ったら、さっさと出発した方が良いかもしれん。警官にでも来られたら、色々と面倒だぞ」
「うん。あとは、朝日奈さんだけかな」
確かに冒険者と説明すれば理解はしてもらえるだろうが、職質されてる間に誰かがゲートを発見してしまっては『ダンジョン・サーチ』の意味がない。
「……と、いうか。なんだ?その犬」
「え、用心棒」
「はぁ?」
俺の連れてきた犬こと“マルコシアス”を見て、三浦が怪訝な表情を浮かべる。マルコは、コースケとマコトに可愛がられていた。二人は以前のダンジョン攻略で、ワンちゃんの正体を知っている。
あとで、みんなにも説明しておこう。いきなり、悪魔に変身されたら驚くだろうからな。
と、そこへ……。
「あっぶな!ギリギリセーフ……だよね!?」
ダッシュで到着してきた朝日奈さんは時計を確認しながら皆に聞くと、ヒカルが笑顔で両手を水平に広げ“セーフ”のジェスチャーで応えた。
指差しで人数を数えて全員が揃ったことを再確認して、アスカが号令をかけた。
「よし!みんな、揃ったね。それじゃ、出発するよー!!ユウト、案内よろしく」
「ほーい」
『ダンジョン・サーチ』を確認しながら、みんなの先頭になってカブキタウンを進行していく。
後ろでは、仲の良い者同士で雑談を交わしていた。まるで、遠足の引率気分だ。とても、レベル5のダンジョンに向かう前とは思えない。
まぁ、まだ実感が湧いてないだけだろう。実際、俺もまだフワフワした気分だ。
「キミたち、かわうぃーね。ウチで、働いてみない?」
何やらチャラいスカウトマンらしき男が近づいてきて、女性陣がスカウトされている。芸能プロダクションというよりは、大人のお店の勧誘だろう。こんな時間から、仕事熱心なことである。
ロックオンされたのは、サクラだった。一番、気弱そうな女子を瞬時に見極めるとは、伊達にスカウトマンはしてないか。
「ご、ごめんなさい。今から、予定がありますので……」
「そんなこと言わないでさー。話だけでも、聞いてくれてもいいじゃな〜い」
困惑するサクラを助けてあげようと、みんなが一斉に動き出す中で最初に二人の間を割って入ったのはアスカであった。
「うちら、学生なんで。そういう店では、働けませんよ?」
「大丈夫、大丈夫!歳なんて、いくらでも誤魔化せっから。キミ、積極的だね……やってみない?」
ぐいっとアスカの肩に腕を回してきたチャラ男。
俺は、心配した……もちろん、彼の方を。
男の手首を取りながら彼の背後に回り込んだアスカは無表情で、華麗な関節を決めた。
「いぎゃぎゃぎゃ!ギブ、ギブ!!」
「とっとと帰れ。次は、折るぞ?」
「は……はいっ!すみませんでしたあっ!!」
逃げるように去っていくスカウトマン。さすがに、相手の強さまでは見極められなかったか。ご愁傷様。そんな彼が小さくなっていくのを見届けると、アスカはこちらに振り返って一言。
「あ〜、こわかったぁ……!」
「「「うそつけ!!!」」」
「ちょっと!みんなで、つっこまなくても良いじゃん」
そんな中、アスカ姐さんに心酔した者も何人かいるようで……。
「かっこよかったッス!アスカさん!!」
「え、あ……ありがとう。朝日奈さん」
「あぁ〜!今の、撮影しとけば良かったぁ!!」
「雪鐘さん……とりあえず、ビデオカメラ
「
「お前は、調子に乗るな。サクラ」
そんなやり取りを見ていた神坂さんは、冷静に分析しながらアスカに言った。
「七海さんって、女の子にモテるタイプだよね。男っぽいってゆーか……あ、良い意味でね!もちろん」
「ん〜、そうなのかな?確かに、何度かは同性からラブレターみたいなのを貰ったことはあるけど」
「やっぱりかぁ……同性に支持される女子って、良いよね。うらやましい」
「うち、母子家庭だから。自然と男っぽく育ったってのも、あるかも……でも、異性からモテる方が絶対に得だと思うよ?うん」
確かに、男っぽいか。俺よりも、よっぽどキャプテンシーもあったし……でも、弱いところもあるんだよな。結構。
ちらちら見てると、アスカに視線を勘付かれたようで。
「なに、ユウト?なんか、言いたそうな顔してるけど」
「い、いえ!別に……あ、そろそろ着くよ!!」
「なんか、ごまかされたな……まぁ、いいか」
狭い路地に入って行きゴミバケツなどを回避して進んでいくと、薄暗い壁にその扉はあった。
「あった……金色のゲート。レベル5の入口だ」
それを見てコースケは呆れ顔で、俺に呟いた。
「やっぱ、あるんだよなぁ……もう、理由とかは深く聞かないけど」
「ははっ。いつか、ちゃんと話すよ」
後ろに一般人がいないか気を配りながら、アスカが凛とした声で口を開く。
「さぁ、みんな。準備を……攻略開始だよ!」
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