LV3「フォートレス・ジム」・4

(この青いオニ……人の気配を感知して、常に対面を取ってくる!それなら!!)




 回り込むのが無理なら敵の真上から飛び込んでフラッグを獲ってやろうと、光の足場を使って青オニの頭上を渡ろうと試みる神坂だったが……。




「きゃっ!?」




 それすらも感知した青オニは低空飛行でホバリングすると、空中からの侵入も許すことなく立ち塞がった。

 ただ特に何かをしてくるわけではなく、フラッグを守る為だけにプログラミングされたボットだということは判明した。




(一人じゃ、ダメか。もう一人、デコイ役が必要だ……!)




 助けを求めるようにチラッと後方に目をやると、いまだ友人ヒカルは黒オニと激闘を繰り広げていた。


 スピードで勝る黒オニを残像移動ディレイ・ムーヴで翻弄しつつ後手に回りながらも、敵の猛攻を何とか凌いでいた月森。

 このまま防戦一方となれば体力スタミナ切れが存在する人間側が不利となる。彼女は、虎視眈々と起死回生の一撃を狙っていた。




 ギュルン!!




 月森ヒカルの腰に装着されていた『イグナイト・フープ』が、高速で回転を始める。

 黒オニの爪をクラブでパリィした瞬間、バックジャンプで距離を取って彼女はを起動させた。




「『イグナイト・フープ』……オーバードライブ!」




 すると彼女の腕から本来ならば一本しか射出されないはずのリボンが、まるで大きな手のように五本ずつ生成される。




「『ハスター・リボン』最終演舞グランド・フィナーレ……後星監獄アルデバラン!!」





 ギュルルルルルッ!!!




 十本のリボンが一斉に黒オニへ襲いかかると最初の何本こそ躱されてしまったものの、そのうちの一本が敵の足首に絡まると立て続けに四肢を捕縛して完全に動けなくすることに成功した。

 そこへ突撃した月森は二本の『アルベリヒ・クラブ』を思いきり振りかぶると渾身の一撃を叩き込み、ついに黒オニの撃退に成功したのだった。




「ふぅ……や、やったぁ」




 安心したのも束の間、残り時間が3分を切っていることに気付いた月森に向かって神坂が叫ぶ。




「ヒカル!こっち、手伝って!!」




 その声に反応した月森は元の本数に戻った『ハスター・リボン』を使いながら、親友のもとへと急ぐ。心なしかリボンの射程距離が短くなっているような気がする。おそらく、これがオーバードライブ技の反動なのだろう。

 最終演舞グランド・フィナーレは強力だが、その後の一定時間、基本性能はガクンと下がってしまう。文字通り、最後の切り札と呼ぶべき技なのである。



 月森が神坂のもとに到着すると、なんとフラッグの周囲に二体目の青オニが召喚される。

 二人なら一体を攻略できると踏んでいた神坂にとって、その増援は予想外の事態であった。




「人の気配を感知して、人数分でてくるってこと……?これじゃ、さっきより難易度が上がってるじゃん」



「どうする、ナオ?もう、時間が無いよ!?」




 月森に問い詰められるも、最善策が見つからない。さっきの経験からして、この機械人形は全く攻撃を仕掛けてこない代わりに防御が特化されている。おそらく、全く倒せない仕様になっているだろう。いわば、オブジェクトのようなものだ。


 それでも、猛攻撃を仕掛けて撃破を試みるか。


 それとも、闇雲に突っ込んで隙を生み出すか。


 どちらにせよ、成功率は高くないだろう。

 そして、こうして悩んでる間にもカウントダウンは進んでいた。




 悩む神坂に、植村からの通信が届いた。



 地上での戦いは一旦の落ち着きをみせていた。

 そして、植村は【聞き耳】・【目星】を併用して、頂上の様子を伺っていたのだ。




「神坂さん。試してみたいことがあるんだけど、付き合ってくれる?」



「ちょ……その言い方、やめて。ドキッとするから!」



「え?」



「あ、ううん……何でもない!それで、試してみたいことって?」




 明らかに植村と通話している様子の神坂に月森がじっと見つめて無言の圧をかけると、慌てて彼女は話を元に戻した。




「そのフラッグを守ってるオニは、人の気配を感知して動く……で、合ってる?」



「そう!だから、フラッグに近づけない!!」



「なら……フラッグ自体を、動かすのは?」



「は?どういうこと!?」




 下を覗き見ると、植村が『マナ・ブラスター』を構えていた。その銃口の先にあるのは、。そこで、彼の考えを読み取ることができた。




「ここから、フラッグにブラスターを当てて二人の上空へ弾き飛ばす。あとは、どちらかがそれをキャッチしてくれればいい」



「なるほど。私たちが行くより、向こうから来てもらうってこと……でも、それって植村くんに相当な高等技術が要求されるよ?そんなこと、できるの!?本当に」



「たぶん……いや。必ず、やってみせる」




 植村は、rank100にしていた【目星】で、フラッグに狙いを定める。それは、さながら銃の照準器のような役割を果たしていた。


 そんな真剣な彼の姿を見て神坂も決意を固めたのか、クラウチングスタートの体勢を取る。

 そんな彼女に、月森が不思議そうに尋ねた。




「一体、どうするつもり?」



「植村くんが、下からフラッグを撃ち上げてくれる。それを、私がキャッチする……そういうシンプルな作戦」




 作戦内容を把握した月森は、おもむろに再び腰の『イグナイト・フープ』を高速回転させた。

 今度は、親友の武器ブーツの潜在能力を解放させる為に。

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