警察署

 ネオ・アヤセ警察署



 翌日。俺たちは入手した『懺悔タイマー』を携えて、霊園さんの身柄が拘束されてるという警察署まで足を運んだ。

 ロビーで待っていると、スーツ姿でビシッと決めて凛とした黒髪ロングの女性が近付いてくる。




「あなたたち?霊園さんと、面会希望っていうお友達は」




 俺たちは目を合わせると、代表して月森さんが彼女の質問に答えた。




「はい、そうです。月森オボロさん経由で、アポは取ってもらってるはずですが……」



「ええ、聞いてるわ。月森オボロは、私の直属の上司だから」



「えっ!?」




 驚く俺たちに彼女は警察手帳を広げて、自己紹介を始める。




「ICPO超常事件対策課所属、鷹村カズミよ。あなたたちを迎えに行くよう、頼まれてきたの。霊園サダコのいる取調室まで、案内するわ」



「あ、ありがとうございます!」




 彼女に先導されて署内を進んでいく俺たち。場違いな『冒険者養成校ゲーティア』の制服姿に、ジロジロとすれ違う警官らしき人たちの視線が突き刺さる。

 そんな俺の緊張感などお構いなしに、女子二人はキャッキャと鷹村さんの話で盛り上がっていた。




「なんか、デキる女!って感じだよね。鷹村さんって。憧れるなぁ〜」



「うんうん!こういう歳の取り方をしたいよね。てか、何歳なんだろ?結構、若いのかな」




 小声で話してるつもりなのだろうが、めちゃくちゃ俺の耳に入ってくる。と、いうことは……。




「言っておくけど、本来ならば現時点での面会は特例中の特例なんですからね?課長の権限で、何とか許しが降りただけで。それを、忘れないように」



「は、はい。そう、ですよね……」




 浮かれていた二人が、すっかり意気消沈してしまう。さすが、女刑事……色んな意味で、強い。


 それからは黙って歩いていると、無機質な扉の前で立ち止まった鷹村さんがカードキーを使ってセキュリティーを解除して、俺たちを中に招き入れた。

 そこにいたのはマジックミラー越しに座っていた霊園さんの姿と、それを黙って見つめていた月森さんのお父さんだった。




「課長。連れてきましたよ」



「ああ、ご苦労」




 鷹村さんを後ろに下げて、月森パパが俺たちの前に歩いてくる。




「面会可能な時間は、10分だ。それだけあれば、足りるのか?」



「うん。多分、いけると思う」



「それで……例の秘宝というのは?」




 父親の問いに、月森さんはスクールバッグの中から『懺悔タイマー』を取り出して見せた。




「これが、『懺悔タイマー』。懺悔の気持ちを込めて押すことで、起こした事件の被害が帳消しにされるレベル3の秘宝アーティファクト



「なるほど。一見、ただのストップウォッチのようだが……確かに、不思議な魔力が漏れている」




 月森オボロはユニークスキル【見鬼】によって、微かに流れる秘宝の魔力を感知する。

 そこへ、後ろで話を聞いていた鷹村が驚いたように口を挟んできた。




「課長!一体、何をさせるつもりです?ただの面会じゃなかったのですか!?」



「この秘宝を使えば、邪神事件に関わった被害が全てリセットされるんだそうだ。良い話だと、思わないか?」



「良くありません!何ですか、その怪しいアイテムは……そもそも、見習い冒険者が持ってきたような秘宝をやすやすと信じるだなんて。大体、課長とはどういったご関係なんです?」




 まくしたてる鷹村に、オボロはガシッと娘と肩を組んで笑顔で答えた。




「父と娘だ。どうだ?似てるだろ」



「む、娘!?課長のお子さんだったんですか?」



「そういうことだ。これで、信用してくれたか?」



「失礼ですが、信用する理由にはなりません。娘だというなら、余計に肩入れしている節もあるのでは?」




 見た目通り、お堅く真面目なタイプの鷹村さん。

 いかにも役人といった感じだが、警戒する気持ちも分からなくはない。

 それは、月森パパも同意だったようで。




「まぁ、言いたいことは分かる。そもそも、こんな都合が良すぎる秘宝をどこで手に入れたのか……」



「だ、だから!たまたま見つけて、プライベートで攻略したダンジョンで手に入れたんだってば。使い道がなくて、ずっと家で保管してあったの!!」



「ふぅむ。たまたま、見つけた……ねぇ」




 焦る娘の顔を、父親が見定めるように覗き込んでいる。段々と雲行きが怪しくなってきたぞ。

 さすがに、無理のある言い訳だったか。無難で良いと思ったんだけど。


 怪しみ始めた父親に、月森さんは真っ直ぐな瞳で訴えかけた。




「私たちが、ここで嘘をつくメリットはない。ただ、霊園さんの罪の意識を軽くしてあげたいだけなの!信じて、お父さん!!」



「…………」




 月森オボロはまじまじと秘宝を見つめると、説明文テキストが浮かび上がって黙読を始めた。




「心から懺悔していなければ、罰が下る……大丈夫なのか?」



「植村くんが【精神分析】のスキルを使って、彼女の嘘を検知します。それで、霊園さんが本当に反省してるかどうかを……」



「いや……そんな、まどろっこしい真似をする必要はないな。私が直接、交渉してやろう」




『懺悔タイマー』を握りながら、なにやら意味深な笑顔を浮かべて鏡の向こうにいた“霊園サダコ”を見つめる月森オボロ。

 そんな彼に、鷹村が再び食ってかかった。




「だーかーらー!なんで、使う気満々なんですか!?あなたが!!」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る