占い・1
中条先輩に頼まれて、三階の開けた廊下に展開された紫色の小さなテント内に椅子や机などを搬入してゆく。力仕事になるということで、ヒカルには家庭科室でマフィンの完成を待ってもらっていた。
せっかく、良い感じだったのに……とは思いつつ、中条先輩には日頃からお世話になっている恩もある。どうしても、断れなかった。
「しかし、驚きましたよ。まさか、個人で“占いの館”をやるつもりだなんて」
そう。彼女の格好はコスプレなどではなく、本当に占い師になるつもりだったのである。学生店舗システムの延長として、勇凛祭では個人での出店も許可されていた。
なので中条先輩がやるとしてもお弁当販売とか、その辺かと思っていたのだが……。
「そりゃあ、私のユニークスキルは【占い】ですから!こういう時に、使っていかないと」
「えっ!?そんなユニーク持ってたんですか?なら、日頃から占いの館を開いた方が良いのでは……」
「何それ?私の料理では、稼げない……って、言いたいの!?」
「ちちち……違います!違います!!」
先輩の料理は決して不味くない。むしろ、普通に美味い。ただ、非常に庶民的で特徴が無いというだけで……決して、ディスってませんよ?ええ。
「昔は、よく友達に占ってあげたりしてたんだけどさ……当たりすぎるから嫌なことが起きた時とか、私のせいみたいに言われたりして。そういうのにウンザリして、プライベートでは使わなくなったんだよね」
「あぁ〜、なるほど。占い師なんて半分、メンタルケアみたいな職業ですもんね」
「そうそう……だから、こういうイベントの時ぐらいで丁度いいんだって。じゃーん!占ってくれたお客様には『灰猫亭』の特別クーポン券も贈呈する予定だよ〜」
ピラピラと手作り感満載のクーポン券の束を見せびらかして、ドヤってくる先輩。しっかりと自分の店への導線も作っているとは、店長に抜かりなし。
「でも、【占い】って何でも分かっちゃうんですか?結構、最強じゃないですか。それ」
「それがさ〜、恋愛に関することしか占えないんだよ!あとダンジョンに入った時だけ、その中で起こりうる事象を予知することができるぐらい」
それが【占い】のダンジョン限定効果か。
冒険者としての中条先輩について何も知らなかったけど、特殊な“アンサー”ポジションといった感じだろうか。
「でも……恋愛占いなら、女子とかには人気が出そうじゃないです?」
「だと、良いんだけど。植村くんも、占ってあげようか?搬入を手伝ってくれたから、無料サービスで見てあげるよ」
「え、マジすか?良いんですか!?」
「うん!リハーサルもしておきたかったし、練習台になってよ。ついでに」
本当は、そっちが目的だったのでは……?
まぁ、いい。無料なら、練習台にでも何でもなってやろう。ちょうど、色恋沙汰で悩んでたし。
「では、お掛けになってください」
急に紫のフェイスベールで口元を隠した先輩は、エレガントな布を敷いた机の上に神秘的な水晶玉を置き、俺と対面になって座った。
“ザ・占い師”すぎて逆に胡散臭いまである。
「よ、よろしくお願いします」
「占ってもらいたい内容は、“恋愛”についてでよろしいですね?」
「あ……はい、それで」
それしか占えないんだから、そりゃそうなる。
すると、彼女はまじまじと俺のことを見つめてきた。いや、水晶玉は使わへんのかーい。
「これは……素晴らしい。大変、恋多き星に生まれてきていますね。あなたは」
「それって、褒められてるんです……よね?」
「もちろんです。あなたは自分で気付いていないようですが、好意を抱いた異性に対して強力なフェロモンを放出しているようですよ。何か、心当たりは?」
占いって未来だけじゃなく、そんなことまで分かるんか?と、ゆーか。そんな心当たりなんて、あるわけが……いや、待てよ。
基本スキルには【魅惑】というものがある。
色々と試してきたが、これをrank100で誰かに使ってしまうと危険な予感がしていたので意識的に封印していたのだが。
まさか、自動で【回避】が発動するように、
確かに、おかしいと思っていたんだ。転生して努力してきたとはいえ、飛び抜けて美形に生まれたわけでもない俺に次から次へと美少女が寄ってくるという主人公補正のような現象に!
パッシブスキルは【回避】だけじゃなく、【魅惑】もあったということか?もし、これが事実だとしたら生涯モテ期に突入したと言っても過言ではないのでは!?
「あの、聞いてます?」
「あ、はいっ!心当たり、あるかもです」
「やはり、そうでしたか。 ちなみに、現在……意中の方は、おられるのですか?」
「えっ!?意中の方は、その……」
なぜだ!?頭の中で、何人か候補が浮かぶ!
何人か浮かんでる時点で、ダメじゃん!!
「植村くん。世の中には、こういう言葉があるわ。二兎を追う者は一兎をも得ず!」
「グサッ!!」
「一人を選ぶか、全てを追うか。後者を選べば、茨の道……さすれど、あなたなら出来るかもしれません。どちらか決めれば、私が助言を差し上げましょう」
なんか、急に……重大そうな選択肢なんですけど!?何かのルート分岐だろ、これ!絶対!!
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