雷気招来
「どうだっ!?」
無数に斬りつけた敵の様子を確認する忍頂寺だったが、魔人の皮膚は刃が当たる直前に堅固な血のコーティングによって守られ、大きなダメージは与えられていなかった。これが普通の相手ならば、とっくに終わってたはずだろう。
「グルルルルル……!!」
驚いて一瞬だけ固まってしまった忍頂寺の油断を見逃さず、あっという間に距離を縮めた魔人は彼女の首を片手で締めて軽々と持ち上げてみせた。
「う……ぐっ!シノビ・アーツ……『影縫い』……!!」
薄れていく意識の中で忍頂寺は一体の分身を敵の背後に出現させると、魔人の影にクナイを撃ち込んで身動きを取れなくさせることに成功した。
チラリと見えた仲間の戦線復帰を確認した彼女は、敵の足止めだけに全精力を費やしたのだ。
【虚飾】が、【近接戦闘(格闘)】rank100に代わりました
「雷神八極拳……
倒れ込んでいた牛久の上で『七星剣術・
ドンッ!!
魔人の脇腹へ突き刺さるように拳を命中させると、その衝撃により忍頂寺の拘束は解かれた。
しかし、これもまた直前に血のコーティングを施されてしまい、大きなダメージまでは至らない。
そして、今の一撃で“影縫い”の足止め効果も失われてしまった。再び、猪狩は自由を取り戻す。
「はぁ、はぁ……ユウト!そいつ、めちゃくちゃ速くて堅い……中途半端な攻撃じゃ、こっちの体力が削られてくだけかも!!」
“速くて堅い”か……何ともシンプルな説明だが、分かりやすい。確かにテンの言う通り、フィニッシュ級の一撃でも叩き込まない限りダメージすら与えられそうにない。
だが、“
何か無いのか?安全に、今の彼を無力化する方法は……!
そんなことを考えていると、すぐに体勢を立て直した猪狩くんが魔剣と共に高速で飛び掛かってきた。
「くっ……
俺は瞬時に全身へと雷気を張り巡らせる。
これは、武術ではなく一種の
神経に雷気を通すことによって一定時間、反射神経を跳ね上げることができる自身で編み出した技。
自分が高速で動けるようになるわけではなく、高速の相手に対応できるようになる一種の防衛術のようなもの。
いくら“自動回避”をもってしても、反応が遅れるほどの高速攻撃を連続で打たれれば、いずれ避けきれなくなってしまう。戦う相手が強くなるに従って、いずれは想像を絶する速さを持つ敵とも相対することなるかもしれないと、密かに編み出していた“自動回避”を強化する為のトリガーだった。
その効果は
「……
それは、雷気招来状態でのみ放つことが出来る完全カウンタースタイル。
対して
ドドドドドッ!!!
その姿を見た“牛久ダイゴ”は、驚きのあまり声を失っていた。数々の生徒たちのパワーを吸収して驚異的な身体能力を得て、かつ魔剣による憑依によって魔人化している猪狩に対して、植村が一方的に打撃を加えていたからだった。
「なんちゅう奴じゃ、植村ユウト……底が知れんわい!」
しかし、植村の与えたダメージは瞬時に回復されてしまい、決定的な一打にはならない。
こうなることは分かっていたはずだが、
一周分の人生を経験してるだけあって、多少のことでは怒りの感情は湧かないようになっていた彼だったが、家族に対する思いは自分が想像してるよりも強かったらしい。
ある程度、サンドバッグにして満足した植村は敵が上段から魔剣を振り下ろしてくるのを狙い澄まし、【虚飾】に代替するスキルを変更した。
【虚飾】が、【組み付き】rank100に代わりました
相手の振り下ろしに合わせて、懐に踏み込む。
そして、“敵の鞘”と“刀の峰の部分”の両方に手を添えるとテコの原理を利用して、相手の武器を奪い取った。
マコトから密かに教わっていた新陰流の秘伝・“無刀取り”。もちろん、原理を学んだとしても一朝一夕で再現できる技術ではない。しかし、彼の【虚飾】ならばその不可能が可能となる。
相手から魔剣を奪い取る。シンプルな答えだったが、確かにこれならば猪狩の身体を傷つけることなく魔人を無力に帰すことが出来る。
しかし、奪取したダインスレイヴから“闇の力”が植村へと流れ込んできた……新たな依代を手に入れる為に。
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