バトンタッチ

「うまっ!学生店舗、クオリティー高過ぎない?ここらへん回ってるだけで、一日いれるんだけど」




 委員長に発注を終えて、すっかりご機嫌のナギは近くにあったハンバーガーショップに寄って、共に小腹を満たしていた。

 彼女の言う通り、ハンバーガーのレベルは学生が作ったとは思えぬ美味しさで、俺ですら知らなかった穴場だった。委員長の裁縫技術しかり、冒険者たちの副業技能が優秀すぎる。ユニーク以外に、際立ったスキルを持たない俺にとっては少し憧れてしまう。




「そろそろ、交代の時間だけど……もう、行きたいとこない?」



「んー。あるっちゃ、あるけど……遅れたら、テンに怒られそうだし。あとは、入学してからのお楽しみに取っておこうかな」



「おっ。やっぱり、入学してくるんだ?『冒険者養成校ゲーティア』に」



「なに!?嫌なわけ?」




 自分の口元についたハンバーガーのソースをぺろりと舐めとりながら、キッとこちらを睨んでくるナギ。




「ち、違うよ!ただ二人とも、すでに冒険者としては一人前だと思うし。芸能活動も忙しそうだから……専念って道もあるのかなって」



「それは、そうなんだけどさ。それでも、冒険者養成校ここに入学したいっていう意見はテンと一致したんだよ。何でだと思う?」



「何で……そりゃ、冒険者にとって専門的な知識

や技術が身につくからじゃないの」



「はぁ〜。相変わらず、女心が分かってないよね。そんなんだから、テンが怒っちゃうんだよ」




 それは、別に俺のせいではないぞ!?

 アスカが、急に訪問してきたからで……まぁ、元を辿れば俺のせいではあるのかもしれないけど。




「よし、食べた!じゃあ、行きますか!!」



「えっ、良いけど。結局、入学したい理由って何?」



「決まってるでしょ、そんなの。《《ユウトがいるから》だよ。理解した?」




 予想外の答えに、反応に困った俺は無言のまま照れてしまった。こういう時ウィットに富んだ返しが出来るような人間になりたいと切に思う。

 正直に言うと、テンから好意を向けられてるのには薄々と気づいてはいた。そこまで、俺も鈍感ではない。だけど、二人の意見ということは……。




「それって、ナギも……?」



「うわ、ひっどい。私は、恋愛対象外ってこと?」



「そういうんじゃなくて!オタ友ぐらいにしか、思われてないのかと……」



「ふふっ。それも、間違いではない。こういう素の私を曝け出せる異性って、ユウトぐらいしかいないんだよ。一緒にいて楽しいって、好きになる理由としては十分じゃない?」




 さらっと言ってるけど、めちゃくちゃ大胆なことを告白してないか?俺が、必要以上に意識しているだけかもしれないけれど。

 何にせよナギにまで慕われていたとは驚きだが、素直に嬉しい。これも、【魅惑】効果のおかげなのだろうか?いや、余計なことは考えまい。





「あ……ありがとう。嬉しいよ」



「どういたしまして。絶対、テンには言わないでよ?言うとしても、自分の口から伝えたいから」



「も、もちろん!」




 それって、テンにライバル宣言するってことか?

 それは、それで俺の立場が危うくなるような。

 二人とも幸せにします!とか言ったら、ボコボコにされそうだが……本当に、ハーレムなんて作れるのだろうか。不安になってきたぞ。



 最初の待ち合わせ場所に戻ると、人の流れも段々と増えてきていた。ここからはより一層、正体が気付かれないように注意しないといけないだろう。




「ナギ、時間通りね。楽しめた?」




 黒宮さんがやって来て、ナギに尋ねる。彼女も時間ぴったりに来るあたり、真面目な性格が伺えた。




「うん!正体も、バレなかったし」



「それは、良かった。じゃあ、次はテンのエスコートをお願いしてよろしいですか?植村さん」




 彼女の後ろから、ひょこっと姿を現したテンは無言で俺に鋭い眼光を向けてきている。

 昨日のこと、まだ怒ってるのかな。やっぱり。




「じゃあ、またねー!ユウト!!」




 そんなことなどお構いなしに、颯爽と黒宮さんと共にナギがリハへと向かって去っていく。気まずい……もう少しだけ、残っていて欲しかった。

 久しぶりに見るテンは、また一段と大人びていた。もちろん、成長期というのもあるだろうが、芸能界にいるというのも大きい気がする。




「ひ、久しぶり。こうして、ちゃんと会うのって、どれぐらいぶりだっけ?」



「うーん……空中戦艦の時以来、かも」




 おぉ、ちゃんと答えてくれたぞ。そこまで、怒ってるわけじゃないのか?

 ナギと同じような変装をしていてパッと見では気付かれないだろうが、やはり彼女にもオーラが漏れ出ている。あまり、外で長居するのは危険だろう。




「ここじゃ、目立つから……どっか、静かなところに移動しようか?まずは」



「うん」




 すると、彼女は不意に駆け寄ってきて俺と腕を組んできた。テンが積極的なのは知っているが、相変わらず良い意味で心臓に悪いことをしてくる。




「ちょ!バレたら、ヤバくないっすか?は」



「私は、別に良いけど?二人で、スクープされちゃっても」



「やめなさい。キミらのファンに、殺されるわ」



「でも、腕は外そうとはしないんだ?優しいね〜、ユウトくん」




 ぐぬぬ……ナギ以上に、振り回されそうな予感。

 でも、機嫌が良さそうで安心した。




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