盛況

 怪しい占い師の導きで、ハーレムルートに足を踏み入れたかもしれない俺。家庭科室に戻ると待ち疲れたのかヒカルも眠りについており、仕方なく俺も就寝することにした。


 そして、ついに勇凛祭一日目を迎える。

 とにかく、まずは喫茶店に集中だ。





「いらっしゃいませ、お嬢様がた。三名様ですね?どうぞ、こちらへ」




 スマートな接客で、三人組の女性客を席へと案内していくイケメン執事のマコトくん。普段は消極的な性格のくせに、今はやけに堂々としている。

 やはり、服装というのは中身にも影響を及ぼすのかもしれない。




「次、四名様。ご来店〜」




 教室の入口で、受付を担当していた“三浦レイジ”が、外のお客様をさばきながら適切な人数を中に招き入れていく。そもそも座席数が少ないということもあるだろうが、サクラとマコトの等身大パネルが客を呼び込んだのか、開店して間もなくして既に外では行列が出来るほどの盛況っぷりを迎えていた。




「キミ、可愛いね?連絡先、教えてよ」



「あの、お客様。そういうのは、ちょっと……」



「いいじゃん、いいじゃん。いっぱい、注文しちゃうからさー」




 いかにも、チャラそうな男二人組にナンパされているのはメイド姿のサクラだった。口説きたくなる気持ちも分かるだけに、こういうトラブルが起きるであろうことは店側も事前に想定済みだった。


 目ざとく店内の様子を見て回っていた執事・霧隠シノブが店員たちのグループ通話を使って指示を飛ばす。




「3番テーブルで、トラブル発生。山田、出番だ」




 すると、仕切りで区切られていた厨房ゾーンから、のそのそと威圧感たっぷりの“山田ジュウゾウ”が出てくると、困惑していたサクラの後ろに立ちナンパ男たちに鋭い眼光を向けた。




「うちの従業員に、何かご用ですか?コラ」



「い、いえ!何でも!!追加注文したかっただけですッ」



「じゃあ、とっとと頼めや。後がつかえてんだろーがよ」



「はいっ!マフィンセット、レモンティーで!!」




 そして、再び厨房の奥へと消えていく山田くん。

 接客なんてしたくないと言っていたので、用心棒役を引き受けてもらったわけだ。このデカい図体でコワモテの男が姿を見せれば、それだけである程度のトラブルが治ってしまう。まさに、適任。




「おーほっほっほ!それだけで、よろしくて?まだまだ、いけるでしょう。男なら!!」



「じゃ……じゃあ、チーズケーキも追加で」




 メイドの綾小路レイカさんは気弱そうな一人客の男子に追加注文を迫っていた。その態度は、“メイドを使う側”の素が出まくってしまっている。

 それをすかさず神坂さんがフォローして、怯えるお客様にペコペコと頭を下げていて。




「お待たせいたしました。マフィンセットでーす」




 朝日奈レイの音声と共に飛んできたドローンが、注文されたメニューをテーブルに降ろす。

 まるで自動配膳ロボットのドローン版。

 厨房ゾーンでは、メイド服姿の朝日奈さんが遠隔操作しながら迅速にメニューを運搬させていた。

 メイド服に着替えている意味があるのかどうは謎だったが後ろでは腕を組んで座っている山田くんの姿もあって、なかなかにシュールな絵面であった。


 やたら、個性の強いメイドや執事ばかりだが、逆にそれが話題になったのか噂が噂を呼んで更に集客は増えていく。




「ユウト!マフィンセット、追加で三つ。あと、チーズケーキセット、一つ。レモンティー2、コーラ1で!!」



「はーい、了解!!」




 厨房では、俺とヒカルがフル稼働していた。

 狭さもあるので、二人以上だと逆に危なくなってしまうのだ。とはいえ、やることはケーキを温め直してドリンク類を注ぐぐらいだったのだが、想定外の客入りのせいで用意していた菓子類が底を突きつつあった。




「どうしよう、ユウトくん!マフィンが、あと20を切っちゃった……新しく、仕込んでくる!?」



「そうだね。お願いしていい?その間、厨房には神坂さんに入ってもらうから!」



「わかった!えっと、持っていくのは粉とグラニュー糖と……きゃっ」





 明らかに焦っていた彼女は、足元の注意を疎かにしてしまったのかバランスを崩してつまずいてしまいそうになるも、すぐに反応して何とか俺が支えてあげることに成功した。





「大丈夫?ヒカル」



「あっ、ごめん……私」



「忙しい時ほど、落ち着いていこう。みんないるから、何とかなるから……ね?」



「ユウトくん……うん、そうだね。ありがとう、落ち着いた」





 密着した距離で、しばらく二人が見つめ合っていると……朝日奈さんから、痛烈なツッコミが入った。




「だからって、落ち着きすぎ!皆さん、待ってますよ〜?お二人さーん!!」



「「は、はいっ!!」」




 慌てて身を離した俺たちは、再び各自の仕事へと戻っていった。すっかり、朝日奈さんたちがバックヤードにいたことを忘れていた……恥ずかしい。


 こうして、俺たちの『メイド&執事喫茶』は大盛況のまま午前の部を終えたのだった。


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