囮捜査

「こっちです」




【虚飾】に【ナビゲート】を代替させて、俺が『魔剣ダインスレイヴ』への道のりを案内していく。

 幸い柳生くんが使っていたのを見ていたことで、検索してヒットさせることが出来た。




「【ナビゲート】に、こんな使い方があるなんぞ聞いたことがない。本当に、信用できるんかいの?」



「高rank帯になると、出来るようになるみたいで。探し物がある時とか、便利なんですよね」



「理屈は分かるが【ナビゲート】のrankなんて、どうやって上げたんじゃ。地図を読み漁るとかか?」



「まぁ……そんなとこっス」




 確かに、どうやって上げるんだろ?

【虚飾】で簡単にrank100で使えるのに慣れてたけど、そう考えたら改めてチートだよなぁ……俺のユニークスキル。



 目標に到着しました。ナビを終了します




「……いました。あれです」




 矢印で表示された先にいたのはフード付きのマントを羽織った、あからさまに怪しい人物だった。

 背中には刀袋に包まれた長剣が担がれている。

 俺の【ナビゲート】が正しければ、が『魔剣ダインスレイヴ』のはずだ。


 全員が物陰に隠れて対象の様子を伺っていると、フードの男は挙動不審にキョロキョロと周囲を見回していた。こちらにはまだ、気付いてないようだ。

 周防さんが静かに、口を開く。




「こっからやと、顔が見えへんな。あれが、猪狩くんなん?」



「【鑑定】で、調べてみようか?」



「おぉ、頼りになるぅ!さっすが、万能職バーサトル




【虚飾】が、【鑑定】rank100に代わりました




 しかし、相手のステータスを覗き見ることは出来なかった。前にも同じようなことがあった気がする。




「ダメだ……多分、ジャミングされていて【鑑定】できない。これも、魔剣の防衛機能なのかな?」



「植村くんの【鑑定】でも、あかんねや。そりゃ、GPS探知なんて出来るわけあらへんな」



「どうする……直接、話を聞いてみる?」




 俺が聞くと、牛久くんが少し考えて答えた。




「いや。それは、危険じゃ……素直に、罪を白状してくれるとも限らん。現行犯で取り押さえるのが一番じゃろう」



「誰かが襲われるのを待つんですか?」



「これ以上、他の生徒を危険に晒すわけにはいかん。犯人の狙いは、全てハイクラスの人間……ワシが、おとりとなろう」




 上着の袖をまくって丸太のような腕を見せながら、牛久くんは気合を入れて前に出た。




「大丈夫!?牛久くんでも、危険やで?」



「わかっちょるが、おぬしらを信頼しとる……頼んだぞ。植村、周防、忍頂寺」




 そう言うと制止する暇もなく、彼はフードの男の方へと歩いて行ってしまった。絶妙な位置をキープしつつ犯人の視界に入りながら、わざと暗がりの道へと入っていく。もし、相手が本当の辻斬りならば、この絶好の機会を逃すわけはないというわけだ。


 すると、フードの人物も吸い込まれるように、牛久くんの後を追って暗がりの道へと足を踏み入れる。俺ら残された三人もアイコンタクトを交わして、尾行を再開した。


 建物の影に完全に入ると、犯人と思われる人物は刀袋から慣れた手つきで魔剣を取り出した。いざ斬りかかろうとしたその時、牛久が不意に振り向く。




「やはり、おぬしが犯人か。辻斬り……いや、猪狩ダイチ」



「お前……囮か」



「一年ハイクラスA……風紀委員の牛久ダイゴじゃ。大人しく、お縄についてもらおうか」



「ちょうどいい。どれだけ俺が強くなったのか……確かめる良い機会だ」




 かぶっていたフードをあげて“猪狩ダイチ”が姿を現すと、動じることなく魔剣を構えた。




「ふん。おぬしの得意な【闇討ち】は、もう通用せんが大丈夫そうか?」



「大丈夫かどうか、すぐに分かるさ」



「……?」




 一瞬で目の前から姿を消した猪狩は、牛久に気付かれることなく背後に立っていた。そして、音もなく魔剣の一太刀を彼の背中に浴びせたのだった。




「がっ!?いつの間に……?」



「なるほどな。ノロマだが、怪力パワーだけは大したものだ。全身から、力がみなぎってくる」



「貴様……ワシの力を、吸収したの……か!?」



「どうだ、俺の【闇討ち】は。見えなかったろ?」




 ギィン!!!



 そこへ振り下ろす、とどめの二太刀目。

 しかし、それを突如として牛久の前に出現した光の障壁が防いでみせる。




「そこまでや!牛久くん、大丈夫!?」




 それは、周防ホノカの【断絶】による障壁だった。危機一髪のところで、牛久の命を救ってみせた。




「周防か……助かったぞ」




 現れた三人の姿に、さすがの猪狩も危機感を強めたようで。




「増援か。一対四では、さすがに分が悪いな」




 軽く屈伸をしたかと思うと異常な跳躍力を見せた猪狩は、なんと建物の屋根までジャンプし着地してみせた。数々の生徒たちのパワーを吸収したことで、彼の身体能力は大幅に向上していたようだ。

 その様子を見て、テンが叫ぶ。




「ユウト!あいつ、逃げる気かも……追わないと!!」



「うん!わかった!!」




【虚飾】が、【跳躍】rank100に代わりました




「ニンジャ・スクロール、展開。シノビ・アーツ……『風遁ウィンド・フロート』!!」







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