プレゼント

 次の日、俺は二人をとある公園へと呼び出した。

『ダンジョン・サーチ』の下調べによれば、例のダンジョンに繋がるゲートが此処ここにあるはずだ。

 昨日の今日で準備する期間は少なかったが場所的にいつ誰かに発見されても、おかしくなかった為に最速で挑戦を決めたわけである。




「植村くん!」




 都内近郊ということもあり現地集合となったのだが、さすがはアスリート。待ち合わせ時間よりも早く二人の姿が見えた。

 全員、話し合いで決めた『冒険者養成校ゲーティア』指定のジャージ姿に身を包んでいる。

 動きやすく耐久性も高いので便利なのだが、正式にギルドを立ち上げた際には早くオシャレな専用戦闘服というものをあつらえてみたい。




「よし。それじゃ……早速、行こうか!」



「まだ、ゲートは見つかってないよね?他の人に」



「うん。さっき、確認したから大丈夫」




 月森さんと話しながら、俺が先導していったのは公衆トイレの反対側……草木が生い茂っていたところを掻き分けて裏手の壁に到着すると、お目当ての緑のゲートがそこにあった。




「ここだよ」



「本当だ。この草木が良い感じに、ゲートをカモフラージュしてくれてたってわけか……こんな場所にあって、何で見つからなかったのか不思議だったんだよね」



「一応、戦闘もあるかもしれない。武器は、持ってきてるよね?」




 周囲に一般人がいないか警戒している神坂さんを横目に、俺が月森さんに尋ねると彼女はコクリと頷いて『ガチャコッコG』のインベントリを開いた。




「一夜漬けだけど色々とガチャを引いて、武器を揃えてきたよ」



「おぉ、そっか!インベントリに保管できるようになったから、事前にガチャを引いておくことが出来るようになったんだ?」



「そう。ただし、インベントリに保管できるのは10個までだったから、上手に合成しながら厳選してきた。ダンジョンポイントの兼ね合いと、ある程度の空き枠も残しておきたかったから、そこまでは用意は出来なかったけど」




 周辺の警戒を終えた神坂さんが、月森さんに質問する。




「その、ダンジョンポイントって何なの?」



「ダンジョンに潜って、色々と活躍することで加算されていく冒険者の経験値みたいなものなんだって。一度、ダンジョンに潜った人間は脳内チップにポイントの蓄積が記録されてるみたい。冒険者のランク付けとか、それを参考にしたりするんだって」



「そうなの!?はじめて、知った」



「私も、お父さんに教えてもらった。上級生になったら『冒険者養成校ゲーティア』でも、ちゃんと教えてくれるだろうって言ってたけど」




 俺も、初めて知った。初心者帯では、あまり知る必要のない情報ってことかも。

 コースケの【鍛冶屋】だったり、月森さんの『ガチャコッコG』だったり、特定のスキルやアイテムでは重宝されるみたいだ。

 俺も気付けば、多くのダンジョンを踏破してきた。それなりに、ポイントが貯まってたりするのだろうか?Bランクぐらいには、いけたらいいな。


 そんな中、二人の会話は続く。




「じゃあ、その……厳選してきた武器とやらを、お見せしてもらおうかな?早速」



「いいよ〜。セットアップ装備に記録しておいたから、これを押せば一瞬で全身コーデが完了する……っと!」




 インベントリを操作すると、本当に一瞬で“月森ヒカル”の全身に装備が施されていく。




 月森ヒカル セット装備・1

(体)エアリアルドレス(UR)

(両手)アルベリヒ・クラブ(合成・SSR)

(両腕)ハスター・リボン(強奪・UR)

(腰1)イグナイト・フープ(SSR)

(腰2)バンシー・ロープ(SR)




 何より目を引いたのはジャージ姿から、白を基調とした下地にピンクの差し色の入った妖精のようなバトルスーツに全身を纏われたということだ。

ボディラインが一目でわかってしまうほどに身体に密着したスーツながら、ポイントでピンクのリボンやスカートが装飾されているのは女の子らしい。




「すっご……戦闘服も、生み出せるようになったの?」



「正式には、武器扱いになるみたい……このスーツ。光球を放出できたり、滞空時間が伸びたりするの。実戦で使うのは初めてだから、まだ何とも言えないんだけどね」




 俺がまじまじと彼女のフル装備を見つめていると、神坂さんが不満げに言った。




「良いなぁ、スイーパーは……かっこいい武器とか、持てて。ランナーなんて、走るだけだからシューズぐらいしか身につけないもんなぁ」



「ふふっ。そんな、ナオに……プレゼントを、持ってきてあげたよ?」



「えっ?」




 月森さんが再びインベントリを操作して、手元に出現させたのは白と紫のカラーが印象的な、ゴツゴツとしたハイテクなブーツだった。




「これ、ナオの役に立ちそうなブーツを作ってきたんだ。良かったら、受け取ってくれる?」



「嬉しい!……けど、他人に譲渡したり出来るの?」



「合成した武器なら、譲渡できるみたい。だから、無限に配り歩くとかは出来ないけど、信頼してる人になら」



「ありがとう……!履いてみていい!?」




 ランナーにも装備できるシューズ型の武器とは、月森さんらしい気の利いたプレゼントだ。




 スレイプニル・ブーツ

 等級:スーパースペシャルレア(SSR)

 両脚に装着する格闘兵器。使い手の脚力を増加させるほか、壁や水上など不安定な場所も走ることが出来ようになる。走力、跳躍力、キック力などが向上することによって、アクロバティックな動きも容易く行うことが出来る。



 


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