第 13 章 嬉し恥ずかし勇凛祭
執事とメイド
邪神事件から数週間が経ちほとぼりも冷めた頃、『
「みんなー、見て見て!全員分のメイド服と執事服、完成したよ〜!!」
放課後、一年ロークラスAの教室では明日から開催する『執事&メイド喫茶』に向けて、クラス全員で最後の準備に取り掛かっていると、移動式のハンガーラックを転がしながら朝日奈さんが扉から入ってくる。
ハンガーラックには彼女の言った通り、沢山のメイド服や執事服が掛けられていた。確かに朝日奈さんは衣装班だったはずだが、どうやって調達してきたのだろう?
そんな疑問を俺の代わりに聞いてくれたのは、神坂さんだった。
「すごい、すごい!レンタルしてきたの?これだけの数だと、予算オーバーしなかった!?」
「しちゃうね。だから、これ……ぜーんぶ、手作り!委員長の!!」
「えっ、手作り!?うそぉ?」
ハンガーラックの後ろに、そっと立っていた“明智ハルカ”委員長が急にクラスメイトからの視線を浴びて、恥ずかしそうに顔を俯けた。
そんなことなど構わず、朝日奈さんは何故か自分の手柄かのようにドヤ顔で説明を続ける。
「委員長、裁縫が得意なんだって!コスプレ衣装とか、趣味で作っ……」
「わー!わー!ストップ、ストップ!!レイちゃん、それは言わない約束だったよね!?」
「あ……ごめん、ごめん。とにかく、裁縫が趣味みたいで!学生店舗で、手芸屋さんも開いてるんだよね?」
「うん、まぁ……小さいお店だけどね」
委員長、コスプレが趣味だったのか……意外というか、しかも自作しているとは相当な強者だぞ。
ちょっと、見てみたい気がするな。どんなコスプレするんだろ?
神坂さんが自分の名前のタグの付いたメイド服を取り出して体に当てながら、更に質問を続ける。
「でも、クラスの人数分を一人で作ったんでしょ。大変だったんじゃない?」
「ううん。私は、元となる一着ずつをデザインして仕上げただけ。あとは3Dコピー機を使って、一人一人のサイズに合わせて複製したの」
「おぉ〜、なるほど!それなら、経費も節約できるし手軽か。考えたね」
3Dコピー機とはその名の通り服や物などの複製品を手軽に作れてしまう便利な装置で、コンビニなどで普通に置いてあり手頃な値段で使用が出来る。
いくつかの制約はあるものの、簡単にレプリカが手に入るので様々な分野で重宝されていた。
もちろん、すぐに模倣品とバレてしまうので、転売などには使えないようにはなっている。
ぞろぞろと興味を持った生徒たちが集まってくると、ここぞとばかりに朝日奈さんが更に外から人を呼び込んだ。
「イメージしにくいだろうから、モデルさんをご用意しております!入ってきてくださーい!!」
ノリノリの朝日奈さんが合図を出して、教室に入ってきたのはメイド服姿の“龍宝サクラ”と、執事服姿の“上泉マコト”だった。
顔を赤らめてるサクラは俺と目が合うと、おずおずと小声で言った。
「は、恥ずかしいです……ユウトさん」
「いや!凄く、似合ってるよ。自信、持っていいと思う」
「えっ……あ、ありがとうございます!えへへ」
そんな俺たちの会話が聞こえていたのか、イケメン執事がつっこんでくる。
「お客様?当店のメイドさんを口説くのは、おやめ下さいませ」
「く、口説いてないわ!と、ゆーか……なんで、執事の格好してるんだよ。何の為に、カミングアウトしたんだっつの」
「だって……朝日奈さんに、どうしてもって頼まれたんだもん」
まるでプロデューサーのような朝日奈さんは、マコトの肩に手を乗せて俺に言った。
「だってさー。このクラスで一番、執事姿が映えそうなのは上泉くんぐらいしかいなかったんだもん」
「ぐっ。男性陣の立場が……」
悔しいが、確かに似合っている。中性的な容姿に、スタイルも良い。モデルとして選びたくなる気持ちは分かった。
「この二人の姿を等身大パネルにして、入口に立てる予定!宣伝効果は、抜群じゃない?」
「さ……策士が、いるぞ」
「ユウトは、どっち着る〜?メイドと、執事」
「執事に決まってるだろ!変な質問しないでくれ」
そこへ、神坂さんも割り込んできて。
「私は、見たいけどな〜。植村くんのメイド姿」
「神坂さんまで、やめてよ」
「あははっ!ごめん、ごめん。あっ、そろそろ買い出し行かないと……荷物持ち、頼める?」
「ああ、そっか。いいよ」
俺ら調理班はここからが本番のようなものだ。
明日の開店に向けて、メニューの仕込みを済ませておく必要があったからだ。お菓子などは前日からでも、ある程度の用意はしておける。
家庭科室のキッチン一角も押さえてあるので、あとは材料の買い出しというわけだ。
うむ。まるで、普通の高校生活。
ここが『
だが、それがいい。たまには、普通の学生に戻って青春をエンジョイしようではないか。
それこそが、俺の今生の目標でもあったはずだ。
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