七人目
「お待たせ〜」
水族館を一通り見て回った俺たちは、施設内にあるフードコートで休憩を取ることにした。
購入してきた二人分のメニューを俺と彼女のテーブルの上に置く。
「ありがとう」
「休日ってこともあって、混雑してるね〜。結構、並んだから遅くなっちゃった。ごめんね」
「ううん!こっちこそ、並ばせちゃってごめんだよ。やっぱり、人気なんだね〜。この水族館」
ある程度の下調べはしてきたが実際に来て、驚いた。まるで海の中にいるような水槽で造られたトンネルロード、七色のクラゲが規則的に動いて花火になぞらえたパフォーマンスを見せたり、この時代の技術なのか誰かの特殊なユニークスキルを使ってるのかは分からないが、とにかく予想以上に水族館は進化していた。
欲を言えば混雑緩和の技術なども進歩していて欲しかったが、並んだりした待ち時間も後から良い思い出になったりするものだ。良しするか。
「あ、あと……これ」
俺は事前にリュックに突っ込んでいた袋を取り出して、彼女に手渡した。グッズショップで、ヒカル用のプレゼントを買っておいたのだ。
これぐらいしか、喜んでもらえるようサプライズが思い付かなかった。
「え、なに?」
「ペンギンのぬいぐるみ。ヒカル、好きだって言ってたから……荷物になっても大変だから、手頃な大きさのやつ選んできた」
「ウソ!?見ていい?」
「うん、どうぞ」
どうだろう。あまり、感触が良くないか?
やはり、ぬいぐるみのプレゼントなんて幼稚だったか!?もっと、オシャレなものにしとけばよかったか……高校生なんて、もう大人だもんなぁ。
「あっ、可愛い!嬉しい!!」
「ほ、ほんと?」
「うん!良いの、本当に?もらっちゃって」
「も、もちろん!記念だから、受け取っちゃって」
袋から取り出したペンギンをまじまじと見つめながら、ぎゅーっと抱きしめる彼女。
良かった、少なくとも嫌がられてはなさそうか?
【精神分析】で、喜ぶプレゼントとかまで表示されてくれたら最高なんだけど。さすがに高望みか。
「うーん……この子の名前、どうしよう。やっぱり、ユウトかな?」
「ちょいちょい!恥ずかしいから、やめて。嬉しいけど……」
「え〜、ダメ!?でも、密かに家で呼ぶくらいは良いよね?別に」
図らずも、自分の写し身を渡したみたいになってしまった。うらやましいぞ、ペンギンユウト!
「それなら、別に良いけど……あっ!あと、これ。頼まれてたやつ」
俺はリュックの中に入っていたそれを引き抜き、テーブルの上に置く。
それは、『アルゴナウタイ』の“入団志願書”だった。彼女も、正式に入団を決めてくれたのだ。
「これが、植村くんのギルドの“入団志願書”?」
「そう。まぁ、形だけのやつだけど……一応、あとはサインしてくれるだけで大丈夫の状態になってる」
「ありがとう!じゃあ、早速……」
そう言って彼女はバッグの中から可愛らしいボールペンを取り出して、“入団志願書”に氏名を記入し始める。
月森夫婦が和解したこともあって、ついに両親からの正式な許しが出て、晴れて冒険者一本で行くことも認められたという。
「でも、本当に後悔しない?他にも、良いギルドが……」
そう言う俺に、ばっと書いた紙を見せつけながら彼女は言った。
「残念。もう、書いちゃいました!これから、よろしくね?ギルドマスター」
「はは……うん、よろしく!」
これで、七人目か。いよいよ、あと三人で正式なギルドとして発足できるというわけだ。
このペースなら、思ってたより早く十人が集まりそうだ。
そんな希望に胸を踊らせていると、ハンバーガーを頬張りながら彼女が尋ねてきた。
「それで、具体的な活動方針とかは決まってるの?ギルドマスター」
「えっ!?具体的な活動方針……か」
「そうそう。活動資金の確保とか、ギルドホームの建設とか……あとは、最終的な目標とか?」
全然、考えてなかった。
正式発足は、もっと後のことだと思ってたからな。
だけど、そろそろ本気で考える頃合いかもしれない。活動資金は雪鐘さんに頼んで、俺たちのダンジョン攻略を配信してもらうことで当面は稼ごう。
あとは、お金が入ってきそうな
真剣に無言で悩み始めてしまった俺を見て、ヒカルが目の前で手を振ってきた。
「おーい。大丈夫か〜い?」
「はっ!あ、ごめん……色々と、考えてしまいました」
「あははっ、ごめんね。催促したわけじゃないんだけど……そんな一人で考え込まないでも、みんなで話し合って決めていけばいいんじゃない?」
「そ、そうだね。それが、良いかも」
「うん。今は、目の前にいる女の子のことだけを考えてておくれ」
悪戯っぽく微笑みながら言うヒカルに、思わずドキッとしてしまう。
そうだな。今はこの瞬間を思い切り、楽しもう。
冒険者にも、息抜きは大事だからな。うんうん。
こうして俺は、人生初めてのデートを無事に良い思い出として終えることが出来た。
なにか、男として一つステップアップした気がする誇らしい思いだ。
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