ゲリラライブ
「たこ焼き、うま!外カリカリで、中フワフワ!!」
「そうなんだよ、無駄にウチの出店ってレベルが高くてさ〜。てか、食レポ上手いな」
かくして俺は、テンと二人で後夜祭に乗り込んでいた。本来ならば、うちの生徒以外は参加禁止らしいのだが風紀委員の二人が上に掛け合ってくれて特別に許可が下りた。
辻斬り事件の解決に協力したことが功を奏したらしいが、ちゃんと恩を返してくれた周防さんたちにも感謝しないといけない。
そんな彼女はというと、目の前で屋台のたこ焼きを頬張りながら嬉しそうにしている。もちろん、周囲にバレないよう変装はしているが、ようやく勇凛祭を楽しんでもらえた気がして誘った甲斐があったというものである。
「ユウトも、食べる?ほら、あーん」
爪楊枝に刺した一個のたこ焼きを、こちらの口元に差し出してくる彼女。照れくさいけど、嫌な気はしない。少しだけ周りの様子を伺いながら、俺は大きく口を開いてそれを受け入れた。
「あっつ!はふ、はふ、あっちぃ!!」
「あはははは!ごめん、ごめん。言うの忘れてた、めっちゃ熱いよ?中身」
「はひ、いへよ!!」
「なんだって?」
先、言えよ!って、言いました!!
テンがイタズラ好きなの忘れてた。絶対に口の中、火傷してるよ……はぁ〜。
でも、まぁ。目の前でケラケラと笑う彼女の姿を見ていたら、別に良いかという気持ちになってしまう。てか、本当に美味いな……このたこ焼き。
「あっ、見てみて!何あれ!?」
何かを発見したのか、テンションを上げながら指を差す彼女の視線の先を追うと……そこには、両手にサイリウムを携えた男子生徒たちが一糸乱れぬ華麗なパフォーマンスを繰り広げていた。
すっかり暗くなってきたのもあって、色とりどりのカラーライトが軌跡を描いて美しい。
「あぁ、オタ芸じゃない?まだ、あったんだ。あの文化」
「なに、オタ芸って?」
「アイドルのコンサートとかで曲に合わせて、ああやってサイリウムを振るんだよ。あそこまでいくと、ひとつのパフォーマンスになってるけど」
「えっ?私たちのライブで、見たことないけど。あんな人たち」
「周りの迷惑になるから禁止されてるところが多いんじゃない?やってるところも、あるんだろうけど」
「さすが、詳しい……オタクくん」
オタクくん、やめて?否定できないけど。
そんなことを話していると、急に聞き覚えのあるサウンドが流れ始めた。“フギン・ムニン”のデビュー曲「ふぎむに」である。
的確にコールを入れながら、曲に合わせてサイリウムを振るオタ芸軍団。ふぎむに効果か、周囲には観客の生徒たちが徐々に集まってきていた。
「いやぁ。まさか、本物の前でやってるとは思わんだろうな〜!ね?テン……あれ!?」
気付くとテンの姿が見えない。なんだろう、何か嫌な予感がしてきたぞ。
「彼の肩には、二羽のカラス!ふぎ・むに・ふぎむに!!」
不安は的中。いきなり、オタ芸集団の前に躍り出たテンは生歌で「ふぎむに」の
ざわざわとしだす生徒たちも、次第にその正体に気付いていく。てか、気付かせにいってるのだから当たり前なのだけれど。
「マジ!?本物っすか?」
「本物だよ!生徒会ライブで、見たもん!!残っててくれたんだ〜」
「ゲリラライブかよ!あち〜!!」
どっと歓声が上がるとテンは更に本意気で歌い始め、オタ芸集団も一瞬だけ戸惑いを見せたものの負けじとヒートアップしてサイリウムを振るスピードを加速させていく。
いや、なんでそっちも気合が入ってるんだ。
そのうち、後夜祭に参加していた生徒たちのほとんどが集まって即席のライブが繰り広げられていった。何かのイベントだと思われてるのか、観客たちも一定の距離を保って歌い踊るテンの姿を見守っていた。これなら、ボディーガードはいらなそうか。
しかし、テンの目立ちたがり屋にもほどがある。そう考えると、アイドルという職業は彼女にとって天職なのかもしれない。
気付けば、俺も観客の一人となって“忍頂寺テン”というアイドルの単独ライブに釘付けになっていたのだけれど。
「ふぎむに」の演奏が終わり、ハッと我に帰った俺は素早くテンのもとに駆けつけると観客たちに向かって叫んだ。
「これにて、サプライズイベントは終了でーす!ご声援、ありがとうございました〜!!」
あくまで、スタッフのふりをして颯爽と彼女を即席ステージから遠のけていく。幸い、執事の衣装がスタッフっぽく見えなくもない。
すると、万雷の拍手と指笛で送り出された。
さすが未来の冒険者たち。追いかけてきてサイン責めみたいなマナー違反は起こさない。スマートな観客たちで助かった。
とはいえ、念には念を入れて【隠密】を使い、彼女と共に建物の影へと逃げ込むと、完璧に生徒たちを
「よし。何とか、
「あ〜、楽しかったー!めっちゃ、ドキドキしたぁ!!」
「ドキドキしたのは、こっちのセリフだっつーの」
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