精神分析

「半壊していた『トーキョー・アリーナ』が一夜にして修復され通り魔事件によって被害に遭った人々も次々と完治していくという現象に、専門家の間では何者かのユニークスキルもしくは特殊な秘宝アーティファクトによる現象なのではないか?そもそも、事件そのものが仕組まれたショーだったのではないか?などなど、様々な意見が……」




 投影したミニサイズの立体映像スクリーンで、ニュースを確認する俺。報道されている通り邪神事件の被害者たちの外傷は次々と完治し、『トーキョー・アリーナ』も完全に元の姿へと修復された。


 つまり、霊園さんの心からの反省に反応して『懺悔タイマー』が正常に作動したということだ。

 これで少なくとも金銭面の負担は大きく軽減されただろう。そして、何より霊園さん自身の“罪の意識”というも。


 とはいえ、これで全ての罪が清算されたということにはならない。これからの彼女の処罰はインターポールが『冒険者養成校ゲーティア』と話し合って、一番の落とし所を探っていくようだ。

 願わくば同じ冒険者を目指す者として、再び共に学園で学べる日を待ち望むばかりである。




「ユウトくん!」




 そんなことを考えていると、待ち合わせの相手が小走りでやって来た。休みである今日、とある人物と水族館デートの約束を取り付けていた。


 いや、何気にちゃんとしたデートなど前世から数えても初めてかもしれない。そもそも、この時代でもデートという呼び方でいいのか?なんて余計なことを考えてしまうぐらいには緊張していた。




「月森さん、おはよう」




 ダボッとしたジャケットを一枚羽織り、ロングスカートに小さなショルダーバッグ。普段は掛けない眼鏡姿という、まさに男子の思う“清楚系女子”を体現してくれている彼女に俺は心の中で拍手を送る。

 ちなみに俺もネットで調べて、そこそこ自分なりのオシャレはしてきたつもりだ。自分がダサいというのは散々言われてきたからこそ、無難に人気そうなコーデを丸パクリさせてもらったのは内緒だ。




「あ!早速、減点!!」




 ビシッと指を差されて、減点をくらう俺。

 やはり、ダサさというのは誤魔化せなかったのか。




「俺……早速、やらかしました?何か」



「今日からは、名前で呼んでって……メッセージで、やり取りしたのに。もう、忘れたの?」



「あぁ!そうだった、ごめん……どうも、月森さん呼びが体に染み付いてて」



「楽しみにしてたのにな〜。第一声、呼んでくれるの」




 ちょっと頰を膨らませて、いじけてみせる彼女。

 なんか、いつもの月森さんよりくだけて感じる。


 これが、俺だけに見せる顔なのか!?うん、黙ろうか。落ち着け。




「あー、その……じゃあ、行こうか。ひ、ヒカル」



「んんん!?聞こえなかったなぁ、何だって?」



「ちょ、ほら!もう、行くよ。!!」




 恥ずかしさを誤魔化して俺が目的の水族館がある方角へ先に歩いて行くと、小走りで追いついてきたヒカルは唐突に俺と手を繋いできて笑顔で囁いた。




「ありがと!今度は、ちゃんと聞こえた」




 か、かわいいかよ!

 待って待って。女の子と手を繋ぐって、こんなに緊張するものだったっけ?

 いやいや、焦るな。動揺を悟られてはならぬ!


 しかし、ヒカルの方は余裕そうだ。そりゃ、こんなに可愛いわけだしデート経験ぐらいはあるんだろうけど、自分が情けなくなってきた。

 いや、彼女だって心の中では緊張しているのでは……?




【虚飾】が、【精神分析】rank100に代わりました




 今まで精神を安定させることにしか使ってこなかったスキルだが、これで多少は彼女の心情が読み取れるかもしれない。これぐらいの使い方なら、モラル違反にはなるまい。




 月森ヒカル 好感度:80/不信感:7

 現在の心理状態……緊張


 おめでとうございます

 関係性が【友好】から、【恋人】に進化しました




 な……なんじゃ、こりゃあ!?


 恋愛ゲームみたいなパラメータが表示されたぞ?

 これって、こんな使い方も出来るのか。

 さすがは、rank100というべきか。もっと、早く知りたかったんですけど。

 このスキルさえあれば、人間関係が驚くほどスムーズになるじゃないか。コミュ障にとっては、垂涎すいぜんの効果と言えるだろう。




「どうしたの?私の顔……なにか、ついてる?」




 いかん。まじまじと至近距離で見つめすぎた。

 もっと、遠目から使わないとすぐにバレるな。




「あ、いや……かわいいな〜と、思って。その服も、凄く似合ってるよ」



「え……あ、ありがと」




 月森ヒカルの好感度が上昇しました

 心理状態が(緊張)から、(高揚)に変わりました




 好感度が上がったー!

 ホントに、ゲームだな。確かに、便利だけど……。


 俺は【精神分析】のスキルを、そっと閉じた。

 目の前にいるのはゲームキャラではない、現実の女の子だ。好感度の上下を気にしながら会話をしてたら相手にも失礼だし、こっちも気が気でない。


 今は、彼女を楽しませることだけを考えよう。


 さっきのスキルは、いざという時にだけ使わせてもらうとするか。不信感とか上げすぎると、怖いことが起こりそうだし。

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