封印

「我が一投いっとうは、稲妻の如く……光の速さで、撃ち出され。我が一投は、稲妻の如く……如何いかなるものさえ、止められず。我が一投は、稲妻の如く……あらゆるしきを、貫かん!」




 投擲フォームを取りながら詠唱を終えた植村は【目星】によって、敵の急所を看破する。すると、邪神のはらの部分にエネルギーの塊のようなものが見えた。おそらく、それが敵のコアとなる部分なのだろう。




乾坤一擲ステーク・エブリシング……」




 バチバチッと足下から彼の身体を伝って指先へと伝達され、手にした『デスブリンガー』を押し出す動力源に変わる。

 そして、その必殺の一投は放たれた。




轟雷砲マス・ドライバー!!!!!」




 ズドンッ!!!!




 一度は瓦解した触手の盾も徐々に再生しつつあったが完全に復元してしまう前に、光の速さで飛んできた短剣が隙間を縫い敵の急所コアを貫いた。




「オオオオオオン!!!」




 耳をつんざくような悲鳴をあげると貫いた部分から無数のエクトプラズムが放出され、それぞれの魂が元の人間の体へと還っていく。

 それは、吸収した魂を貯蔵しておく為の器官だったようだ。その生命エネルギーによって、邪神は無限の再生能力を保持していたのである。


 すると、自身の身体を維持できなくなったのか、原型を留められなくなった緑の肉塊にくかいがボコボコとうごめき始めた。




「いヤだ……死ニタクないィ……嫌ダぁあアア!!」




 消滅しそうな身体を執念で繋ぎ止めていた邪神は、暴走を起こして破壊光線を乱射していく。




 ドドドドドドドドドッ!!!




 理性を失っているのか標的などお構いなしにレーザーを撃ち込む邪神によって、いよいよ建物自体が崩壊しようとしていた。ランダムに放たれる破壊光線のせいで植村たちも迂闊に近づくことが出来ない。




「くそっ!あれで、倒せないなんて……どうすれば」




 万事休すと思われた、その時……一人の少女が、二階客席に現れた。




「“黄衣の王”よ、るべき場所に還りなさい!召喚者の名において、命じます!!」




 彼女……“霊園サダコ”は、持っていた魔道書を広げて叫ぶと、その本の中に吸い込まれるように邪神の体がおびき寄せられていく。

 霊園の強い意志と植村たちによって弱体化していたことが重なり、強制封印を実行に移すことが出来たようだ。




 ゴゴゴゴゴゴ……!!!




 半分まで本の中に吸い込むことに成功するも、ずっと封印されていた邪神の現世への執着は凄まじく肉塊からいびつな両手を生やすと、霊園の顔を掴んで魔道書から這い出ようとする。




「いや……いやああっ!!」




 彼女に何かあって封印が失敗すれば、再び邪神の暴走が始まってしまう。


 すると、いつの間にか彼女の両脇に二人の人影があった。“月森オボロ”と“神坂ナオ”の、二人だ。

 外での救護活動を終えて、戦場に戻っていたのである。




「神坂くん!一緒に、この本を閉じるぞ!!」



「はい!!」




 オボロが裏表紙を、神坂が表表紙を押していき、強引に魔道書を閉じて封印を完遂させようと試みる。




「ぬううううん!!」



「はあああああっ!!」




 オボロが筋肉を隆起させ、神坂が【韋駄天】の脚力を全開にして、少しずつ魔道書を閉じていく。


 しかし、邪神の手は霊園の首まで伸びて、彼女の意識を刈り取ろうとする。召喚者が気を失えば、封印は強制的に中断されてしまう。




「う……うぅ……」




 そんな彼女の窮地を救ったのは、月森ヒカルが手首から伸ばした二つのリボンだった。


 シュルシュルと邪神の両腕に巻き付いたリボンをヒカルが思い切り引っ張ると、霊園の首の拘束は解かれ彼女の意識は繋ぎ止められる。




「月森……さん」




 奇しくも恨みを抱いていた相手に助けられて、霊園サダコは改めて自責の念に駆られた。




「「いっせーの……!!」」




 バタンッ!!




 そして、最後の一息を合わせた二人の力によって、ついに魔道書は完全に閉じられた。邪神は完全に本の世界へと還されて、封印に成功したのだ。




「はぁ……はぁ……やったんです、よね?」



「ああ。これで、また誰かが呼び出さない限りは、表に姿を現すことは無いだろう」




 月森オボロは素早く魔道書を回収すると、ポケットから取り出した謎のテープで、ぐるぐる巻きにしていく。

 その様子を見て、神坂が尋ねた。




「それは?」



「封印の呪詛が込められた秘宝アーティファクト専用の保管テープさ。こいつは、危険すぎる……一時的に、超常事件対策課うちで預からせてもらうことにしよう」




 そこへ、リボンの力で二階に上がって来たヒカルが合流する。




「お父さん!」



「ヒカルか、良くやったな。まぁ、美味しいところは頂いてしまったが……それは、勘弁しておくれ」



「あの怪物は、何だったの……?」




 ヒカルの質問に答えたのは、霊園サダコだった。




「私が、魔道書から呼び出したの……月森さん。あなたへの恨みを晴らす為に」



「えっ!?」



「本当に、ごめんなさい……自分でも、何でこんなことをしてしまったのか。ここまで、大事になるなんて思ってもみなかったの!」




 罪を白状して泣き崩れる霊園の姿を見て、ヒカルは複雑な表情になりながらも静かに駆け寄っていったのだった。







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