不忍人之心
ドドドドドドドドドッ!!!
「うわあああっ!!」
無数に射出された血の羽は、植村のいた手前の屋根に着弾すると彼の立っている足場もろとも崩壊させた。狙ってやったかは定かではないが、そうすることで見事に“自動回避”を発動させることなく強制的に戦場から追放させてみせたのだった。
瓦礫と共に地上へと落下していく植村の姿を見て、テンはあらん限りの声で叫んだ。
「ユウトッ!!!」
その時、偶然にも植村ユウトのことを思う強い気持ちが“忍頂寺テン”のユニークスキル【不忍】の新たな力を呼び覚ます。
“
植村を救いたいと願う慈悲の心が、“加速”以上の恩恵を彼女にもたらした。
「ニンジャ・スクロール、展開。シノビ・アーツ……『
テンの身体に円環の
「ちっ。どこへ、消えた……!」
少し離れた場所に再出現した忍頂寺は、続けざまに忍術を発動させる。
「ニンジャ・スクロール、展開。シノビ・アーツ……『
すると、先ほど敵に跳ね返され地面に転がっていた投げクナイが全て宙に浮遊し始め、切先を猪狩に向けたまま空中で停止した。
『
「ニンジャ・スクロール、展開。シノビ・アーツ……『
黄色く光る
これが【不忍】に隠されていた、新たな恩恵。
本来一つしか使えないはずの術式を、二つ同時に展開できるようになる“重ね”という才覚。
これにより、様々な術の組み合わせが可能となって大幅に戦術の幅が広がることとなる。
浮遊した全てのクナイが火に包まれる“金遁”と“火遁”の混成技。そして、炎の矢と化したテンの
ゴオッ!!
またしても血の翼で振り払おうとする猪狩だったが、着弾した瞬間に彼の羽に炎が燃え移り、あっという間にその全身を激しい業火が包み込む。
「ぐおおっ……!!」
たまらず旋回しながら高く跳躍することで風を巻き起こすと、身を焦がす炎を強引に消し去ることに成功した猪狩。しかし、いつの間にか空中で待ち構えていた忍頂寺が逆さになりながら彼の背中へ組み付くと、きりもみしながら勢いよく共に地面に落下していく。
「ニンジャ・スクロール、展開。シノビ・アーツ……『
ドオオオオオン!!
激しい衝突音と共に土煙の中から見えてきたのは、頭から血を流して倒れる“猪狩ダイチ”。
そして、一本の丸太であった。地面に衝突する直前、忍頂寺だけは“変わり身”の術式を発動させて自爆を
「おぉ……やったのか!?」
目の前で倒れた“猪狩ダイチ”を見て、驚きながら呟いたのは“牛久ダイゴ”だった。
その両手には、植村ユウトが抱きかかえられている。屋根から落ちてきたところを、彼が身を挺してキャッチしていたのだ。
「まだだよ!近付いちゃ、ダメ!!」
一人、屋根の上にいた忍頂寺が全員を見下ろしながら注意を促す。
彼女の判断は正しく、気を失ってるかと思われた猪狩は今までと違う不気味な
「奪ッテヤル……俺ハモウ、“持タザル者”ジャナイ……グルルル」
まるで獣のような唸り声もあげる彼に、その場にいた者たちは悟った。
今、目の前に立っているのは“猪狩ダイチ”であって、“猪狩ダイチ”ではないものだと。
本体の意識が失われたことで、魔剣が一時的に彼の身体を支配しているのだろう。
“柳生ムネタカ”の時とも似ていたが、今回の
ドンッ!!
視界に入った獲物、牛久ダイゴへ一瞬にして間合いを詰めた魔人・猪狩は強烈な拳を見舞うと、彼は抱えていた植村ともども派手に吹き飛ばされてしまう。
「うがああああっ!!」
「そんな……嘘やろ!?」
周防が驚くのも無理もない。彼女は咄嗟に【断絶】による障壁を牛久たちの前に張っていたのだ。
それでもなお障壁ごと打ち破って、二人をワンパンチで吹き飛ばしてみせたということである。
「次はお前だ」とばかりに、魔人と目が合ってしまった周防は震えながらも勇気を振り絞り、手持ちの武装であるハルバードと小盾を構えた。
すると、そこへ忍頂寺が飛び降りてきて……。
「ニンジャ・スクロール、展開。シノビ・アーツ……『
無数に出現する“忍頂寺テン”の幻影たち。
その全てを撃ち落とさんとばかりに、魔人は紅蓮の翼を羽ばたかせ全方位に血の羽を放出した。
「ニンジャ・スクロール、展開。シノビ・アーツ……『
羽が貫いた分身たちは一瞬、煙のように霧散すると再び収束して元の身体へと戻り、代わる代わる魔人の身体へ雷光刀による斬撃を浴びせていく。
多重分身による変則連続抜刀。
後に『乱舞技・
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