LV3「フォートレス・ジム」・5

「『スレイプニル・ブーツ』……オーバードライブ!」




『イグナイト・フープ』の力によって、神坂の履いていたブーツが紫の輝きに包まれる。

 彼女自身も脚に大きなエネルギーが集まってきているのを、感覚的に捉えていた。




「3……2……1……!」




 通話機能を介してカウントダウンを始めた植村は、「0」のタイミングでブラスターをフラッグに向けて発射した。




 ビッ!!




 放たれた光線は、フラッグの根元を絶妙にかすらせて見事に神坂の頭上に向けて弾き飛ばされた。

 ジャストミートしてしまえば、フラッグ自体を消滅しかねない。角度だって少しでも違っていたら、そもそも宙に浮かせることが出来なかっただろう。

 地味な一発だが、rank100の射撃術の技巧が集約された至高の一射。


 しかも、二体の青オニは微動だにしていない。

 やはり敵が感知していたのはフラッグではなく、人間の気配だったようだ。読みは当たっていた。




「よーい……ドン!!」




 弾き出されるように、その場で跳躍する神坂。

『スレイプニル・ブーツ』のオーバードライブによって、ロケットブーストを得た彼女のジャンプは驚異的なものとなり、天高く浮き上がったフラッグの高度まであっという間に到達してみせた。


 しかし、そこに飛行する青オニが割り込んできたのだ。




「また?なんで!?」




 そこで、ようやく植村は気付く。

 あの青い機械人形が感知しているのは、正確には“冒険者プレイヤーとフラッグの距離”だったということを。

 フラッグの一定距離内まで神坂さんが接近したことを感知して、妨害行動を再開したのだ。




「『スレイプニル・ブーツ』最終演舞グランド・フィナーレ……エイトレッグ・アッパースピン1440!!」




 神坂は瞬時にブーツの靴底を青オニの胴体に押し当てると、敵のボディーを支柱代わりに高速で螺旋を描いて滑るように四回転を決める。




 ギュルルルルル!!!




 その勢いを利用して青オニの背後を取った彼女は、再びフラッグにセカンドアタックを仕掛けようと試みる。


 そこへ、なんと二体目の青オニも時間差で突撃してきた。残り時間も、一分を切っている。ここで邪魔をされたら、もう次のチャンスは残されていない。




 しゅるるるっ




 二体目の青オニが急に動きを止める。

 いや、月森が放った『バンシー・ロープ』が敵の脚部を捕縛して、のだ。




「ナオ!今!!」




 親友の声に反応すると、神坂は回転を決めたオニの背面を蹴ってフラッグに飛び込むと、ついにキャッチすることに成功したのだった。

 すると、カウントダウンしていたタイマーが、残り22秒の時点で停止をする。




 ミッション クリア




『スレイプニル・ブーツ』の浮力で、ゆっくりと着地をした神坂の前に一つの宝箱が出現する。




「 ナオ!!」




 月森は息の合ったコンビネーションを決めた親友に笑顔で歩み寄ると、心地良い音を鳴らしてハイタッチを交わしたのだった。


 そして、二人で宝箱の前に歩み寄ると、目を合わせて一緒にその蓋を開けた。




『懺悔タイマー』

 罪を起こした者が懺悔の気持ちを込めて押すことで、その者が起こした一つの罪に関連する全ての被害がリセットされる。ただし、記憶やトラウマまでは取り除くことが出来ない。

 一人につき一回しか使用できないほか、もしも心から懺悔してない場合は罪人に大きな罰が下ってしまう。




 それは、見た目はただのストップウォッチのような秘宝だった。慎重に宝箱から拾い上げ、まじまじと見つめる神坂。




「普通のストップウォッチみたい。まぁ……秘宝なんて、こんなもんか」



「うん。でも、この説明文……怖くない?」



「心から懺悔してない場合は、罪人に罰が下る……って、とこだよね」



「そう。霊園さんは反省していると思ってるけど……」




 心から懺悔してるかどうかの基準は、この秘宝次第だろう。例え本人に反省の気持ちがあったところで、それが心底からの思いでないと判断されれば、罰が下ってしまうかもしれないのだ。


 不安そうにする月森の肩をポンと叩いて、神坂は笑顔で言った。




「とりあえず、出よう。当面の目的は、達成したわけだし」



「……うん。そうだね」




 二人が、宝箱と同時に開いた帰還ゲートに向けて歩いていくと、ふと何かを思い出したように立ち止まった。




「あれ?私たち、何か忘れてるような……」



「えっ、なに?」




 その時、下から声が響いた。




「おーい!忘れないでぇ〜!!」




 地上でぶんぶんと手を振る植村を見て、二人はハッとしてクスクスと笑い合うのだった。


 そして、無事に忘れられていた彼も引き上げられると、ようやく三人はミッションをクリアしてダンジョンを脱出した。


 俺は現実世界に戻ると、神坂さんの持っていた秘宝アーティファクトを覗き込む。




「それが、『懺悔タイマー』……?」



「そう。あとは、これを霊園さんに渡して使ってもらうだけなんだけど……問題が、一つ」




『懺悔タイマー』の説明文を神坂さんに教えてもらい、俺も罰のルールを知った。




「なるほど。つまり、霊園さんが本当に反省してるかどうかが分かればいいんだ?」



「そうだけど……何か、良い方法でもあるの?」



「反省してるかどうかまでは分からないけど、嘘をついてるかどうかぐらいなら分かるかも」




 

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