オーバードライブ

 右手にメタリック・レッド、左手にメタリック・ブルーのカラーをしたクラブを掴み、くるんと器用に掌の中で回転させながら、月森は新武器の感触を確かめた。


 どんな武器でも扱える彼女の【適合者アデプタ】だったが、新体操の手具にもあるクラブの扱いに関しては、余計に自信があった。

 だからこそ、この合成武器を選んだといっても過言では無い。




「あとは……どれほどの、威力があるか」




 ふっと息を吐いた月森は、二本のクラブを構えながら邪神に向かって走り出した。

 その気配を敵も察知したようで、植村との交戦を一時中断するとフワリと宙に浮かび、走ってくる彼女に向けて破壊光線を放った。




「月森さん!!」



「……っ!?」




 植村の言葉で月森が咄嗟に身構えると、そこへ飛来してくる邪神のレーザー砲。

 まるで、野球のバッターがピッチャーの投げたボールを捉えるかのように、ギリギリのところで破壊光線にクラブを当てると、そこで強烈な衝撃が発生する。




 ドンッ!!




 なんと、『アルベリヒ・クラブ』は、叩きつけた光線に衝撃を与えて、天井へと弾き返してしまった。




 ガラガラッ




 天井の支柱が何本か切り裂かれ、パラパラと瓦礫が落下してくる中、月森は構わず間合いを詰めた。

肝こそ冷やしたものの、おかげで武器の威力は実証された……これなら、いける。と、彼女は確信したのだ。




「ハスター・リボン!!」




 両の手首から『ハスター・リボン』を飛ばして、宙に浮いた邪神のすぐ背後にある落下防止の柵に巻きつけると、すぐにリボンを縮めて反動を利用しながら一気に至近距離にまで迫っていった。さしずめ、スパイダーマンの蜘蛛の糸かのごとく。

 これによって、破壊光線の第二射が来る前に、攻撃射程圏内に入ることができた。




「はああっ!!」




 そこで、『アルベリヒ・クラブ』による一撃を与えようとするも、やはり触手の盾が瞬時に作られて、彼女の前に立ち塞がった。




 ガンッ!!!




 破壊光線さえも弾き飛ばしたクラブの衝撃を受けても、触手の盾はびくともしない。

 構成している一本一本の触手は柔らかく、それが逆に強大な衝撃を上手に逃がしていたのだった。





「七星剣術・二つ星……巨門メラク!!」




 そこへ、気の噴射を使って凄い勢いで宙へ突撃してきた植村が、遅れて肉壁に短剣を突き立てた。


 予想通り、その刃は敵の本体に届かず、逆にボコンと盛り上がった触手の盾が鉄槌のような動きを見せて、植村の体を弾き飛ばし地面へと送り返した。




「ぐ……っ!!」




 ドン!ゴロゴロゴロッ




 気を使用して、地面に衝突する際のダメージを緩和させながらゴロゴロと床を転がっていく植村。

 さすがの彼の自動回避を持ってしても、零距離反撃を完全に避けきることは出来なかった。




その時、急に敵は一瞬の麻痺状態に陥ると浮遊状態を維持できなくなり、ふらっと地面へ落下した。

 植村は突き立てた“巨門メラク”に、雷気を込めていたのだ。これによって、各種七星剣術には麻痺効果が付与される。




(これは、植村くんが危険を冒してまで作ってくれた好機……逃したくない!でも、どうすれば!?)




 二階席のふちに立ちながら、麻痺で動けなくなる邪神を見下ろし、彼女は頭を高速で回転させた。そして、意識は行き着く。自身の腰に巻かれた武器に。


 チラリと植村の姿に視線を戻すと、かなり遠くまで飛ばされていたものの、ダメージ自体は見受けられないようで、立ち上がる素振りを見せていた。




「私が、触手の壁を突破する!植村くんは、その隙を突いてフィニッシュの準備を!!」



「わ……わかった!」



「『イグナイト・フープ』……オーバードライブ発動」




 月森ヒカルが叫ぶと、腰に巻かれていたフープがギュルンと高速回転を始める。

 オーバードライブとは、秘宝や特殊武器などが持つ潜在能力を解放した先にある必殺の一撃。

 本来ならば、その武器を使い込んで熟練した者だけが発動できるものなのだが、このフープはそうした手段をすっ飛ばして、発動させることが可能となる。




「『アルベリヒ・クラブ』……最終演舞グランド・フィナーレ!!」




 とんっと二階から飛び降りて、彼女は黄金に輝き始めるクラブを構えた。

『イグナイト・フープ』によって、『アルベリヒ・クラブ』の潜在能力が解放されたのだ。



 しかし、邪神も麻痺状態から解放されると、ゆっくりと立ち上がり、触手の盾を展開した。




「……“ラインの黄金”!!!」




 ズドンッ!!




 両のクラブを同時にぶつけて、黄金の衝撃が発生すると、光の波紋がアリーナに広がっていく。

 その特殊な衝撃は、触手の一本一本に微細な振動を与えていき、その




 バラバラバラッ




 崩れ落ちていくように、盾がその形を保てなくなると月森は、後方で準備をしてくれているはずの仲間へ合図を出した。




「植村くんっ!!」




【虚飾】が、【ヒプノーシス】rank100に代わりました




「自己暗示:一投強化……!」




 敵の触手の性質上、一度は瓦解できたとしても、すぐさま結合を再開させて元に戻ってしまっては、月森の努力が水の泡だ。

 この距離から一瞬で確実に、敵の息の根を止めるには、高速の投擲技を急所に狙い撃つのが最も有効だと彼は考えたのである。




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