懺悔タイマー

 翌朝。一年ロークラスA教室。



「見たか?ニュース」



「ああ、怪物が暴れ回ったらしいな。被害は最小限で食い止められたらしいが、ゲートブレイクが起きたって噂だぜ」



「詳しいことは原因不明なんだろ?物騒な世の中だよなぁ」




 近くの男子たちの話し声が耳に入ってくる。

 おそらく、昨日の事件の話だろう。

 今朝は、そのニュースで持ちきりだったので無理もない。


 あの後、警察の事情聴取で俺たちは正直に全てを告白したが、ニュースでは原因不明の怪異ということになっていて、真実は明らかにはされなかった。


 後から聞いたところによると、月森さんのお父さんによって報道規制されたことを知った。

 誰かが召喚した邪神の仕業などと報道されれば、すぐに犯人が特定されて霊園さんの今後の人生にも支障が出てしまうかもしれない。良い判断だったといえるだろう。


 そんな中、俺の席に月森さんと神坂さんが集まって、小声で会議が始まった。




「すっかり、大事おおごとになっちゃったね……ま、当たり前なんだけど」



「あの場に、お父さんがいてくれて良かった。色々と事後処理も、やってくれたみたいだから」



「まさか、ヒカルのお父さんが冒険者を辞めて、警察官になってただなんてね。しかも、超常事件対策課……だっけ?」



「うん。私も、驚いたよ……まず、あの会場に来てくれてたことにも驚いたんだけど」




 超常事件対策課。世間では冒険者による事件や、闇市で出回った秘宝などを使っての犯罪も増えてきているらしく、一般の警察だけでは対応できなくなっていた。

 そこで結成されたのが、元冒険者や強力なユニーク持ちなどの優秀な人材を集めた国際的エキスパート集団……その第一号として、月森さんのお父さんに白羽の矢が刺さったらしい。




「霊園さんの処分、どうなりそうなの?」



「それは、まだ……色々と、罪を軽くする為に頑張ってくれてるらしいけど」



「そっか……」




 もちろん、霊園さんの嫉妬心が発端であるとはいえ、恐らくは何者かによって洗脳に近いことをされたことが一番の原因だろう。そうしたケースを何件か見てきているだけに、確かに憎みきれない部分はあった。




「植村くん。何とかして、彼女の罪を軽くしてあげられないかな?このままじゃ、可哀想だよ……」




 俺へ懇願するように訴えかけてきた月森さんに、神坂さんが呆れるように言った。




「あのね……ヒカルは、殺されかけたんだよ?ヒカルだけじゃない、私や植村くんだってそう!お人好しにも、ほどがあるって!!」



「そう……だけど、あれは霊園さんの意思というより、あの邪神の意思が暴走してたような気がする。実際、彼女のおかげで再び本の中へと封印することが出来た」



「それは……あぁ、もう!わかったよ。でも、罪を軽くするって、具体的にはどうするつもり?真犯人を見つけようにも、呪いのせいで手掛かりはナシなんでしょ!?」




 罪を軽くする手段……か。もしかしたら、アレが使えるかもしれない。




「……使えそうな秘宝アーティファクトなら、心当たりがあるかも。ダンジョンを攻略するのが、大前提になるけど」



「でた。謎のダンジョン・コーディネーター。毎度、思うんだけど……どこで、仕入れてくるの?そんな貴重な情報」



「いや、まぁ……それは、追々ね。説明しますよ、はは」




 明らかに、怪しんだ瞳で神坂さんが見つめてきている。同じギルドの仲間になったことだし、そろそろ特定の人たちには『ダンジョン・サーチ』の存在を明かしてもいいかもしれない。

 いつまでも、情報通の知り合いがいるなんて言い訳は苦しすぎる。




「ちなみに……それって、どんな秘宝アーティファクトなの?」



「『懺悔ざんげタイマー』。懺悔の念を込めてタイマーのスイッチを押すと、その者が起こした一つの事件に関する全ての被害がリセットされる……らしいよ」



「全ての被害……それって、建物の損害とかもリセットされちゃうの?」



「使ってみないと分からないけど、そういうニュアンスで説明されてた。ただし、心の底から懺悔する気持ちで押さないと、かえって良くないことが本人に降りかかるらしいんだよね」




 つまり、苦労して秘宝を入手できたとしても、肝心の霊園さんに罪の意識がなければ効果は発揮されないということである。




「彼女は心底、後悔していた。あれが本心だったら、きっと秘宝は作用してくれるはず……だと、思ってる」




 不安げに言いながら、月森さんは神坂さんの顔をチラリと伺うと。




「まぁ……良いんじゃない。本人が反省してるかも、一目瞭然になるわけだし。被害が減れば、罪も軽くなる。分かりやすい」



「ナオ……!」



「……で、そのダンジョンの詳細は?」




 月森さんに喜ばれると、恥ずかしそうに顔を赤らめた神坂さんは話題を早く変えたいのか、俺に尋ねてきた。




「それが、アスレチック・ミッションなんだ。どんな内容かまでは、分からなくて」



「アスレチック・ミッション……珍しいね。レベルは?」



「レベルは3。高めだから、ただのアスレチック・ミッションじゃないかも。行くなら、用心するに越したことはない。月森さんが挑戦するっていうなら、俺は付き合うけど」



「ありがとう!私は、行きたい……あとは、は欲しいよね。アスレチックなら」




 俺と月森さんが示し合わせたように、残された一人に視線を移す。一年ローA最速のランナーに。




「はいはい!わかった、わかった……行けばいいんでしょ、行けば。お供しますよ!!」



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