コスプレ

「なるほど。『ヘプタメロンの魔導書』で、召喚したんだ?」



「うん。コロポックルは生活妖精で、色々な雑用を手伝ってくれるの。みんなで協力して手に入れた秘宝を、こんな私用で使うのはどうかとも思ったんだけど……」



「別に良いでしょ。もう、委員長の所有物になったんだし。むしろ、使わないと勿体ないよ」




 邪神でも召喚するような魔導書だったら問題だろうが、これぐらいの小人なら平気だろう。

 しかし、都市伝説とかでは聞いたことがあったが実際に見てみると、不思議な感覚だ。髭をたくわえた小人コロポックルたちが、みんなで協力しながら丁寧に刺繍を重ねている。俺の目の前で。




「コロポックルたちの技能は、召喚者に依存するらしくて。何も教えてないのに、私が指示を与えた通りに裁縫してくれるんだ。私の手芸スキルが、引き継がれてるみたい」



「おおっ、それは便利。呼び出せる精霊は、この子たちだけなの?」



「ううん。ダンジョンポイントが貯まるごとに、召喚できる精霊は増えていくみたいなんだけど。今、使役できる精霊は三種類ぐらいかな」




 また、ダンジョンポイントか。

 ポイントを稼ぐ為にもダンジョンに挑む時には、なるべく多くのギルドメンバーを連れて行った方が良いかもしれない。いわゆる、RPGでいうところの経験値稼ぎってやつである。


 俺たちが話してると、一人で店内を物色していたナギが一着のコスプレ衣装を手に取って、こちらへと戻ってきた。




「ねぇねぇ、ユウト!これ、何か分かる!?」



「えっ、すご。『魔女っ子☆ミラたん Revolution』じゃん。ミラの魔法少女コス?」



「さっすが、正解!凄い完成度クオリティーだよね、これ。市販で出回ってる奴も見たことあるけど、ここまで精巧には作られてなかった気がするんだけど」




 その時、ガタンと急に立ち上がって作業を中断する委員長。そして、興奮した様子で俺たちに話しかけてきた。





「二人とも、“魔女ミラ”好きなんですかっ!?」



「え、あぁ……うん、好きかな。色んなアニメ見てきたけど、“魔女ミラ”はトップ5には入る。私ん中で」



「わかります!他には、どんなアニメが好きなんですか!?」




 オタクというものは素晴らしい。趣味が合うというだけで、一気に距離を縮めることが出来るのだ。

 見た感じは正反対の委員長とナギは、すっかり打ち解けてアニメトークに華を咲かせ始めた。

 これを機に、俺も明智さんと仲を深められると良いのだけれど。




「せっかくだし、私のコスプレ衣装も発注しちゃって良い?」



「もちろん!あ、でも……支払いは、学生通貨じゃないとダメなんだよね」



「それなら、大丈夫。ユウトが立て替えてくれるから!ねっ!?」




 両肩を掴まれ、小悪魔な笑顔で圧をかけてくるナギ。まぁ、良いだろう。そこそこ、稼げてるし。

 俺が委員長に頷いてみせると、彼女も了承してくれたようで話を続けた。




「わかりました。それでは、希望の衣装などありますか?」



「『流星のジークリンド』に出てくる、女騎士シーダ!知ってる!?」



「うん、知ってるよ。ゲームから、アニメ化もしたよね。それなら、いけると思う。武器などの小道具は、どうします?」



「それも、作ってくれるの?」



「ご要望とあらば。その代わり、費用はかさんでしまうんだけど……」



「いくら、かかっても構いません!完璧なコスで、お願いします!!」




 おい。支払うのは俺なんですけど!?

 予算オーバーしないよな?不安になってきた。




「かしこまりました。納品の期日など、ご希望はございますか?」



「それは、特に……いや!12月までに、お願いしようかな」



「それは、何か理由でも?」



「その作ってもらったコスで、『コミック・パレード』に参戦しようかなって。今、思いついた!」




『コミック・パレード』。年に二回、開催される国内最大規模のアニメ・漫画の祭典である。

 オタクなら誰しもが知ってるようなメジャーイベントであり、もちろん委員長も驚いていた。




「コミパに出るんですか!?コスプレ経験は?」



「ない!けど、ノリで何とかなるでしょ。多分」



「す、凄いですね。初コスプレで、コミパですか」



「明智さんは、参加したことあるの?」



「え、あ……はい。まぁ、一応」




 あるのかよ!?意外すぎる。いや、これだけ作ってれば自分でも着てて当たり前か。




「じゃあ、一緒に参加してくれない?私も、経験者が一緒の方が心強いし」



「えぇっ!?私と、ですか?」



「うん。ついでに、ユウトも」




 なぜに、俺!?しかも、ついでかよ!

 趣味に関することとなると、急にグイグイくるんだよな。ナギの奴。




「大丈夫なの?一応、有名人なんだから。そんなとこでバレたら、ヤバいと思うぞ」



「その為の、ユウトでしょ。ボディーガードよろしくね!今日みたいな感じで」





 すると、委員長が掛けていた眼鏡をクイッと上げながら、ナギに近寄って……ようやく、気付く。





「え、ええええっ!?『フギン・ムギン』の那須原ナギ……さん?」



「おっ、うれしー。知っててくれて。何なら、お店にサインでも飾ってあげよっか?」



「えっ、お願いします……じゃなくて!なんでナギちゃんが、こんな店に来てるんですかっ!?」




 しょうがない。一から説明してあげるとするか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る