風紀委員
「植村くん!」
いざテンと出発しようとした時、俺は後ろから呼び止められて恐る恐る振り向くと、駆け寄ってきたのは意外な人物・“
「周防さん?」
「ちょうど、良いところに!聞いてもらいたい話があるねんけど……あれ、その子って」
腕を組んでいた女子のことを、まじまじと見つめ始める周防さん。慌てて、帽子を深く被るテン。
もしかして、最速で正体がバレてしまったのか?
「えっと……この子は」
「わかった!植村くんの妹さんやろ!?カワイイ〜」
「なぜ、そうなる!?妹と腕を組むのは、おかしいでしょ!」
「仲良い兄妹なら、あるんやない?はっ!まさか、植村くんの彼女……って、こと!?」
しまった。余計なことを言ってしまった。
妹ということで話を合わせておけば良かった。
「いや。それも、ちが……」
「そうです、彼女です!いつも、うちのユウトがお世話になっております〜」
鋭いカットインで彼女アピールを始めるテン。
変なギアを入れてきおって……かといって、ここで否定しても喧嘩になりそうだし。この場は、そういうことにしておこうか。周防さんには、後から誤解を解けばいいだろう。
「まさか、植村くんに彼女がおるやなんて……なんやろ、負けた気分になってきたんやけど」
「どういう意味じゃ。そんなことより、聞いてもらいたい話しって?」
「ん〜……でも、デート中やったらええかな。やっぱり」
諦めて立ち去ろうとする周防さんを呼び止めたのは、今だけは俺の彼女となったテンだった。
「良いですよ、私のことは気にしなくて。もしかして、いない方がいいなら離れておきますけど」
「え……ほんまに?でも、聞くだけなら一緒でもかまへんよ。その代わり、他の一般客たちに聞かれるわけにはいかへんから。少し、場所を移してもええかな?」
テンはこちらを向いて、判断を委ねてきた。
彼女の貴重な自由時間を尊重してあげたい気持ちもあるが、話ぐらいは聞いてあげてもいいだろう。何か深刻そうな気配だし。
こうして、周防さんに先導されて人のいない場所まで移動を始めると、その途中で彼女は誰かと通話を始めた。まだ、誰かを呼ぶつもりなのだろうか。
薄暗い路地裏で雑談しながら待っていると、呼び出された一人の巨躯の男性が近付いてきた。
よく見ると、それは俺とも面識がある“牛久ダイゴ”さん。その人だった。
「周防。ご苦労じゃった!」
「まだ説明はしとらへんから。ダイさん、よろしく」
「おう。任された!」
意外な組み合わせだが、どういう関係なんだ?
同学年だけど、クラスも別々のはずだ。
「あの、お二人は一体どういうご関係で?」
「二組目のカップル!?」
急に嬉々として話に入ってきたテンに、牛久さんはポリポリとこめかみを掻きながら答えた。
「違う、違う。わしらは、同じ風紀委員なんじゃ。今、内々で勇凛祭で起こっちょるトラブルの解決に当たっとるところでな」
「トラブル……何か、あったの?」
「うむ……っちゅーか、この子は誰じゃ?ワシらが聞いてもらいたいのは、植村ユウトだけなんじゃが」
「えー。でも、私も冒険者ですよ?それなりに、役には立つと思うんだけどな〜」
待て待て。自分から、どんどんと情報を提供すな。何の為の変装なんだ。
「冒険者?うちの生徒では、ないようじゃが……ライセンスは、持っちょるのか!?」
「あーっ!!!」
突然、テンを指差して大声をあげる周防さん。
これは、嫌な予感がしてきました。
「テンちゃん!?“フギン・ムニン”のテンちゃんだよね?」
「しーっ!今、お忍び中なんで……」
「あぁ、ごめん!そっか、今日は生徒会主催のライブに出演するから……でも、何で植村くんと!?」
「それは、彼女だから」
「えぇっ!?ほんまに、付き合っとるん?」
俺が弁明に入ろうとすると、その前に牛久さんが大きく咳払いしてその場を納めた。
「忍頂寺テン……確か、『ヴァルキュリア』九戦姫の一人だったか。そうなると、頼もしい戦力になるかもしれんのう」
「とりあえず、まずは話を聞いてから。それで、トラブルって?」
「うむ。昨日から、辻斬り事件が立て続けに起きている。この勇凛祭の裏で、な」
辻斬り事件……そういえば、担架で運ばれている生徒を見たような気もする。被害者だったのか?
周防さんが、続けて事件の説明を始めた。
「全ての被害者の命に別状は無かったものの、みんな背後から剣で斬り傷を付けられていて、重傷を負った子もおる。おそらく、犯人は同一人物……そして、まだ捕まっとらへん」
「それって……避難勧告を出して、学園祭を中止にした方が良いんじゃない?」
「それも考えたんやけど、今回の事件……どれも、
なるほど。闇討ちが犯人の手法だったら、騒ぎになる前に解決することも難しくないという判断か。
どちらにしても危険だというなら、そちらの方が対処はしやすいかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます