LV3「フォートレス・ジム」・1

「思ってたより、凄く軽い……足にも、フィットしてるし。何よりデザインが、めっちゃ私好み!」




 かなり気に入った様子で、月森さんから譲り受けたブーツの履き心地を確かめる神坂さん。

 見た目は機械的でゴツゴツしていたので、重そうなのかと思ったが予想以上に軽量のようだ。




「気に入ってもらえたみたいで、良かった。あとは、実戦での使い勝手かな」



「じゃあ、ここで……お試しタイムと、いってみますか!」




 ぐっぐっと足を伸ばして、いざゲートに入る気満々の二人に、恐る恐る俺は水を差した。




「えっ、あの〜……もう、行く感じですか?」



「なに?トイレにでも行きたくなってきたなら、待っててあげるけど」




 別に、トイレに行きたいわけではない。

 複雑な表情を浮かべていた俺に月森さんはハッと何かに気付いたようで、笑いを堪えながら核心を突いてきた。




「ユウトくん……もしかして、自分も何か貰えるかと思って、期待しちゃってた?」



「えっ!?いや、別に!全然、そんなことないですけどっ!」




 明らかにそんなことある態度が出てしまい、それが月森さんのツボに入ってしまったのか、バンバンと膝を叩いて笑われている。


 は、恥ずかしい……。




「そこまで、笑わなくても……」



「あははっ!ごめん、ごめん……かわいくて、つい。でも、ほら。ユウトくんは、いくつかの武器もう持ってるし素手でも十分に戦えるでしょ?だから、今すぐには必要ないかな〜って」



「た、確かに。いや、ほんと!全然、気にしてないからね!?」



「ふふっ、はいはい。いつか、ダンジョンポイントが貯まったら、今度は作ってあげるから!ね?」




 そんな二人の多愛ない会話を見て、神坂は敏感に何かを察知したようで。




「二人とも……なんか、距離が縮まってない?私の気のせいかな」



「えっ!?な、何で……急に、そんなこと?」



「だって、名前で呼んでた。って……前は、“植村くん”だった気がする」



「え〜っと、そうだっけ?意識してなかったなぁ……自然と、距離が縮まってたのかも!もう、クラスメイトとしても過ごしてきた期間が長いし。うん」




 俺のことを笑ってたわりに、なかなか月森さんも分かりやすい性格をしておられる。

 まぁ、無理もない。だって、俺と月森さんは……いかん、思い出したら俺も照れくさくなってきた。


とにかく、話しを戻そう。




「と、とにかく!中に入ろう。こんなところで騒いでいたら、誰か来ちゃうよ」



「ん……しょうがない!この続きは帰ってから、ゆっくりと問い詰めるとしよう。まずは、ダンジョン攻略に集中するか」




 問い詰めはするんですね……。


 チラリと月森さんを見ると、小さく手を合わせて口の動きで「ごめん」と伝えてきた。


 可愛いので、許す。




 気を取り直して緑のゲートをくぐると、そこにあったのは広大な草原にポツンと建てられた巨大なジャングルジムのようなアスレチック施設だった。




 LV:3 緑色のダンジョン

 ミッション

 10分以内に建物頂上にあるフラッグを獲得せよ。

 ただし、オニと呼ばれる機械人形が進行を邪魔してくる。オニに攻撃を仕掛けることは可能だが、完全に破壊することは出来ない。

 死亡、もしくはタイムオーバーした場合は挑戦失敗となる。




 よく見ると、ジャングルジムの中には何体もの機械兵のようなものが徘徊していた。あれが、“オニ”と呼ばれるものなのだろうか?


 神坂さんは、ジャージの上着を脱いで腰に巻きつけると、気合いを入れた。




「要するに、上を目指す鬼ごっこ……って、とこ?王道のアスレチック・ミッションだね」



「結構、高いよ?10分で、いけるかな」



「行くだけなら、問題ナシ……だけど。あとは、オニがどんな邪魔をしてくるか」



「だよ、ね……」




 親友同士が話していると、宙に表示されたタイマーが10分からカウントダウンを始める。

 ミッションがスタートしてしまったらしい。




「考えるより、動け……だね。私が、先に行く!」




 そう言うと、神坂さんはジャングルジムには入らず、外周を光の足場を作って螺旋状に昇り始めた。

 足場の加速もあるのだろうが、その速度は今までよりも遥かに上昇しているように感じた。

 あれが、ブーツの効果なのだろうか。あのまま行けば、あっという間にミッションクリアとなりそうだ。


 すると、心配そうに月森さんが俺に聞いてきた。




「あれ、大丈夫なのかな?その、ルール的に」



「んー、大丈夫なんじゃない?ジャングルジムを通れとは、書いてなかったし……ルールの隙を突いた作戦って、ことで」




 再び、空を駆け上がる神坂さんに視線を戻すと、その存在に気付いたのか、ジャングルジム内にいたオニたちが何やら背中から武器を取り出した。


 それはなんと、黒光りする機関銃マシンガンだった。




「神坂さん!ストップ!!」



「えっ?」




 バババババババッ!!!




 俺の声に、一瞬だけ彼女が立ち止まると、その頭上に弾丸が降り注ぐ。間一髪、直撃は免れたが、その攻撃に驚き神坂さんはバランスを崩して空から降下してしまう。

 あの高さから地上に落下したら、即ゲームオーバーだ。気付くと、俺と月森さんは走り出していた。


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