レヴィアタン

「あんた、そんなところに隠れて……一体、何をしていたんだ?」



「何って……面白そうなことをやってたから、静かに見学してただけだけど。何か、問題でも?」




「人避けの結界」を看破してきたってことか。

 明らかに怪しいけど、何の証拠もない以上は追求することもできない。

 しかし、テンはそんなことなどお構いなしで。




「昔から、犯人は現場に戻ってくるって相場が決まってんの!アンタが、この事件の黒幕なんでしょ!?」



「アハハッ!それ、ってやつ?そうだと言ったら、どうするつもり!?」



「決まってるでしょ!ここで、とっ捕まえてやるんだから!!」





 ニンジャ・スクロールを展開させたテンは、金遁アース・ブリッツの術式を発動させ“レヴィアタン”なる人物に向けてクナイを一斉掃射した。





「テン、落ち着け!まだ、黒幕と決まったわけじゃ……!!」



「大丈夫!あんな怪しい仮面をつけて隠れてたんだから、やましい気持ちがあったからに決まってるって!!」





 気持ちは分かるが黒幕だとしても、もう少し様子を見たっていいだろうに。そう思ってしまうのは、俺が慎重すぎるからなのか。


 一方、無数のクナイが飛来してくるにも関わらず微動だにしない“レヴィアタン”は、あわや命中するといった直前に超高音の叫びのような声を発した。

 すると、飛んできたクナイがブルブルと振動して次々と地面に落下していく。





「な、なんだ……今のは?」



「今のは、コウモリの超音波パルス。嫉妬するほど、便利な特技でしょ?」




 そういえば、さっきはカメレオンの色素変化とかなんとか言ってた。もしかして、奴のユニークスキルは生き物の特性を模倣コピーできる類のものなのか?


 それには、テンも薄々と勘づいたようで。





「なるほど。アンタのスキルは、さしずめ【動物図鑑】みたいな感じ?獣人系のユニークは珍しくないけど、複数の生物の力を操れるのはレアかもね」



「勘違いしないでくれる?私が使えるのは、だけ。強くも美しくもない力なんて、必要ないから」





 そうだった。『万魔殿パンデモニウム』の連中は、俺と同じ大罪スキルの保持者だった。

 だとすれば、奴の大罪スキルは【嫉妬】か。

 嫉妬した他の生物の性能を再現することが出来る……そんなところだろう。

 だとしたら、確かに強力だ。





「それなら、近接戦闘はどう!?」




 雷光刀ヴァジュラを構えて高速突撃していくテンだったが“レヴィアタン”は彼女を上回るスピードで、その全てを回避していく。




「これは、狩猟豹チーターの脚力。アハハッ、美しいだろ!?」




 急に荒々しい口調になって、強烈な蹴りをテンの腹部へとカウンターで叩き込む“レヴィアタン”。

 しかし、吹き飛ばした相手は丸太の姿に化けた。

 シノビ・アーツ“変わり身”を使ったのだ。


 そして、いつの間にか敵の背後を取っていたテンは数本のクナイを“レヴィアタン”の影に打ち込むと、今度はシノビ・アーツ“影縫い”を発動させる。




「これで、アンタの足は使えない!もらった!!」



「へー。なかなか、やるじゃん」




 余裕綽々と仮面の下で笑みを漏らしたレヴィは、足裏に力を込めて地面から激しい土煙を発生させ自身の姿を見えなくさせた。




 ゴウッ!!!




「あっ、こら!逃げんな!!」




 てっきり、煙幕のようなものを張って逃げられたのかと思ったテンの背後に違う土煙が立ち昇る。

 そこから現れた“レヴィアタン”は刃物のように伸びた爪で、彼女に切りかかった。


 それを間一髪で反応すると、今度は敵の猛攻をテンが雷光刀を使って捌いていく防戦一方の展開に打って変わる。




「これは、土竜もぐらの性能。アタシは、逃げも隠れもしないよ?どこにもね!」




「くっ!」




 テンが次の一手を繰り出そうと考えていると、急に“レヴィアタン”の攻撃の手が止まった。




「……と、言いたいところだけど。そろそろ、結界が切れそうか。ここで目立つわけにはいかないんで、そろそろ退散させてもらおうかな」



「はぁ!?逃すわけないだろ!」




 レヴィは掌をテンに向けると、白い糸の塊が飛んでいき彼女の全身を拘束した。




「それは、説明しなくても分かるよね?蜘蛛の糸。キミみたいな威勢のいいは嫌いじゃないから、ゆっくりとまた時間がある時に遊んであげる。それまでに、腕を磨いておきなね」



「くっ、この……ほどけ!」



「ホントはキミじゃなくて、そっちのボウヤと遊びたかったんだけど……楽しかったから、いいや。忍頂寺テン、だっけ?覚えておいてあげるよ。ふふっ」




 そう言うと“レヴィアタン”の姿は、完全に消えた。これもカメレオンの色素変化か、それともまた別の生物の特性か。追う気になれば追跡することも出来たかもしれないが、奴が黒幕という確たる証拠もない。その途中で奴らの仲間が現れたら、俺一人では分が悪いだろう。


 そして、何より……。




「ユウト!あいつ、追って!!逃げちゃうよ!?」



「落ち着け。こんなところでグルグル巻きにされてるアイドルを放っておいたら、正体バレどころの騒ぎじゃないぞ。黒宮さんに、殺されちゃうよ」



「う、うぅ……ごめんなさい」



「でも、無事で良かったよ。多分、本気の戦闘になってたら、互いに無傷じゃ済まなかっただろうからな」



「あいつ……一体、何者なの?『万魔殿パンデモニウム』って、何!?」



「さぁな……俺も、聞きたいぐらいだよ。まったく」





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